二十八
サスケに腕を引かれながら夜道を歩いた。木ノ葉隠れの中心地から家までの道のりはそこそこあり、サスケと2人で過ごすのも久しぶりだなと思った。
「寒いね。」
「ああ。」
ナマエは冬の訪れを感じながら、いつの間にか歩調を合わせてくれているサスケの隣をのんびりと歩いた。
「って、和んでる場合じゃなかった。みんなと一緒に行かなくて良かったの?」
「少し顔出したし気が済んだろ。」
サスケはナマエを見下ろして言った。皆サスケに最後までいてほしそうだったけどなと思いながら、まあ仕方ないかと思い直した。
「みんな元気そうで良かったね。」
「お前は肉ばかり焼いてたな。」
「見えてたの?サスケのお肉はサクラちゃんが焼いてくれてたね。」
サスケがおもむろに手首を掴んでいた手をすすすとおろして手を握ってきた。ナマエは違和感を感じたが、寒いのかなと思ってぎゅっと握り返した。
「……俺はサクラと付き合っているわけじゃない。」
「うん、そうだよね。」
「知ってるならいい。」
「うん……?」
ナマエはサスケが何を言いたいのかさっぱりわからなかったが、まだサスケとサクラがお付き合いにはいたってないことだけはわかった。
サスケが立ち止まってじっとナマエを見るので、ナマエもじっとサスケを見返した。サスケが繋いでいた手を離そうとしたので、ナマエも手を開いてサスケの手を開放してやった。その手がナマエの頬を撫で、ぎゅっと摘んだ。
「ぃたっ!」
「……。」
無表情で頬を摘むサスケ。ナマエはそれを甘んじて受け入れた。少し痛かったしなぜこんなことをするかわからないが別に嫌ではなかった。
「さすへ、いたい……。」
痛いと言いながらまったく抵抗しないナマエに、サスケは少しむっとした。ナマエはサスケのすることの意味をこれっぽっちも考えずすべて受け入れる。それが今はイラッとした。
今度は摘んだ頬を離すと、ナマエの顎に手をそえて上を向かせた。ナマエはサスケの動きのままに顔を上げる。サスケは顔を近付けた。
「ゎ、な、何?」
どちからかが少し顔を近付ければキスする距離になり、さすがにナマエも離れようとした。
「お前にとって、俺は何だ。」
「……え?」
「俺のすることは何だ?お前は何を考えてる?」
「ぇ、えっと、何?わたしもサスケが何考えてるかわかんない……。」
サスケとナマエは至近距離で言い合った。真っ黒な瞳の視線が絡み合う。以前の暗さはなくお互いがお互いを映しているようだった。
「……もういい。」
サスケは目をそらすと、ナマエを置いてすたすたと歩いていってしまった。ナマエは頭にハテナを浮かべながら、サスケが呆れてしまったか怒ってしまったことはわかった。
ナマエは不安になった。心がぐらつく。サスケがナマエを突き放すだけでいてもたってもいられなくなる。
「サスケ!待ってよ。」
「……。」
「わたしにとってサスケは何って聞いたよね。大事な人だよ!」
ナマエはサスケの背中に向かって少し大きめな声で話した。
「一番幸せになって欲しい人!ずっと生きててほしい人だよ!」
ナマエは少しずつ涙声になった。サスケは何も言わなかった。
「喧嘩しても、離れてても、大好きなのは変わらないから。消えちゃってたわけじゃないよ。」
「……。」
「サスケは違うの……?」
ナマエは涙を拭った。サスケの背中に話しかけるがサスケはなかなか答えない。
「……違う。」
「!」
「お前は俺にとって特別だ……。ナルトやサクラとも違う。……兄さんとも。」
サスケはナマエの方にようやく向いた。
「だから……ナマエを傷付けた。……すまなかった。」
ナマエはあの夜を思い出した。サスケがイタチを殺し、真実を知った後の夜。無理やりサスケはナマエを組み敷いたが、ナマエはそこに特別な意味を見出していなかった。寂しくて人恋しくて呼び出された、自分じゃなく誰でも良かったのだと。
「勘違いだったらごめん……もしかしてサスケって……、」
――わたしのこと、好き?
ナマエは言葉を切った。少し頬が熱くなる。自意識過剰な発言を言うか迷って、でも話の流れでそうとしか思えず、サスケの様子をチラッと窺った。
サスケは穏やかな顔でナマエを見つめていた。ナマエはそんな顔をしているとは思わずドキッとした。
「気付くのが遅すぎる。」
サスケはふっと笑った。
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