七
ナマエが夕方から木ノ葉病院で働いていると、同僚の看護師に急患ですと呼ばれた。
「リーさん!大丈夫ですか?」
そこには、ネジに支えられたリーがいた。任務帰りのようで、服は汚れていて腕や脚から血が出ている。
「ええ、かすり傷なんですが、ネジとガイ先生が病院に行けと聞かないもので。」
「重症ですよ……!こちらへ。ネジさん、このまま手伝っていただけますか?」
「ああ。」
リーは強気に笑ったが、とてもかすり傷と呼べるような怪我ではなかった。護衛任務の際に、背後からの敵襲でとっさに護衛対象を体で守ってしまったらしい。ナマエ1人でリーを運べないので、このままネジにも手伝ってもらうことにした。
「ひとまず止血はして損傷した部分は回復させています。でも無理はしちゃダメです。」
ナマエはチャクラで止血したり、患部を縫合して、包帯を巻いていった。幸い、神経を傷付けるような怪我はなかった。
「ありがとうございます!ナマエさん。」
「ネジさんも手伝っていただいてありがとうございます。」
「班員のことだ、構わん。」
病室の端で壁に背を預けて立っているネジに声をかけると、ナマエはネジの脚を見ておや?と思った。
「あれ?ちょっと見せてください。」
「いや、これは……。」
ナマエがネジの足元にしゃがみ込むと、ネジは脚を引くように動いたが、ナマエはネジのふくらはぎを触った。
「ふくらはぎの筋肉が痙攣してます。……こんな状態なのに手伝わせてごめんなさい。」
ナマエは気付かないうち、怪我人に怪我人を運ばせていたことを悔いた。ナマエが申し訳なさそうにすると、ネジは涼しい顔でナマエを見下ろした。
「別に大丈夫だ。術を発動する軸足がたまにこうなる。放っておけば治るから気にするな。」
「だっだめですよ。筋肉を酷使しすぎなんです。そちらへ横になってください。」
ナマエが立ち上がってネジに真剣に言うと、ネジは降参したかのように、じゃあお願いしようと言って、ベッドへうつ伏せになった。
「チャクラを流して筋肉の痙攣を止めます。あとは今後なりにくいようにリンパを流します。」
ナマエがチャクラをためた手のひらを当てると、筋肉の痙攣は止まった。そのまま、ナマエはチャクラを止めてふくらはぎの筋をなぞった。
「医療忍者というより整体師だな。」
ネジの言う通り、これは医療ではなくマッサージに近かった。
「無茶する人ばっかりだから、覚えられることは覚えておこうかなって。」
ナマエは、ボロボロになるまで戦う下忍の頃の幼なじみを思い出した。下忍になったサスケには距離を置かれていたので、自分がサスケの役に立ったことはなかった。しかし、どこか任務や修行に行ってはキャパシティ以上に体を酷使する彼を見て、医療忍術や整体、マッサージまで勉強するようになった。とうとう彼に使うことはなく、里を抜けてしまったが。
ナマエが少し寂しそうな顔をしたので、ネジはうつ伏せの状態で横目に何もかもを見透かすような瞳でナマエを見つめていた。少し後ろめたいような気持ちになって、ナマエは話をそらした。
「こことかを押すと、眼精疲労に効くのでいいですよ。」
ナマエは失礼しますと言って、横向きのネジの髪を耳にかけると、こめかみの部分を軽く押した。ナマエはヒナタと同じ髪質でサラサラだと内心感動していた。
「瞳術を使う方の目への負担は大きいですから。気休めでもやらないよりいいです。」
「そうか、ありがとう。」
「いえ。癖になるので軽い症状でも病院に来てくださいね。」
ネジは上体を起こすと、ふくらはぎの動きや痛みを確認して納得したようだった。
「ナマエのことは、ヒナタ様からよく聞いている。仲が良いようだな。」
「アカデミーのころから仲良しなんです。わたしもネジさんのことは聞いています。修行をつけてもらって感謝してるって。」
ナマエは、アカデミー時代や下忍時代のヒナタをそばで見ていたので、あまりネジの印象は良くなかった。ヒナタは詳しいことは言わなかったが、家のことや従兄のことで苦しんでいるのはわかっていた。ナマエが出ていなかった中忍試験では、ネジの手でヒナタは重症を負っていたと後から聞いて、かなり恨んだ。しかし、いろいろな誤解が解けて、ヒナタがすっかりネジに懐いているので、ナマエもネジの苦手意識はなくなっていた。
「ヒナタ様はいつもナマエの真面目で勉強熱心なところを褒めている。俺も今日それを感じた。」
「あ、ありがとうございます。」
ネジが優しく笑うので、人はこうも変わるものなのだなとナマエは思った。冷たい色だと思っていた透き通るような白眼も、今はヒナタと同じような優しい色に見える。ネジの微笑みは、サスケを想うイタチの姿を思い起させた。ナマエはそんなイタチが好きだったなと思った。
――冷たそうな人が優しいってギャップ、ずるいよなあ。
イタチ然り、とナマエは自分のチョロさを恥じた。それでもネジの優しさはナマエの心をじんわりと心を温かくした。
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