口寄せごっこ | ナノ 二十二


 ネジが任務に出てから3日後、ナマエはひとりで考え赤くなったりネガティブになったりするのに疲れ果て、ヒナタを誘って甘栗甘で茶を飲んでいた。

「あ、あのね、ヒナタ……。ちょっと教えてほしいんだけどね……。」

「……?うん。」

「お前が好きだって言ってキ、キスする人って、その、好きなのかな……?」

「えっ……?」

 ナマエは自分で何を聞いているのかよくわからないまま、今心に渦巻く疑問を口にしてみた。聞いている本人もよくわかっていないので、ヒナタは頭にハテナマークを浮かべている。そして、少ししてヒナタはぽっと頬を赤くし、口元を両手で隠した。

「ナマエちゃん、好きって言われてキスされたの……!?」

「わっわたしじゃなくて、その……友だちが……。」

 ナマエは自分のことだとバレていると思ったが、相手がネジなのでとっさに誤魔化した。ヒナタはそれを信じているかいないかわからない顔で、そうなんだ……と言った。

「本当に好きで言ってるのか信じられないってこと……?」

「そう……!そうなの。すごいねヒナタの理解力……!」

 ナマエはヒナタとの付き合いの長さを感じてジーンとした。

 ヒナタには言えなかったが、抜け忍の隠匿、コソコソ男と会って、挙げ句性行為までしている女をネジが好きなわけないと思っていた。舞い上がってベッドでゴロゴロし、枕に顔を押し付けてキャーと言ってみた夜もあったが、その後にはそんなわけないと絶望した。それでも信じたいという希望とその絶望を交互に繰り返すうちに、ひとりで抱えきれずヒナタに助けを求めたのだ。

「わたしにはよくわからないけど……本気じゃないかもって思う理由があるの?」

「うん。わた……友だちが、少しひどいことをしていて、彼はそういうのを許すタイプじゃないから。あと、その友だちはビッチって呼ばれてる……。」

「ビ……そ、そうなんだ。」

「ビッチだから、好きって言って相手の返事も待たずにキスしたのかなって。普通は好きです、わたしも、ちゅ、だよね?」

「……そう、なのかな……?」

「やっぱりそうだよね……。」

 ナマエはあんこの乗ったお団子を1つ頬張った。甘くておいしい。ヒナタの意見を聞くというより、自分の考えを無理やり納得するために来たようだ。期待して傷付きたくない気持ちが先走っている。ヒナタはナマエのことなのか友だちのことなのか半信半疑だった。

「ナマエちゃん、でも……、」
 
 その時突然、何の前触れもなくグラっと木ノ葉隠れの里が揺れた。
 ナマエとヒナタは茶を起き、立ち上がった。

「何か変だよね?」

「うん……!」

「わたし、木ノ葉病院を見てくる。ヒナタは……、」

「わたしは日向家と……街の方に。気をつけてね。」

「ヒナタも気をつけてね、」

 ナマエとヒナタは戦闘タイプがまったく別な上に班も違うのでそこで別れた。ナマエは職場である木ノ葉病院の患者たちの避難が心配だった。


 
 暁のリーダーであるペインの襲撃により、里は壊滅状態。強い忍も満身創痍で、多くの死者が出ている。

 ナマエは口寄せをして応戦していたが、残っているすべてのペインがナルトのもとへ集結してからは、ナマエは口寄せを引っ込めて医療忍者として働いた。ナルトが心配ではあったが、カツユ伝いで増援はいらないと止められ、ナマエは瓦礫をどかして生きている人を探しながら手当を施した。

 自分ほどの強さなら死んでいてもおかしくない状態だったが、なんとか生きのびた。目の前で何人か知っている忍が死に、心が折れそうになりながらも懸命に目の前だけを見つめ続けた。

 ヒナタとお茶を飲んでいたころが遠い昔のように感じる。ヒナタや同期たちは無事だろうかとナマエは心配に思ったが、目の前の人を助けることに手一杯だった。

「チョウジくん!」

「ナマエ!無事だったんだね!」

 ナマエが治療を施しながら進んでいくと、一際荒れた瓦礫の上でようやく同期の1人と出会えた。父のチョウザもいる。

「怪我は?」

「僕は大したことない!他の人を……!」

 チョウジのそばには見慣れた銀髪の人が横たわっていた。ナマエはその生気のない顔にひゅっと喉が詰まる。

「うそ……、カカシ先生?」

 ナマエはカカシの胸元に耳を当てたが、少しも音がしなかった。チョウジは涙を流しながら黙っている。ナマエは信じられない思いだった。あんなに強いカカシが。

 その時だった。里の外れから流星群のような光の矢が降り注いだ。

「これは……?」

 不思議と脅威に感じないその光は目の前のカカシにすっと溶けていき、信じられないことにカカシの目が開いた。

「カカシ先生……?」

「カカシ先生!良かった!……ん?なんでだ?」

 カカシの心臓はたしかに止まっていたはずなのに、ムクリと起き上がったことにナマエとチョウジは驚いて、そして喜んだ。カカシ自身もわかっていないようだ。

「ナルトくんです!ナルトくんがペインを操る者と決着をつけ、亡くなった人が生き返っているようです!」

 カツユが教えてくれ、ようやく事態を把握できた。ナマエ、チョウジ、チョウザ、カカシなどその場にいた人たちはホッとしてひとまず喜びを分かち合った。



 ナマエは里のみんなとナルトの帰還を喜んだ後、怪我をしている人が治ったわけではないので手当に戻ろうと輪から早々に抜けた。
 木ノ葉病院のあたりなら瓦礫の下にも使える包帯や薬が残っているかもしれないとその方向へ歩き出すと、聞き知った声で呼び止められた。

「ナマエ……!」

「ネジさん!里に戻ってたんですね。」

 ネジは数日前にガイ班で里外の任務に出ていたので、もう里に戻ってきていたのかとナマエは驚いた。1週間くらいは顔を合わせずにいられるかと思っていたのでナマエはまだ心の整理もついていない。
 ナマエの心とは裏腹に、ネジは近寄るとナマエを抱きしめた。ナマエはぎょっとした。

「無事で良かった……。嫌な予感がしたんだ。」

「あ、は、えっと……ありがとうございます……。」

 組手で接近することはあるものの、抱きしめられるのは初めてだったのでドギマギした。腕を回すこともできず、ただ抱きしめられる。

「怪我はないか?」

 ネジは身体を少し離してナマエの顔などを見た。ナマエは目を見られないままぶんぶん首を横に振った。ネジが近くてナマエは自分の顔が赤いのがわかった。

「良かった……。」

 ネジが始めて聞くような優しい声を出すので、ナマエは至近距離のネジを見上げた。ネジは優しい顔でナマエを見下ろしている。ナマエとネジは人気の少ない瓦礫だらけの里の真ん中で見つめ合っていた。

 ――ネジさんがわたしをこんなに心配してくれて、無事を喜んでくれている……。

 ナマエが胸をときめかせていると、おもむろにネジの顔が近づいてきたので、ナマエは乙女の思考回路をハッと切断した。

「……この手はなんだ。」

 ナマエはとっさにネジの口に自分の手のひらを添えて近づく顔を抑えてしまった。

「だ、だって……」

 ネジとキスすることは嫌どころかむしろしたいと思ってしまっているナマエだが、付き合ってもいないのに簡単にキスする女とは思われたくなかった。サスケの手前、手遅れなのはわかっているが、ネジにはそういう扱いをされたくない。
 ナマエが手を添えたままもじもじしていると、ネジはナマエの手首を掴んで手を外させた。

「お前は俺が好きだろう。」

「!」

「この間も言ったが、俺はお前が好きだ。何を思っているか知らんが、好きな人にこういうことをしたいと思うのはおかしいか?」

「……ぜんぜん、おかしくない……です。」

 ナマエが顔を真っ赤にして何か言おうとしては何も出てこずやめて口をぱくぱくしているので、ネジはふっと笑った。

「で、いいか?」

 ネジが顔を近づけ、キスする直前の距離でナマエに問うので、ナマエはコクンと頷いた。

 ――わたし、ネジさんのことが好きだ。

 ナマエはようやく自分の気持ちに言われてから気付いた。
 ネジとキスしながら、ナマエの心は満たされた。好きな人とのキスはこんなにも幸せな気持ちになるものなのかと。

 ナマエは目を閉じてネジの背中に手を回した。ネジがナマエの髪を撫でる。遠くで英雄のナルトを讃える声がする中、2人は身を寄せ合った。

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