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いのはひとりでカフェテリアにいた。特にこれといって目的はないが、スマホを片手にSNSをチェックしたり、迷惑メールを削除していると、待ち合わせていたナマエとタマキがやってきた。
「おまたせ!」
「ちょっと、ナマエ!タマキも。早く座って。」
ナマエはカフェテリアの薄い飲み物ではなく、駅前のコーヒーチェーンのカップに口をつけながらふふと笑った。タマキもニヤニヤしている。
「あー外寒かった。」
「そんなことどうでもいいわよ。早く全部吐いちゃいなさい。」
いのはスマホを裏返しに置くと身を乗り出した。
「無事、シカマルと付き合いました。」
「……いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずおめでとう。」
「おめでとうー!」
タマキもパチパチと小さく拍手しながら祝福した。いのはすぐに、で!と続けた。
「紹介したわたしに相談がないのは何なのよ!」
「えへ。」
「可愛く笑ってもダメよ。ナマエがまさか本当にシカマルと付き合うなんて……!昨日DM来た時びっくりしたんだから。」
「意外かな?」
「くっつけばいいなとは思ってたけど、やっぱり意外ね。」
シカマルを鼓舞していたものの、ナマエとシカマルがまさか本当に付き合うとはいのも思っていなかった。
「そう?……わたし一番最初に会った時から、実はかなりいいなと思ってたんだ。」
「ええ!?そうなの?言いなさいよ!ていうかああいうのがタイプだったの知らなかったわ。」
「タイプっていうか……。てかシカマルってたぶん社会人になったらとんでもなくモテるタイプだと思うよ。……いや本当。贔屓目なしに。」
「あー仕事できそうだしね。言いたいことはわかるかも。」
タマキも同調するが、いのは幼なじみだからかあまり腑に落ちていないようだった。
「男の人って手に入れたら満足しちゃう人多いじゃない?わたしシカマルには結構「ガチ」だったから、ゆっくり時間かけて好きになりたかったし、好きになってほしかったの。」
「あんた、シカマルと知り合ってからも結構コンパとか行ってたじゃない。」
「それはそれ。一本釣りを狙いながら地引網漁したっていいでしょ?」
ナマエはくいっと魚を釣るようなジェスチャーをした。一本釣りがシカマルで、地引網漁はコンパのことを言っているようだ。
「何よその渋い例え。」
「わたしは夏に海行った時、ナマエから漏れるシカマルへの気持ちになんとなく気付いたけどね。」
「タマキにバレるとかまだまだだわ。……あ、シカマルから連絡きてる!ちょっと行ってきていい?」
「「ドーゾ。」」
ナマエは立ち上がって、カップとスマホを持った。1歩踏み出したところで、くるりと2人へ振り返る。
「……あ、シカマルには今の話内緒ね!」
ナマエは手を振ると、学生がひしめくカフェテリアの通路をさっそうと歩いた。ナマエが歩けば、威圧感もないのに自然と人が避けるように1本道が出来上がる。グレーのグレンチェックのミニワンピースは、暗い色なのにひときわ目立った。
「ナマエってホント主人公よね。」
「わかる。」
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