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シカマルとナマエが喧嘩をしている間に学祭は終わった。
シカマルの日常は、たこ焼き屋のテントを片付けて打ち上げをすればすぐに戻ってきたし、忙しくしていたナマエも学祭終わりの処理が終わると少し遅れて日常に戻っていた。
シカマルは何度かナマエに連絡をしようかと迷い、学内で見かけたら声をかけようと思って2週間が過ぎていた。学部も学科も違うナマエと偶然会うことは意外と困難だった。
「シカマル、最近あのギャルといねーのな。」
「ギャル?ああナマエか。言うほどギャルじゃねーだろ。」
「少なくともうちの学部にはいないだろ。」
同じ学部の友人にまでナマエと距離が空いていることを勘づかれている。
――どうしたもんかね。
シカマルはナマエとの関係が、ナマエのおかげで成り立っていたことを実感した。なんだかんだ接点は多くない2人がこの広いキャンパスで何度も会えていたのはナマエからシカマルに連絡し誘っていたからだ。
今回こそはシカマルは自分が行動しないとナマエとの関係が終わると思った。
ナマエといのは、経営学部の必修科目を受けるために廊下を歩いていた。
1限が終わり、眠そうな学生の間をすり抜けて、2人はカツカツとブーツを鳴らして歩く。
「いの、今日は3限あるんだっけ。」
「あるわよ。ナマエが面倒くさそうって取らなかった情報系。」
夏休みが終わってから時間割が変わったため、お互いの時間割をまだ把握しきれていなかった。
「そうだった。わたしも取っておけば良かったかな。昼休みから4限まで暇だわ。」
「ほら言ったじゃない。あんた課題やったりするのにちょうどいいからとか言ってなかった?」
「言った。もう後悔してる。」
「まぁいいじゃない。誰か捕まえてゆっくりお昼でも食べなさいよ。……シカマルとか暇なんじゃない?」
ナマエはシカマルという単語にピクリと反応して、嫌そうな顔をした。
「シカマルとは喧嘩中でーす。」
「……はぁ?喧嘩?あんたらいくつよ。」
いのは驚いた。シカマルもナマエも誰かと喧嘩するタイプではない。シカマルは面倒くさがりやだし、ナマエも喧嘩するくらいならば距離を置くドライなタイプだといのは認識している。
「だってさぁ……。」
ナマエといのは目的の教室に着いた。一番後ろの席で友人たちが「いのーナマエー」と手を振っていたが、いのは「こっち座るから」とハンドサインで伝えた。ナマエといのは真ん中あたりで、空いている右端の席に座った。
「え、ないよ。話すこと。」
「なんで喧嘩したのか教えなさいよ。」
「なんで喧嘩したのかわかんないんだもん。」
「そんなわけないでしょ。」
「ないってば。お互い大した理由もないのに喧嘩腰になっちゃっただけ。シカマルって何考えてるかよくわかんないんだもん。」
ナマエはむすっとした顔のまま、終わりと言うように教科書とペンケースを机に置いた。
「シカマルは結構わかりやすいと思うけど。」
「それはいのが幼なじみだからでしょー。」
その時、座っていたナマエの横に人が立ち影ができた。ナマエといのは反射的に顔を上げた。
「席詰めろよ。」
噂をすれば影が差すとはこのことで、シカマルだった。いのはシカマルを見て驚いた後ニヤニヤしだした。
「はいはい、1つ詰めればいいんでしょ。わたし別の席移動しようか?」
「いらねー気まわすな。」
いのが立ち上がって席を1つずれた。ナマエはシカマルを見上げたまま混乱している。
「え、これ経営学部の必修だけど。」
「経営学びたくなったんだよ突然。ほら、」
シカマルはナマエに目線で席を空けろと伝えると、しぶしぶといった感じでナマエも席をずれた。ナマエが先ほどまで座っていた席にシカマルが座った。
いのは口を出したくなったがぐっとこらえて、2人が何を話すかワクワクしながら黙っていた。
しかし、シカマルもナマエも口を開かず、数分して教授が来て授業が始まってしまった。
――何やってんのよ、シカマルー!
いのは授業中気が気じゃなかったが、それはナマエも同じだった。授業内容を懸命にノートに取るようなふりをして、隣で教科書もノートもなくぼーっと授業を聞くシカマルを意識しないようにした。
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