五
一行が焼肉Qに着くと、いのはサイの隣を確保し、その隣にサクラが座った。ナルトはサイの向かいに、その隣にチョウジが座ったので、ナマエはその隣に腰掛けた。焼肉Q常連の10班のメンバーが適当に肉などを頼んでくれたので、ナマエは箸を配ったりして過ごした。
「あれ?シカマルは?」
サクラがいつの間にかいなくなっていたシカマルをキョロキョロと探した。
「なんかカカシ先生に呼び止められてたよ。後から来るんじゃない?」
チョウジが病室を出る前、カカシに「シカマルちょっと」と声をかけられていたのを見ていたので答えた。
「ふーん。」
「よーし!シカマルが来る前にガンガン食うぞー!」
チョウジが早速焼いて食べ始めようとするのをいのが制した。
「ってチョウジ!食べる前にサイくんにわたしたちの自己紹介しないとさーあ。」
「ああ、そうだねぇ……。」
「どうも。」
いのが「ねー!」と同意を求めてきたので、ナマエは曖昧に笑った。それにサイは作り笑いで答えた。
「えっと僕は秋道一族の秋道チョウジ。よろしくえっとサイだっけ。」
「よろしく。えっと……デ、」
瞬時にナルトが口をふさいだ。ナマエはナルトの素早さに驚いて目を丸くした。
「今何か言いかけた?」
チョウジがいぶかしげにナルトとサイを見たので、ナルトはサイに耳打ちしながら誤魔化していた。
「わたしは山中花店の娘で山中いのっていいます。よろしくー!」
いのがきゅるんと可愛い笑顔で言うと、サイはいのの顔をじっと見て何かを考える素振りをした。
「よろしく。えっと……美人さん。」
「なんでいのん時はそうなんのよー!しゃーんなろー!」
「うぐっ!」
サクラがサイにものすごいパンチを食らわせたのを見て、ナマエは戦戦恐恐とした。その間もいのはぽーっとしている。サイがヨロヨロと復活したので、ナマエはサイに向かって自己紹介しなくてはと思った。
「わたし班は違うけどみんなの同期のみょうじナマエです。よろしくお願いします。」
サイは少し年上のようなので、ナマエは丁寧に挨拶した。またもサイは何かを考えるようにナマエの顔をじっと見つめながら笑顔を貼り付けている。サイが口を開いたのと、個室の簡易的なドアが開いたのは同時だった。
「遅くなった、」
「よろしく、ビッチ。」
その場にいたチョウジ以外の全員が、ぎょっとした。遅れてきたシカマルも状況を飲み込めないが、サイがナマエにとんでもないことを言ったことだけは理解した。
「ちょっとサイ、あんたどういう法則のあだ名なのそれは!」
サクラがサイの胸ぐらを掴みながらまた殴りかかりそうだったので、ナマエは慌てて止めた。1日に2発も3発も受けていいパンチではなかったからだ。
「サクラちゃん、ほんと気にしないで……!」
少し顔を赤くしながら、サクラとサイをどうにかして引き剥がした。
サイが女性にあだ名をつける時、本人の特徴と反対のことを言えばいいと思っている。なのでなぜ自分が殴られるのか理解できなかった。ナマエのことを地味な女性だと思ったので、反対の言葉を探してそうなってしまったのだった。
ナマエは顔の赤みが引かないのを感じながら、立ったままのシカマルにこっち座る?と聞いた。シカマルはこのままだとお誕生日席になってしまうので、チョウジの隣に座る自分と代わるだろうかと見上げた。
「いや、こっちでいいよ。気にすんな。」
シカマルが席に着くと、ナマエは箸や小皿をセットした。シカマルはナマエのこういう控えめで甲斐甲斐しいところがいいなと思っていた。嫁にするならナマエのような女性がいい。なので、ビッチ呼ばわりされているのは一体何なんだと横目にチラッと見た。
――ん?
ナマエの首筋の後ろ側に赤いうっ血の痕が見えたような気がした。着物の襟と黒髪の間からたまたま見えたのは一瞬で、まさかなとシカマルは見間違いか怪我だろうと思うことにした。
その時ナマエはというと、『ビッチ』という言葉を重く受け止めていた。サイには自分がどう写っているのか不明だが、チョウジをデ……、いのを美人と称したことから、間違った目を持っているわけではないと思った。恋愛経験はほぼなかったが、先日サスケに体を許してしまった自分がいたことを思い出した。
――別に嫌だったわけじゃなかったから、『ビッチ』なのかな……。
少し怖かったが、相手が兄弟同然のサスケであったことと、サスケからは『オス』というより『甘えん坊の息子』という感じがしていたので、キスされたりしたことを軽く考えているふしがある。
――こういう軽く考えるってことが『ビッチ』?
ナマエはシカマルとサイが挨拶し、サイがあだ名をつけようとして、腹の痛みを感じてやめていたところをまったく見ていなかった。
その後、7人は和気あいあいと焼肉を食べた。ナルトの修行期間中の話を聞いたり、いのはサイのことを聞きたがった。サスケの話が特に出ないことにほっとしながら、相槌をうって肉を焼いた。
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