二十
シカマルは、相変わらず暗号班で自来也の遺したメッセージをもとにペインの能力について考えていた。サクラやシホとあーでもないこーでもないと言い合う。少し煮詰まってきたと一度サクラが綱手のもとへ行くと言うので、シカマルも出ることにした。
「シカマル、」
「カカシ先生。」
外に出ると、カカシがシカマルを呼び止めた。
「ナマエのことだけど……シカマルの耳に入れておきたいことがある。」
「はい。」
シカマルとカカシは少し移動し、建物の陰に入った。
「ナマエの持ってる情報は少ないって上に掛け合ったけど、やっぱりナマエは尋問にかけられたよ。」
「!」
「どうやら俺にも降りてこない情報をナマエは持っていたらしい。嘘はついていないようだったから、きっと俺たちが聞かなかったことだ。」
「カカシ先生にも知らされないことって……。」
シカマルは話がきな臭くなってきたなと思った。ナマエがサスケの居場所を知ってるか知らないかの話かと思っていたのに、現実はもっと重く怪しい。
「知ったら消されるかもしれないってことだ。」
「は?誰に……。」
「俺が探るとナマエが目立つからね。俺も気になるけど知れるのはここまで。
で、俺は引き続き暗部に監視と……今度は護衛を命じた。ま、サスケがいつまた接触を図るかもわからないし、ナマエがどこにどう狙われるのかわからないからね。」
カカシはそう言ったが、カカシには薄っすらとナマエを消そうとする人物の見当がついていた。木ノ葉の上層部。おそらくサスケかイタチのことで、ナマエは都合の悪いことを知ってしまったのだろう。カカシの信用できる者でないとナマエの護衛は頼めない。
「……狙われるって……。」
「このことを知っているのは五代目と尋問をしたイビキとその場にいた2人の尋問班の人間と俺とネジくん、それにシカマルだけだ。」
シカマルは黙って聞いていた。仲間は守るのが木ノ葉流。同期がサスケを連れ戻さんとする中で素知らぬ顔をしてサスケと関係を持っていたナマエを、仲間として守ることに少しだけ思うところがあった。
「ナマエのこと、複雑なのはわかるけど守ってあげてよ。」
カカシはそんなシカマルの気持ちはお見通しだった。カカシは腕を組んで、少し目線を落として言った。
「シカマルだってわかってるだろ。ナマエがサスケのことを黙っていた気持ち。」
「……。」
「もちろんナマエの行動は褒められたもんじゃないよ。ナルトやサクラを見てると悔しい気持ちになるのもわかる。それでも……。」
カカシは出会う前のナマエとサスケがどう生きてきたか見ているわけじゃない。一族全員を殺されたサスケと両親を一度に亡くしたナマエが、身を寄せ合って寂しさを紛らわせていた幼少期は想像に難くない。
「そんなことはわかってます……。」
「お前ね、……まあいいや。ナマエが背後からブスリとされないように、お前も気にかけといて。」
じゃあな、とカカシはシカマルを置いて去っていった。カカシの後ろ姿を見送り、シカマルはカカシが言いかけてやめたことを考えた。
――俺がナマエを許せないのは、ただの嫉妬だ。
シカマルは自分がこんなにも子どもっぽいとは思っていなかった。ナマエのことを大人しくて初で、サスケにキャーキャー騒いでいたくのいちの同期たちとは違うと思っていたから。ナマエにはそんな幻想を抱いていて、まったく別の問題と混同して考えてしまっている。
そんな時、ナマエが眩しい顔をしながら建物から出てきた。カカシとシカマルが移動した先は木ノ葉隠れ情報部の建物のそばだった。尋問が終わって自白剤が切れるまで寝かされていたのだろう。いつもより無防備で気だるげに歩くナマエは、視線を感じたのかふいにシカマルの方を見た。
「!……シカマルくん。」
「……。」
ナマエは陰になったシカマルの顔がよく見えなかった。それでも、シカマルの顔は想像できた。きっと軽蔑しているに違いないと思った。
「……ごめんね、」
ナマエはそれだけ言うと、シカマルから目をそらしてもともと進んでいた方向へ顔を向けた。自分に傷付く資格はないと思った。疲れていて声が張れず、小さな声になったが聞こえただろうかと少し思ったが、もう関係ないことだ――と思い直しナマエはまた1つ捨てた。
「ちょっと待て……少し話そう。」
ナマエはたった今捨てたと思ったシカマルとの関係が思いがけず拾われ目を見開いた。シカマルがナマエの肩を掴んで、ナマエの動きを止めた。
「……うん。」
ナマエとシカマルは、以前2人で話した土手まで来ると、あの時と同じように並んで座った。
「……。」
「……。」
話そうと言い出したシカマルは空を眺めている。夕日が燃えるように美しく、ナマエも眩しく思いながら眺めた。話さなきゃいけないことはあるのに、うまく言葉にできない。
「……サスケを、」
「……。」
「サスケを、命懸けで連れ戻してくれようとしたり……里の未来を考えられるシカマルくんにとって、わたしを許せないというのはわかる……。」
ナマエは夕日を眺め続けるシカマルに顔を向けて言った。
「ごめんなさい……。」
シカマルはようやくナマエに目を向けた。シカマルはナマエの謝罪が聞きたかったわけではない。
「ナマエにとって、サスケはなんなんだ?」
「サスケのことは、家族みたいなものだと思ってる……。」
「……家族とはセックスしねーだろ。」
「!」
ナマエは突然のワードに驚き、少し耳を赤くして膝に顔を埋めた。同期の男性に自分の性事情を知られているというのはなんとも気まずい。たしかにシカマルの言わんとすることはわかる。お互いを家族と認識していたら性的に交わることは基本ない。
「サスケのこと好きなのか?」
「……。」
ナマエは答えられなかった。シカマルの言う好きは恋愛としてだということはさすがにわかった。正直、身体を許したにも関わらずサスケのことは弟のようにしか思っていなかった。どちらかというと恋愛として好きな方が自然だというのに。
シカマルは顔を隠すナマエをチラッと見てからはぁと息を吐いた。やっぱり女はよくわからなくてめんどくさい。
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