08
シカマルとナマエは一度ライブに行ったくらいで、夏休みに会うことはほぼなかった。ナマエは夏休み明けに催される木ノ葉大学祭の実行委員で、夏休みでも大学に行きそこそこ忙しくしているらしかった。
シカマルとナマエは時々SNSのDMでやりとりし、お互いが元気で何をしているかは報告していた。
「またこいつかよ。」
シカマルは思わず独り言を言っていた。バイトの休憩中にお昼ご飯を食べながらスマホをいじっていると、SNSでナマエが写真を上げているのを見つけた。
学祭準備の集合写真はいいとして、その集団から抜けていつもある男とカフェテリアで作業をしている。その男が作業をしている正面でナマエがキメ顔で自撮りをし、「学祭たのしみ」だとか「休憩させてくれなくて草」だとかふざけた写真を親しい友人の限定公開でアップしている。
シカマルはその男を見たことがなかった。赤い髪で色白で、顔の整ったやや童顔の男。木ノ葉大学の同級生なのだろうが、これだけ多い学生数で全員を把握するのは不可能だった。ナマエがシカマル以外で個人的に男友だちと仲良くしているのを見たことがないし、SNSに男が登場するのも珍しい。
――俺と行ったライブの写真とかは上げねーくせに。
シカマルは不貞腐れた。この男はSNS映えするが自分はしないってことか。誰なんだよこいつと思いながら、ゴクッと紙パックのお茶を飲み干した。
夏休みが終わって久しぶりに大学の門をくぐると、学祭一色になっていた。夏休み中にいろんなサークルが打ち合わせや準備を進めていたらしく、いろんな空き教室が埋まったり、映画サークルがカメラを回していたりする。
シカマルはナルトに誘われてとりあえず入ったオールラウンドサークルが出店をやるとは聞いていたので、当日の手伝いだけは参加する予定になっている。焼きそばだかたこ焼きだかを作って売るらしく、出店場所を決めたり食材を用意したりといった事前の準備はすべて他の人がやっているらしかった。
ポケットに入れたスマホがブルっと震えた気がして取り出した。SNSのDMが来ているという通知で、アカウント名が頭しか表示されていないが、おそらくナマエのものだ。スワイプしてメッセージを開いた。
――「今日のお昼一緒に食べない?」
――「いいけど。」
――「じゃあB棟の学食のオレンジ色のイスゾーンで食べよ。」
――「了解。」
ナマエからシカマルを誘ってきたので、あの赤い髪の男のことを聞こうと思った。
「シカマル!久しぶりー。」
「よう。」
ナマエはぴったりサイズのブランドのTシャツにジーパンを履いてラフな格好で登場した。三つ編みにした髪が左右に垂れていていつもより活発な印象だった。ナマエは学食の1つであるチェーン店のハンバーガーとポテトを置いた。
「ライブぶり?だね。」
「そうだな。」
「バイトしてた?」
「ああ。お前は学祭準備忙しそうだな。」
「そうなの、思ったよりハード。でも就活でもしかしたら言えるかもしれないし頑張っとく。」
ナマエはポテトを食べながら言った。シカマルは日替わり定食を食べている。
「あいつ誰?あの赤い髪の。」
シカマルは遠回しに聞こうと思っていたのに、ぽろっとストレートに言葉が出てきてしまい少し後悔した。ナマエはああ我愛羅ね、と笑った。
「我愛羅?何学部?」
「理学部だったかな。キャンパス違うからまじの初見だよね。……我愛羅って天然っていうのかな?なんかめちゃくちゃ真面目で面白くてさー。」
ナマエが我愛羅を思い出してクスクス笑っている。シカマルはそれが面白くなかったが、顔には微塵も出さなかった。
「理学部はたしかに会わねーな。」
「理系って授業忙しいけど、向こうのキャンパスと学祭は合同だからやっぱり理系の代表が必要みたいで。我愛羅はたまたま運悪く実行委員になっちゃったんだって。」
「ふーん。」
「シカマルはタピオカだっけ?」
「なんか粉物だった気がする。」
「そうなんだ、食べに行くね。」
「俺たぶんそんな手伝わないけど。」
「……あ、ごめん電話だ。」
テーブルの上に乗っていたナマエのスマホがブーっと震えた。画面には我愛羅と書いてあった。
「もしもし、どうしたの?めずらしいね。……うん、……そうなの?……じゃあ今日はそっち行くよ。4限までだから全然。」
ナマエが電話をしている間、シカマルは定食を食べ終えた。どうやらナマエは今日もその男と会うようだ。正直面白くない。
「あははは!もー笑わせないで。……いいよ。また後で。」
ナマエが電話を切ると、ごめんねと言った。
「別に。今日も準備かよ。」
「そうなの。向こうのキャンパスの模擬店の場所のことでなんか揉めてるみたい。我愛羅板挟みで可哀想だし行ってくる。」
「そんな近かったか?」
「電車で1時間しないでしょ。いつもこっちのキャンパス来てくれるから、たまにはね。」
シカマルは、ナマエが我愛羅をどう思っているのか知りたかったが、なんと聞いていいかわからなかった。いつもは男の話になると聞いてもいないのにいい感じとか好きかもとか言ってくるのに。
聞けないままもうお昼休みが終わってしまう。
「そろそろ時間だ。またね。」
「あ、あのさぁ、」
「ん?」
「頑張れよ、そいつといい感じじゃん。」
シカマルは心にもない言葉が出て後悔した。でも、言った手前もう引っ込められない。本当はその男がどう思っているのか聞きたかったのに、探るような言葉で試してしまう。駆け引きが下手なのに。
「我愛羅のこと?」
ナマエは立ち止まってシカマルを真顔で見つめ返した。シカマルはコクリと頷いた。
「カカシ先生にも言われたんだけど、もう焦らないことにしたの。今はギラギラ恋愛モードお休み中。」
ナマエはニコリともせずに言った。いつも表情豊かなのに珍しく、シカマルは怒らせたかと内心ヒヤヒヤした。それに、とナマエは付け足した。
「我愛羅は友だちだよ。……シカマルみたいな感じ。」
ナマエはそれだけ言うと、じゃねと言って去っていった。シカマルは何も言えずナマエの後ろ姿を見送った。
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