一
任務を終えたナマエは、アカデミー時代からの友人であるヒナタと甘栗甘でのんびりと過ごしていた。
「ナルトくん帰ってきたの?」
「うん。」
「そうなんだ、わたしも会いたいな。挨拶できた?」
「ううん……。恥ずかしくて……。」
ヒナタがアカデミー時代から好意を寄せているナルトが、約3年の修行を経て木ノ葉隠れの里に帰還していたらしい。帰還してすぐ砂隠れの里に行ってしまったり、直後また里外で任務に行ってしまったそうで、ヒナタもまだあまりコミュニケーションを取れていないようだった。
ナマエはヒナタの恋を陰ながら応援していた。アカデミー時代からナルトを見つめ続けていたヒナタには報われてほしい。
「しばらくは木ノ葉にいるんだよね?嬉しいね。」
「……!」
ヒナタは小さく頷くと顔を真っ赤にしていた。ナマエはそんなヒナタを見て可愛いなぁと思いながらお茶を飲んだ。
「ナマエちゃんは、今は好きな人いないの?」
ヒナタとはずっと恋の話をしてきたが、ヒナタの話を勝手に根掘り葉掘り聞くだけでナマエはあまり話したことがなかった。というより。
「うーん……。わたしたぶん見る目ないしなぁ……。」
「そうなの?」
「……。」
「?」
「わたしも好きな人ほしいなぁ……。」
少し考えて、へらりと笑った。
「ヒナタ見てるとそう思う。」
「そんな……、恥ずかしいよ……!」
恥ずかしがるヒナタが可愛いなと思った。恋をすると女の子はどんどん可愛らしくなって、少し羨ましい。
「あっ、ヒナタ時間大丈夫?」
「本当だ……!もう行かなきゃ。ナマエちゃん、今日はありがとうね。」
「こちらこそ。またね。」
この後任務があるというヒナタと別れ帰路についた。頭に浮かぶのは恋のことだ。もう何年も誰のことも好きにならず、自分でも枯れているなと思う。
――初恋の人が、今や抜け忍でテロリストだもん。
ナマエは苦笑した。誰にも言ったことはなかったが、初恋の相手は幼なじみのお兄さんで、もう里を抜けてしまった人だ。かっこよくて優しくて、幼なじみと遊んでいたらよく彼が迎えに来た。
――かっこよくて優しいって理由だけで好きになるなんて単純だな。
今ではもう過去の話。まさか優しいお兄さんがあんな事件を起こすとは思わず、少し人を好きになるのが怖くなっていた。
しばらく歩いてようやく自分の家の敷地が見えてきた。ナマエの家は代々数多くの口寄せと契約しており、口寄せを呼ぶために家のまわりはだだっ広い庭に囲まれており、敷地のまわりは塀で囲まれていた。さらに、木ノ葉隠れの里の端だ。口寄せ獣がたとえ暴走しても被害を最小限にするためだ。
ちらりと、隣とは言ってもかなり遠いお隣さんを見た。それがうちは一族だ。うちはほどの名家がなぜこんな端にと思ったことはあるが、代々受け継がれる土地がたまたまそうだったのだろうと思った。ヒナタと恋の話をしたからか、今日はうちは一族のこと――彼らのことを思い出す。
家に入ると、暑苦しい忍服を脱いだ。動きやすく軽く作られているとは言え、刃物や炎から身を守るための服だ。暑苦しいし硬い。中忍の時に支給されたベストは普段着ないので、着物形のそれをハンガーに掛けた。上下の下着と忍服の下に着ていたキャミソールだけになると、畳に寝ころんだ。
――今日は疲れた。このまま寝ちゃいたい……。
まどろんだ。両親がいたらだらしないと叱られるだろうが、そんな両親はもういない。眠りに落ちかけたその時だった。
ボンッ!
大きな音とともに、ぐいっと内臓に引っ張られるような感覚。不思議と痛くも痒くもない。反射で寝ころんでいた体制から起き上がった。煙に包まれていて見えないが、床の感触がヒヤリとした。敵に煙玉を打たれたのではなく、自分が移動したことはわかった。
「え……。」
煙が晴れると、目の前にサスケがいた。ナマエがしゃがんでいるので、見下ろされている。会うのは3年ぶり。なぜなら彼は里を抜けたからだ。
「サスケ……なんで?」
言葉を交わしたのは、何年ぶりだかわからない。ナマエとサスケは下忍になったあたりから疎遠になっていた。
「……なんて恰好してる。」
サスケが数年ぶりにナマエへかけた言葉はそれだった。様々な疑問が飛び交う頭で、サスケに言われた言葉を先に処理した。そして、自分の恰好を見下ろした。
「これは……その、家にいたから……。」
恥ずかしくなり、言いながらキャミソールの裾を引っ張った。下半身は下着しか履いていないし、肩からはブラジャーの紐が見えてしまっている。そしてこの恰好を見て先ほどまで家にいたことを思い出した。
「サスケ、ここはどこなの?わたしはなんでここに?」
「……大蛇丸のアジトだ。」
サスケはナマエの問いの1つ目に完結に答えると、目をそらした。大蛇丸という言葉にドキッとする。久しぶりの幼なじみとの会話を楽しんでいる場合ではない。目の前にいる人は里抜けの重罪人だ。ナマエが息を呑むと、足元に巻物が広がっていた。見覚えのあるそれは、みょうじ家のものだった。
「これ……うちの口寄せの巻物……。」
サスケは黙ったまま遠くを見ている。ナマエは立ち上がって、改めてサスケを見た。サスケとの身長の差が大きくて驚いた。
ナマエが巻物を拾って丸めると、それを目の端に入れていたサスケは、ナマエの手から巻物を奪った。奪われたことに驚き、ナマエはサスケを見た。サスケは黙って巻物を手にしたまま見つめ返した。
「これは俺のだ。」
「そう、だっけ?」
困った顔をすると、サスケは表情を変えずにピリッとした空気を出した。ナマエの知っているサスケは表情豊かだったので、大人になった幼なじみの怒りに、初めて恐怖を感じる。
「お前は何も覚えていないのか。」
「え……。」
サスケはナマエにぐっと近づいた。ナマエの視界はサスケの顔でいっぱいになった。相変わらず肌が白くてきれいな顔立ちだ。そんなことを思っていると、自分の唇がサスケのそれで塞がれていた。
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