助演男優賞 | ナノ 10


 シカマルは高校時代のことを思い出していた。
 
 シカマルは高校2、3年生の時にサスケと同じクラスだった。もっと言うと、サクラもナルトもいのもチョウジもキバも同じクラスだった。1学年8クラスあるうちの2クラスは文理合同で、それがシカマルの所属するクラスだった。
 
 サスケは学年で1番、下手したら校内で1番モテていたから、数々の女子が告白し散っていったのは噂で聞いていた。高校2年の冬に数年付き合っている彼女がいると周知された時は学内が揺れるほど騒然とした。そして、高校3年の受験シーズンに別れたと噂が出回った後は、記念受験よろしく卒業式にサスケに告白する列ができたとかなんとか。

 ――まさかその彼女ってのがナマエだとはな。

 世界は狭いなとシカマルはハァとため息を吐いた。自分が好きな女の元彼氏はあのうちはサスケ。いのが「サスケくん中3から付き合ってる彼女がいるんだって!」と騒いでいたその相手こそナマエだった。

 シカマルは、面白さを何ひとつとして見出せない映画サークルの短編映画を視界に入れながらぼーっとした。

 ――くだらねー嫉妬でナマエと喧嘩しちまった……。

 ナマエが本当に「元彼と切れてない」とは思っていなかった。ナマエはサスケに対して素っ気なかったし、頻繁に会っていたり連絡を取っているような感じもなかった。それでも、我愛羅といいサスケといい、ナマエのまわりにはいつも誰かしらが――しかもイケてるやつが――椅子取りゲームのようにぐるぐる回っているようで、そのたった1つの席が埋まってしまうのではないかとシカマルは気が気じゃなかった。シカマル自身、その椅子取りゲームに参加さえしてないくせに文句を言う筋合いがないのはわかっている。

「シカマル、そんなに面白い?これ。」

「……面白くねーよ。」

 専門学校へ行った幼なじみのチョウジが大学に遊びに来てくれているというのに、シカマルはずっとぼーっとしたままだ。親友のチョウジにはそれがいつものぼーっとと違うことはわかっていた。

「なんか悪いな。大学の学祭なんてそんな面白くもねーだろ。」

「いやいや、美味しいものいっぱい食べられたし良かったよ。じゃーねシカマル。」

 夕方から用事があるというチョウジと早めに解散して、シカマルはひとり暇になった。チョウジは何も聞いてこなかったが、シカマルが悩んでいることをわかっていただろう。
 シカマルは最後に所属するサークルのたこ焼き屋に顔を出してから帰ろうと思った。きっと誰かしら知り合いがいるはずだ。

 学祭ではしゃぐ大学生や、外部から来ている高校生などの間をくぐり抜ける。今日は一般公開日なので、昨日とは比べ物にならないほど人が多かった。
 人混みにまみれながら中庭のたこ焼き屋まで着くと、そこにもたくさんの人がいた。シカマルは今日シフトに入ってなくて良かったと心の底から思った。

「よお、繁盛してんな。」

「シカマル!お前も手伝え!忙しすぎてやべえ!」

 キバが腕まくりしながらたこ焼きを丸めているので、シカマルはニヤニヤしながらそのヘルプを無視した。
 盛況のたこ焼き屋には、昨日はなかった臨時飲食スペースがてきていた。瓶ジュースのケースを椅子として使っていたりもする。何でもありだなとシカマルは思った。

「あ、」

 その瓶ジュースのケースに、目立つ赤いマウンテンパーカーを着たナマエが座っている。ナマエはたこ焼きを食べずにタピオカミルクティーを飲んでいた。
 シカマルの声が聞こえたのか、ナマエが顔をあげてばっちりと目が合った。ナマエはまだ怒っているのか、いつもなら手を振ったり声をかけてくるにも関わらずシカマルをじっと見返しただけだった。

 ――たしかに昨日は俺の方が感じ悪かったよな……。

 ナマエが怒るのも無理はないと思っていたので、シカマルから歩み寄ろうとナマエの席の方まで行くと、隣に同じマウンテンパーカーを着た我愛羅がいたことに気付いた。でも嫉妬している場合ではなかった。

「あー……ナマエ、あのよ、」

「シカマル?」

 ナマエと我愛羅しか見えていなかったシカマルは、我愛羅の向かいに座っている女性にまったく気が付かなかった。というより、他の学生の影に隠れて見えていななかったのだ。

「……テマリ?」

 シカマルは心臓が止まるかと思うほど驚いた。高校時代に付き合っていた、シカマルの初であり現時点で最後の彼女だったテマリがいた。会うのは2年ぶりだった。

「……お前はテマリの、」

 我愛羅がぽろっと言葉を漏らした。ナマエは言葉を発した我愛羅をチラっと見てまたタピオカミルクティーを吸った。シカマルはなぜ我愛羅が自分を認知しているのかもわからなかった。シカマルが我愛羅を不思議そうに見ていたからか、テマリが我愛羅を紹介した。

「久しぶりだな。わたしの弟だ。……昔うちの近所で一緒にいるところを見たことがあるらしい。」

「どうも……。」

 テマリに弟が2人いることは知っていたが、シカマルは我愛羅を知らなかった。しかし、我愛羅は高校時代にテマリとデートするシカマルを見たことがあるらしかった。ナマエのSNSにたびたび登場していた我愛羅は元彼女の弟だった。複雑怪奇、世界は狭い。

「元気そうだな。」

「お前もな。」

 テマリはシカマルにニッと笑うと、たこ焼きの入っていた舟と割り箸を捨てて立ち上がった。

「じゃあ我愛羅、わたしはそろそろ時間だから行くよ。ナマエもありがとうな。」

「こちらこそ。」

「ああ。」

 ナマエと我愛羅はテマリに別れを告げた。テマリは最後にシカマルにも手を挙げて挨拶して颯爽と人混みへ消えていった。

「じゃあ我愛羅、わたしたちも行こうよ。」

 ナマエはシカマルなど見えていないかのように、当てつけのように我愛羅の腕を取って引っ張った。我愛羅もナマエにつられて無言で立ち上がる。
 ナマエが行ってしまう前に、シカマルは一言「昨日は言い過ぎた」と言わなければと思った。

「ナマエ、」

 シカマルは歩き出して後ろを向いたナマエの肩に手を置いた。シカマルからナマエに触れたのはこれが初めてだった。
 ナマエは振り向いて、シカマルを冷めた目で睨んだ。

「「元カノと切れてねー」人に、何も言われる筋合いないけど。」

 ナマエはそれだけ言うと、我愛羅を引っ張って校舎の中へと入っていった。

 ――どうしてこうなる。

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