助演男優賞 | ナノ 01


 シカマルがナマエと出会ったのは大学1年の秋だ。法学部の男たちといつもより厄介な課題を協力してやっていたところに、いのが来たところから始まる。

「シカマル。」

「シカマルの彼女来たぞ。」

「彼女じゃねーつの。」

 大所帯だったので図書館でやるにはうるさくなってしまう。そこで、皆資料を集めてパソコンを持ち寄り大学内のカフェテリアで作業していた。
 シカマルを見つけたいのがシカマルを呼んだ。いの的に「モテなさそう」な友人の1人がシカマルの彼女が来たと騒いだが、いのは無視し、シカマルが一蹴した。

「相変わらずシケたキャンパスライフ送ってんのねー。」

 いのはスマホを片手にシカマルのまわりにいる男だらけの集団を一瞥して言った。

「ほっとけ。で?」

「お父さんがシカマルとおじさんに会いたいんだって。予定出して。」

「んなもんDMでいいだろ。」

 シカマルといのは幼なじみで、いのの父親とシカマルとシカマルの父親は将棋を指したり本を貸し借りしたりといの本人より親密だった。
 いつもは父親同士で連絡を取り合ったり、いのからシカマルへSNSのDMが送られてくることがほとんどだったので、直接いのがシカマルのもとへ出向くことは今までなかった。

「たまたま見かけたのよ。」

「あっそ。そうだな……親父の予定が変わってなければ、ここか、ここだな。」

 シカマルはスマホのスケジュールアプリを開いていのに見せた。

「オッケー。ってあんたバイトばっかりじゃない!」

 シカマルが見せたスケジュールには、掛け持ちしているバイトであろうシフトでびっしり埋まっていた。

「あ?別にいいだろ。知り合いの店だから頼まれんだよ。」

「あんたねー……そうだ!ちょっとこっち来なさいよ。」

 いのが良いことを思いついたとニヤリと笑ったので、シカマルは嫌な予感がした。いのがこの顔をする時はだいたいろくなことじゃない。

「は?俺まだ課題の途中なんだけど。」

「いいからいいから。シカマル絶対気に入る。」

 いのはニヤニヤしながら、シカマルを手招きした。めんどくせーと思いながら、シカマルはいのの後をついて行く。目的地はすぐ近くで、同じカフェテリアのもっと開けた場所だった。

「ナマエ、」

「いの、用事済んだの?ってどなた?」

 カフェテリアの一席でスマホをいじっていたのはナマエと呼ばれた女だった。
 服装はミニ丈のシャツワンピースにニットベスト、ロングブーツ。長い髪は茶色に染まっているのにツヤツヤですとんと下ろされている。きゅるんと光るナチュラルな色のカラーコンタクトが入った瞳を縁取るのはパッチリ上がったまつ毛。丸眼鏡をかけているが、いわゆるガリ勉のそれではなくおしゃれなものだ。顔も小さいし口も小さい。簡単に言えば今時で可愛らしかった。

「たまに話すでしょ、幼なじみの奈良シカマル。」

「あー!例の!こんにちは。」

 ナマエはいのの少し後ろにいるシカマルをひょこっと覗くと、ぱあっと明るい笑顔で挨拶した。シカマルは自分のまわりにはいない圧倒的陽キャのナマエに内心たじろぎながらも「どーも」と言った。

「わたしはいのと同じく経営学部のみょうじナマエ。シカマルくんは何学部?」

「法学部っすけど。」

「法学部!頭いいんだ。」

 かなり規模の大きな木ノ葉大学は、法学部が有名で理系を除けば圧倒的に偏差値が高い。ナマエといのが所属する経営学部は大学内じゃ偏差値が低い方だった。

「そうなの、シカマル要領いいのよ。」

「英語とか共通講義の時教えてよー。」

 初対面にも関わらずナチュラルに距離を詰めるナマエのコミュニケーション能力に驚かされながら、「いいけど」とシカマルは言った。

「助かる!小テスト、過去問もらってもたまーに追試なの。」

「あのテスト追試受けてるやつ初めて見た。」

「失礼すぎ。めちゃくちゃいるわ。」

 ナマエはシカマルにツッコみながら、わざとらしく怒った顔をした。上目遣いで睨まれ、シカマルはちょっと可愛いなと思った。

「いの、タマキの講義終わってる!もう待ってるかも。」

 ナマエが文字盤の大きな腕時計を見て立ち上がった。

「あら本当だ。じゃあシカマル、おじさんに伝えておいてよ。」

「ああ。」

「シカマルくん、またねー!」

「シカマルでいいよ。」

 いのが呼び捨てでいいと言うので、それは俺のセリフだとシカマルは思ったが言うのはやめておいた。
 ナマエといのが2人で去って行く。カフェテリアの通路を颯爽と歩く2人はキラキラと目立っていた。経営学部は派手な格好の学生が多いが、その中でもいのとナマエはかなり目立つ方だろうなとシカマルは思った。

 挨拶はしたものの、それだけで終わるなんてことは大学内のコミュニケーションとしてよくある話で、シカマルはナマエとはこれきりだろうとこの時は思っていた。

 ところが、シカマルの想像よりナマエは気さくで積極的だった。カフェテリアで見かければ、わざわざ近寄ってきて空いてる席に座っておしゃべりして去って行くし、学部を超えた共通講義の時は隣に座ってきたりもする。
 そんなわけで、シカマルの「シケた」キャンパスライフはほんの少し華やかになった。

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