助演男優賞 | ナノ 03


 有言実行。
 シカマルはやると言ってしまったので、サイに声をかけてナマエのための飲み会が決行されることとなった。

「悪い、遅くなった。」

「おー!シカマル!久しぶりだってばよ!」

 シカマルが軽い気持ちで開催した飲み会はいつの間にか少し話が大きくなり、主催者の手を離れていた。
 適当な居酒屋を探すつもりが、大学近くのナルトの家で宅飲みとなった。メンバーはナルト、サイ、キバ、サクラ、タマキに、シカマルとナマエの7人だ。サクラとはほぼ皆同じ高校な上に、サクラはサスケしか見えてないので、ナマエが経営学部の友人で美人なタマキを連れてきていた。

 シカマルは主催の責任もなくなったので、飲み会の前にバイトのシフトを入れた。思ったより遅くなってしまったので、もうすでに会場は温まりすぎているほど温まっていた。ナルトはサクラの隣をキープし2人で相変わらず夫婦漫才のようなやり取りをしているし、キバはタマキといい雰囲気だ。

 ――ってちょっと待て。

「人数足りなくね?ナマエとサイはどうした。」

「あの2人なら今買い出しよ。」

「そういえば遅いね。」

 サクラとタマキが言う。シカマルはまじかよと思った。

「まあ座れって。シカマルが俺んち来るの久しぶりじゃねーか。」
 
「ほーんと、付き合い悪いんだから。……今日だってナマエがいたから来たんでしょ。」

 サクラがこそっとシカマルに耳打ちすると、シカマルは嫌そうな顔をした。

「んなんじゃねーって。まあ今回はナマエに頼まれたからだけど。」

 シカマルはサクラの邪推を軽く受け流した。女同士の情報共有は光より早く、ヘタなことを言うとあっという間にナマエへの気持ちがバレかねない。

「いつの間に仲良くなったのよ。」

「別に普通だろ。いの経由で話すようになっただけ。」

 机に乱雑に並べられた缶の中から、未開封のビールを適当に取るとプシュっとプルタブを開けて煽った。

「そういえば今日いのは来てないのね。なんか用事あるって言ってたっけ。」

「あーそうだな。」

 ――まああえていのが用事ある日にしたわけだが。

「ただいま!」

「シカマル、遅かったね。」

 サイとナマエがコンビニの袋を下げて帰ってきた。甘い酒とスナック菓子、から揚げやらを机に並べながら、ナマエはほんのり赤い顔でにこにこしていた。

「お前、結構飲んでんな。」

「んー?」

 ナマエは自分の頬を触りながらにこにこして誤魔化した。シカマルはナマエと何度か酒を飲んだことがあるが、あまり強い方ではなかったはずだ。
 ナマエとサイは机に買ってきたものをすべて出し終えると、隣同士に座ってクスクスと小声で話している。ざっくりとしたニットのカーディガンを羽織ってミニスカートを履いたナマエは、特別気合が入った格好には見えなかったが、似合っていてやはり可愛かった。シカマルはそんな2人の様子を見て、目論見を間違えたかと内心焦りながら酒を飲んだ。





 それから1週間後、シカマルは学内を同じ学部の友人と歩いていると、シカマル!と高い声で呼ばれ同時にぐいっと後ろに腕を引っ張られた。
 シカマルはえ、と思いながら引っ張られた後ろの方向を見ると、声の主であるナマエがいた。シカマルの友人たちもナマエを見て驚いている。愛想が良く距離も近いが、あまりべたべたボディタッチをするタイプではないので、シカマルの手首をつかむナマエに驚いた。

「なんだ、どうした。」

「ちょっとだけ!……シカマル借りてもいいですか?」

 シカマルの友人たちに許可を取ると、突如現れた派手な女子に圧倒された友人たちはドウゾ……とどぎまぎして答えた。シカマルをそのまま引っ張ると、たまにカップルがイチャついている廊下の謎の窪みスペースにシカマルを押し込んだ。シカマルの友人たちはシカマルたちの様子を遠目で見ながら、シカマルあんな子と知り合いなのかとコソコソ言い合った。

「シカマル知ってた?サイといのって付き合う寸前なんでしょ?」

 ナマエはシカマルを見上げていつもより早口だった。シカマルはなるほどそのことかと落ち着いていた。

「らしいな。昨日とか?くっついたって聞いたけど。」

「ちょっと!いい感じならそれ先に言っておいてよー!危うく友だちの彼氏と浮気するところだったじゃん!」

「先週の飲み会企画した時は知らなかったんだよ。」

 ――本当は知ってたけど。

 シカマルはいのとサイが両想いで、ほぼ付き合うのが確定していたことをたまたま知っていた。いのと近所に住んでいるので、たまたま家までいのを家まで送り届けるサイに出くわしたのだ。だからこそナマエにサイを紹介してやってもいいと思った。ナマエがいいと思ってもサイは振り向かないだろうし、何よりいのの彼氏を奪うようなことをナマエはしないと思った。

 シカマルはいずれ本気でナマエを手に入れるつもりだった。そのためには多少汚い手を使っても構わないと思っている。
 ナマエは恋愛に対して奔放だし、多少痛い目を見たりして泳がせて最終的に自分のもとにくればいいとシカマルはそこまで考えていた。ナマエの軽い失恋は計画のうちだった。

「いのと友だちのくせにサイのこと聞いてなかったのかよ。」

「サイだってことは教えてくれなかったから。いい感じの人がいるのは聞いてたけど。」

「まあ良かったんじゃねーの。まだセーフだろ。」

「……まあそっか。そうだよね、いのと付き合ったの昨日だし、ちょっとだけ手出しちゃったけどサイも黙ってるだろうし。」

「……は?」

 ナマエが危なかったーと安心した顔をするのを見ながら、シカマルは聞き間違いかと思いながら頭を整理した。

「いやいや!ちょっとチューしちゃっただけ!流れで?でも酔ってたしノリだよね。セーフ!」

 ――いやいやじゃねーよ。手出してんじゃねーか。

 シカマルは頭を抱えそうになった。飲み会の時はサイさんと呼んでたのに、いつの間にか呼び捨てになっていて少しおかしいとは思っていた。
 
 ――本当にこいつ、思い通りに動かない。

 今度は身辺調査をしっかりしてから挑まなきゃねといつもの顔で笑うナマエを見下ろしながら、思ったよりこいつを手に入れるのは困難だぞとシカマルはげんなりした。

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