口寄せごっこ | ナノ 二十六


 ナマエはシンとした家で喪服の袖に腕を通した。
 第四次忍界大戦が終戦して幾日かが経過した。木ノ葉隠れの里に帰郷し、まず行われるのは追悼式だった。シカクやいのいちやネジだけでなく、たくさんの人がこの戦争で亡くなった。遺体を埋葬し、慰霊碑や墓石を立てる。やることはいつも同じだ。

 帯を締めようとする手がふと止まった。自分は今何をしようとしているのかがわからなくなり、ナマエは喪服を着ることを諦めた。私服で着るワンピースを頭からかぶり、家を出た。

 肌寒くなってきた里を歩き、ナマエは墓地を見下ろせる丘の上まで来た。目下ではもう追悼式が始まっていて、自分はどれほどゆっくり着替えていたのだろうかと思った。
 以前ここに来た時は、アスマの葬儀が執り行われており、隣にはネジがいた。ナマエはふと隣を見てみたが、やはりそこには誰もいなかった。あの時見た花を手向ける紅の後ろ姿がぼんやりと思い出され、やがて自分の姿に重なった。あの時はネジと知り合ったばかりだった。まさかその後付き合って、こんなに早くいなくなってしまうとは思わなかった。

 ナマエはゆっくりその場から離れると、次はネジと修行した場所まで来た。当然だがネジはいなかった。
 また来週修行しようと言った約束は、ナマエがサスケの件で尋問されたり戦争が始まったりで終ぞ叶うことはなかった。デートらしいデートをすることもなかった。意外と付き合いの短いネジとの関係性に、こんなに悲しみに暮れる資格があるのだろうかとナマエは自嘲した。

 なんとなく家に帰りたくないけど、誰にも会いたくないという気持ちのまま、当てもなく里を彷徨う。里のあ・んの門の前まで来ていた。

 ――ここで告白してもらったんだった。

 きっと両親が死んだ時のように、担当上忍が死んだ時のように、イタチが里を抜けた時のように、サスケが里を抜けた時のように、この沈んだ気持ちは風化してしまう。辛いのは今だけ。また少し忘れるのが得意になっていくんだろうと思った。

「こんなところをウロウロするな。……見つけづらい。」

 音もなくナマエの背後に立ち、肩に手を置いたのはサスケだった。ナマエはサスケの姿を戦争中見ていなかったので、本当に木ノ葉に帰ってきていたのかとようやく実感がわいた。サスケは里に戻ってきてしばらくは拘束されていたと噂で聞いたから、なかなか会えないと思っていた。

「サスケ、帰ってきてたんだね。」

「……ああ。」

 ナマエはサスケの片腕がなくなってしまったことをこの時初めて気が付いた。

「腕、大丈夫?」

「ああ。」

「診ていい?」

「サクラに診てもらったから大丈夫だ。」

「……そ。」

 ナマエはサスケを置いて歩き出した。

「どこに行く。」

「決めてない。」

 ナマエは門をくぐることなく引き返した。サスケもナマエの後ろをついてくる。

「……何?」

「何だ。」

「何だじゃなくて。」

「?」

「ついてこないで。」

 ナマエはつい口調が強くなってしまう。幼なじみのサスケ相手だからか気が立っているからか。1人になりたいのに、サスケは何を考えているかわからない無表情でついてくるだけだ。幼なじみなのに、サスケの考えていることはこれっぽっちもわからない。

「ナマエ、何があった。」

 サスケはずんずん進むナマエの腕をとった。ナマエとサスケはようやく目が合った。サスケの瞳は片方輪廻眼になっているが、右目は黒い瞳だ。夕焼けに照らされてキラキラと光って見えた。きっと今の自分とは違うだろう。ナマエはそれでもサスケの瞳をじっと見つめ返した。

「恋人が死んだ……それだけ。」

 ナマエは初めて恋人の死を口にした。語尾が詰まってしまってうまく言えなかった。

「恋人?」

 サスケは今日初めて表情を崩した。少し嫌そうな顔をした。それを見てナマエはふっと笑った。

「引っかかるのはそこなの?」

「誰だ。」

「……、」

 ナマエは、名前を言おうとして言葉に詰まった。サスケも知ってる人だから言えば良い。はっと息を吸ったが何度試しても音にならない。サスケも急かしたりはしなかった。

「……ネジさん……。」

「……。」

「死んじゃった……、」

 ナマエはネジが死んでから初めて涙がこぼれ落ちた。ナマエの黒い瞳が、涙でキラキラと光った。サスケは、それが別の男のためでも愛おしいと思った。そのまま手を伸ばして、ナマエの瞳からこぼれた落ちた涙を指で拭った。

「……恋人なんか作るからだ。」

 明らかに悪いのはわたしが恋人を作ったことじゃなく戦争だと突っ込みたかったが、声にならなかった。サスケはやっぱり少し変だ。
 サスケに言わされたからか、ネジが死んだという実感がナマエの中をジワジワと蝕んだ。悲しみが襲ってきたが、ナマエの止まっていた時間が動き出した。

「ねじさんが……っ、し……、」

 ナマエはぼろぼろ涙をこぼしながら現実を受け止めようとして何かをサスケに言おうとしたが、あまり音にはなっていなかった。
 
 ネジは最期自分が駆けつけたことがわかっただろうか。自分に何か言葉を遺してくれたのだろうか。「ナマエ愛してる」なんて言ってくれなくても良いから、最期自分のことを少しでも想ってくれただろうか。どうしてもっと気の利いた言葉をかけれなかったのだろう。ネジが助けたナルトが世界を救ったと知ったら、ネジは何と言うだろう。本当は世界が終わっても、その瞬間一緒にいられればそれで良かったのに。

 ――そんなこと言ったら怒ったかな……。

 ナマエをサスケは抱きしめた。ナマエが離れようと身を固くしたのは一瞬で、すぐにサスケの胸に身を預けた。トクトクとサスケの心臓の音が心地よく、ナマエはサスケの腕の中でネジを想って泣いた。

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