三
夢を見た。
――これはサスケとの記憶だ。
ナマエはうちはの集落の門に物怖じせずくぐり抜け、サスケの家へ向かった。うちはの家紋の前には立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされている。中はひっそりとしていて、人影がない。
不思議と怖いとは思わなかった。家に1人ぼっちでいることのほうが怖くて辛かった。サスケの家が見えると、とうとう駆け出した。
「サスケ、遊ぼ。」
「……。」
「修行しようよ。」
ナマエの言葉に反応しないまま、サスケは縁側で寝ころんでいた。
サスケの家に訪れたのは数か月ぶりだった。サスケとナマエはアカデミー入学前、毎日どちらかの家の敷地内で修行という名の忍者ごっこをしていたが、アカデミー入学以降は少しだけ距離が開いていた。その理由は単純で、ナマエに女の子の友だちができたことと、少し早い思春期だったからだ。
しかし、ナマエの来訪が数か月ぶりなのは、別に大きな理由があった。サスケの両親を含むうちは一族の滅亡と、同時期に起きたナマエの両親の事故死だった。口寄せ獣の暴走によるもので、事件性はなかった。そんな大きな事件の後、アカデミーへ復帰したのはナマエの方が少し早く、サスケはその数日後だった。
「サスケ、返事して……。」
ナマエはかなりショックを受けていたが、忍の娘としての覚悟はアカデミーでも説かれていたので、なんとか前を向いていた。自分以上に悲惨な幼なじみが近くにいたから、奮い立ったのかもしれない。
「サスケまで死んじゃったらやだから返事して……。サスケってばっ……。」
「……ナマエ、」
ナマエが泣き出すと、サスケはうつろな目でナマエの名を呼んだ。弾かれるようにサスケを見る。サスケがしゃべってくれて嬉しかった。縁側へ走って近づき、サスケに巻物を広げて見せた。
「お母さんが前教えてくれたんだ。ずっと一緒にいたいと思ったらこの巻物にその気持ちを入れておけばいいんだって。」
「……。」
サスケに巻物を見せると、ナマエは下手くそに笑った。サスケにも笑ってほしくて涙がまだ残る瞳を細める。まだ母親のことを口にするには整理がついていなかった。
「やらない……?」
それからナマエだけあれだこれだと言いながら、サスケは無言で作業をした。ナマエは両親がしていたことを後ろから見ていたので、思い出しながらやってみた。少量の血が必要だったので、サスケはクナイで自分の指を傷つけた。自分もやろうとクナイに手を伸ばした時、空白だった巻物に「人」という文字が表れた。成功した。
2人がその『おまじない』を終えると、すっかり夜になっていた。
「これで大丈夫。わたしにはサスケがいるし、サスケにはわたしがいるよ。」
縁側からひざ下を投げ出して寝ころびながらサスケの手を握った。サスケは何も言わなかったが、翌日から以前にも増して修行をし、ただ寝ころんで天井を見つめる時間は減った。
――忘れてた。そうだ、あの日やった『おまじない』は……。
目が覚めた。
両親が亡くなって、目まぐるしく過ぎていく日々で忘れていたが、悲しみに暮れるサスケを元気づけたくて持っていったそれは、みょうじ家の口寄せ契約用の巻物だった。
意味もわからずサスケと口寄せ契約をしていたことを思い出した。どう工程を踏んだか思い出せないが、サスケが主でナマエが口寄せされる側で契約をしてしまっていたらしい。
家のハンガーにはサスケが着せてくれたサスケの上着がある。どちらも夢ではなかった。
――これって報告したほうがいいのかな……。
サスケは今や抜け忍だ。しかも三代目火影を葬り、木ノ葉崩しを引き起こした大罪人である大蛇丸と一緒にいる。ナマエにはあの場所がどこなのかはわからないが、サスケと接触したことや、口寄せ契約でいつかまた呼び出される可能性があることは誰かに言っておくべきなのか迷った。
――特に、ナルトくんやサクラちゃん、カカシ先生に。
サスケを是が非でも里に連れ戻したいとは思っていなかった。自分のせいでサスケが連れ戻され、彼の生きる道しるべを取り上げることのほうがよっぽど嫌だった。サスケを無理やり里に閉じ込めたら、サスケはきっと壊れてしまう。
――たとえそれが、イタチ兄さんを殺すことでも。
サスケに借りた上着の背面のうちは一族の家紋を見つめた。
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