二十七
追悼式が終わると、ようやく皆区切りをつけ未来のために動き出した。ペイン襲撃の復興も完全に終わらないまま戦争が始まってしまったのでやることはたくさんある。綱手が火影を辞任することになり、カカシが六代目に任命されてからも忙しさは変わらない。
そんな中、ナマエもある程度前を向いて生きていた。まだ一度もネジの墓には行くことはできていないが、真っ暗闇の瞳には以前の輝きが戻ってきている。サスケが胸を貸してくれて思いっきり泣くことができたので、一区切りはついた。ナマエはサスケが生きて帰ってきてくれて本当に良かったと思った。
「ヤマトさん。申し訳ないんですけど、回復するので……いいですか?」
「ああ。助かるよ。」
ナマエは復興の要であるヤマトを回復しながら建物の復旧を手伝っていた。ヤマトはヘトヘトになりながらも、ヤマトの稼働で100人力にはなるので休まず働いてもらっている。
「ナマエちゃん!」
「ヒナタ!」
ヒナタは任務が終わったり復興の休憩のたびにナマエの様子を見に来た。精神的にボロボロだったナマエが今も心配なのだろう。
「ヒナタ、わたしばっかり会いに来てくれなくて大丈夫だよ。ナルトくんのところに顔出したら?」
「えっ……そんな……、わたしは……!」
ヒナタが顔を真っ赤にするので、ナマエは可愛いなぁと思いながらにこにこする。どうやらナルトとヒナタは付き合う寸前まできているようで、ナマエはそれが嬉しかった。長年片思いを続けてきた親友の幸せは自分の幸せでもある。
ヤマトにチャクラを送って回復しながら、ガールズトークを続けた。ヤマトは居心地悪そうだがナマエとヒナタは気付いていない。
「わたしより……っ、いのちゃんとサイさんも付き合い始めたみたいだよ。」
「え?そうなの?でもわかるな。美男美女でお似合いだね。」
ここのところカップルが増えてきた。シカマルもテマリといい感じのようだし、チョウジもカルイと連絡を取っていると聞く。リーもいい感じの人がいるとかいないとか。戦争が終わって恋愛に向ける心の余裕ができたこともある。さらに、いつ死ぬかわからない忍世界では戦争直後結婚や出産のブームはくるようだ。
「ヒナタ、ナルトをよろしくな。」
回復されていたヤマトがヒナタに言うので、ヒナタはまた顔を赤くしてハイ……と小さく返事をした。ナマエはナルトとヒナタがどちらも陽だまりのように温かくて素敵なカップルだと思った。
「あとはサクラが幸せになってくれたら、元隊長としては嬉しいんだけどな。」
ヤマトがそう言ってよっこいしょと立つので、ナマエは回復の手を止めた。
「そうですね。」
ナマエはにっこり笑った。本心だった。サスケがサクラと幸せになってくれるなら嬉しい。サスケもナマエと同じかそれ以上に孤独に生きてきたので、幼なじみとしてはすべての罪を許してもらって穏やかに生きてほしかった。サクラはサスケがどこまでいっても想い続け、サスケのために生きていた。サスケにはもったいないくらい、でもサクラ以上に相応しい相手はいないと思った。
――できることならわたしより長生きしてほしい。ほんと、それだけ。
「ナマエちゃん、今日久しぶりに同期のみんなで集まるみたいだから来ない?」
「そうなんだ、行こうかな。」
戦争が終わってから初めての同期会だ。ナマエは追悼式にも出ていなければ同期との任務もなかったので、みんなと会うのは久しぶりだった。気を遣われたくないが、ヒナタも心配しているので元気な姿を見せておかなければと思った。
「良かった……!いつも通り焼肉Qだから、来てね。」
「うん、わかった。じゃあまた夜ね。」
ヒナタは嬉しそうに笑うと去っていった。じゃあやりましょうとヤマトとともに作業を再開した。
その日の夜、ナマエはやや遅れて焼肉Qへ向かった。暖簾の前まで来ると女子会をした時を思い出し、少し気落ちして入店しようとしていた足が止まった。
「ナマエ。」
ナマエを呼んだのはサスケだった。ナマエは落ちた気持ちが元へ戻ったような感覚になった。サスケの存在は今のナマエにとって安定剤のようなものだった。
「サスケも呼ばれたの?自由にしていていいんだね。」
「カカシには大っぴらに出歩くなと言われてるが、ナルトとサクラがどうしても来いと。」
「そっか、良かったね。」
サスケがガラッと扉を開けて入ったので、ナマエはそれに続いた。
ナマエからはサスケの背中しか見えなかったが、サスケの登場に同期たちがわっと盛り上がった。サスケの背中からひょこっと顔を出すと、ナマエ!とまた一盛り上がりしたのでナマエもにっこりして見せた。
「サスケはこっちだろ!」
入口に一番近いところへ2人並んで座ろうとしたが、奥にいたナルトがサクラの隣に促した。そうだそうだという雰囲気に押されてサスケは無表情のまま仕方なさそうにサクラの隣へ行った。ナマエはサスケが移動するのを見送りながら、皆に受け入れられている様子にほっとした。
「じゃあ全員そろったところでもう1回乾杯するぞ!」
キバの音頭で乾杯し直し、再び思い思いに皆がしゃべり始めた。ふと見るといのの隣にはサイがいたので、カカシ班の4人、アスマ班の3人、紅班の3人、ガイ班の2人、そしてナマエの計13人だ。皆戦争の功労者ばかりでどのテーブルより注目を集めていた。
人数が多いので全員で話すことは難しく、ナマエは隣のテンテンとしゃべっていた。テンテンが落ち着いたら忍具と武器屋をやりたいという話に相槌をうっていると、奥の方が異様な盛り上がりを見せていたので、テンテンとナマエもなんだろうと様子を窺った。
「サスケ、お前相変わらずモテてんのかよ!納得いかねー!」
「?」
「まぁサクラはサスケくんのためにずっと頑張ってたからねー。」
どうやら恋愛の話で盛り上がっているようだ。キバがはやし立て、いのが同調した。サクラは少し恥ずかしそうにしながらもやんわり否定しているようだ。シカマルは自分に飛び火しないように影を薄くしている。サスケは全然聞いてない顔をしているなとナマエは思いながら、肉をひっくり返した。
「いやー食った食った。」
「チョウジくんがいると焼き甲斐があるよ。」
店の前で全員が出てくるのを待ちながらチョウジの腹を触ってナマエは笑った。
「ナマエは焼くのが上手だよね。」
「ふふ、ありがとう。」
「のほほんとしてんな、お前らは。2次会だってナルトたちが騒いでっけど、ナマエはどうすんだ?」
「わたしは帰るよ。みんなにバイバイしたら。」
チョウジの隣にいたシカマルが聞いてきたので、ナマエは首を横に振った。
そうしていると全員が外に集まった。
「じゃあ一旦解散!2次会に行くやつはこっちな!」
キバの一言で皆思い思いに移動したので、ナマエはヒナタやテンテンにバイバイと言うと、くるりと踵を返して輪から離れた。
「ちょ、サスケ!どこ行くんだよ!」
「帰る。」
背後でナルトの声とサスケの声がしたと思ったら、ぐっと手首を掴まれ引っ張られた感覚がしてナマエは驚いた。サスケだった。こちらに一瞥もくれずずんずん進むので、ナマエは引きずられないよう懸命に足を動かした。
同期たちが背後で「どういう2人……?」とざわめく声が聞こえてナマエは気が気じゃなかったが、おそらく何も考えていないんだろうなとサスケの横顔を見上げて思った。
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