口寄せごっこ | ナノ 番外編IF


 ナマエが髪をタオルで軽く乾かしながら、うちはの家を我が物顔でのんびりと歩く。

「わっ、」

「!」

 後で畳んでしまおうと畳の上に放置された洗濯物のタオルを踏みつけて、ナマエがわっとバランスを崩す。下忍とはいえ一応訓練した忍であるので、派手に転ぶことはないだろうが、サスケは条件反射で思わず腕を伸ばす。

「びっくりした……、ごめんね、ありがとう。」

「……。」

 咄嗟に伸びたサスケの手はナマエの二の腕を掴んだ。それはいい。
 風呂上りだったのでサスケの黒いTシャツを着ている。それも別にいい。

 ――下着を着けろよ!

 二の腕を掴んだ際にほんのわずかに指先に触れた感触はあまりにも柔らかかった。サスケはぱっと手を離してジワジワ赤くなっているであろう顔を隠すためにそっぽ向いた。

 ナマエはしょっちゅう何かと理由をつけてはうちはの家に泊まっている。サスケに寂しい思いをさせまいと、アカデミーの頃のように毎日顔を合わすこともなくなったので、その代わりと言わんばかりにうちはの家へ入りびたる。口には出さないがサスケはそれを嬉しく思っていた。仕方がないと言いながら、毎度部屋着を貸してやっている。ただの服の貸し借り。これ自体には何も感じていなかったのに。

「?」

 何の返事もしないサスケに、ナマエは少し疑問に思ったが、「どん臭いやつだ」とでも思われているんだろうとそこで思考を止めた。落ちているタオルを拾って畳むと、脱衣所へ消えていった。





「じゃあおやすみ。」

「……ああ。」

 先ほどのことがまだ尾を引いており、サスケはいつも以上に無口だった。ナマエは疲れているんだろうくらいであまり気にしていなかった。もとよりペラペラとしゃべるタイプではない。
 2人はいつものようにぴったりとくっついた布団に入り、目をつむった。

「今日少し寒いね。」

「……毛布出すか。」

「あっいい!大丈夫、そこまでじゃないから。」

 ナマエの言う通り、季節のわりに今晩は冷え込んでいた。サスケは起き上がりかけたが、ナマエはそれを制した。ぽろっと無意識にこぼれた世間話のようなもので、わざわざ毛布を出してもらうほどではなかった。サスケが布団の中へ収まるのを見届けて、もう一度目を閉じた。

「明日集合早いから早起きしなきゃね。」

「ああ。」

 そう言ったのを最後にナマエはしゃべらなくなり、あっという間にすうすうとわずかな寝息が聞こえる。サスケはと言うと、身体は任務で疲弊しているにも関わらず目がさえてしまっている。明日はサスケやナマエを含む下忍たちで演習の予定だった。演習とは言え久しぶりのDランク任務でない忍らしい予定。おそらく戦闘訓練になるだろう。早く眠って万全な状態にしたいのに、睡魔が襲ってこない。

 ――「びっくりした……、ごめんね、ありがとう。」

 まったく何も気付いていない様子ですまなさそうな表情でサスケを覗き込んでいたナマエ。ちょこんと触れた指先が、柔らかい肉へ沈む。いつもサスケが貸しているのは青か黒のTシャツだ。その姿のナマエを思い浮かべて、胸のあたりがどうだったか考えて、はっとする。何を考えているんだ。邪念を振り払うようナマエに背を向けて、サスケはぎゅっと目をつむった。

「……、」

「!」

 やはり肌寒かったのか、暖かさを無意識に求めてナマエがサスケの布団の中へ侵入する。これはよくあることだった。子どものころはしょっちゅう同じ布団で眠っていたし、サスケはあまり気にしないようにしていた。無理やり、意識しないようにしていたのだ。しかし、今日ばかりはうまくいきそうにない。

 背中に胸が当たる、なんてことはなかった。サスケの背中とナマエの胸の間にはナマエの腕がある。ちょんと背中に当たるのは、ナマエの手の感触だろう。

 ――手じゃなかったら……。

「ナマエ……。」

 サスケはナマエの方を向いて、小さな声で呼びかける。ナマエの瞳は閉じたまま、身じろぎさえしなかった。

「ナマエ、」

 一度喉が開いたからか、先ほどよりしっかりした声色だ。それでも、ナマエは起きる気配がない。
 暗闇に慣れた目でナマエの寝顔を見つめる。顎のラインがすっきりしている。もう少し下には、自分のとは違う滑らかな鎖骨。サスケは人の体型などどうでも良かったが、ナマエはアカデミーを卒業してからすっきりと痩せたように見える。丸っこくてどん臭いナマエも嫌いじゃなかったが、どんどん女性らしくなっていて――

「好きだ、」

 その小さなつぶやきは布団の外へさえも出ることはなく、サスケの布団の中へ溶けて消えていくようだった。誰にも、どこにも届いていない。

 鎖骨の下には、寄せられた胸に黒いTシャツが挟まって、そこにたしかに自分にはないモノがあると主張している。頂点がほんのり浮き出ているようにも見えた。
 ナマエの息に合わせてわずかに上下する胸に、吸い込まれるよう手を伸ばした。

 ふにゅ、とも、ほわ、とも言えなくないその感触にビリビリと脳が痺れるような感覚がする。やはり下着は着けていなかったようで、Tシャツごしにダイレクトで柔らかさが伝わった。
 身じろぎでもして起きそうな気配でもあればすぐにでも手を引っ込められるのに、ナマエは規則的に寝息をたてるだけだ。するりと撫でると、小さく主張する突起が手のひらでもわかり、ゴクンと息を呑む。

 そっと指先でかすめると、柔らかいのに芯のあるような感触。音を鳴らして呑んだ息がハッと短く出る。

 起きてほしい、止まりたい気持ちと、起きないで触っていたい気持ちが交互に襲いかかる。起きてくれなければやめられそうになかった。
 じっと見降ろすと、暗闇でもわかるようにぷっくりと突起が主張している。普段サスケが着ているTシャツを、ナマエの乳首が押し上げてツンと勃っている。両方を指先で摘まんだ。

「んッー……、」

 ナマエの声に、電流が流れたかのように慌てて手を引っ込めた。
 その小さな声以降、ナマエの目は開くこともなければ声を漏らすこともなく、また規則的に胸がゆったりと上下する。それでも、ツンとした突起は変わらず存在を主張している。
 
 サスケは引っ込めた手をぎゅっと握って、またナマエに背を向けるようにして布団にくるまった。
 早くこの熱が消えて眠りたい。そしてすべて夢だったということにしたいと思った。一度知ってしまった幼なじみの柔らかさは、もう忘れたくても忘れられそうになかった。

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