口寄せごっこ | ナノ 十八


 それからナマエはネジに抱えられ、木ノ葉病院で診察を受けた。目立った外傷はなく、強い幻術による後遺症なので少し気を失っているだけであるという診断結果だった。
 シカマルとネジはナマエがいつ目覚めるかわからなかったが、ひとまず待つことにした。翌日の朝方になると、任務に行っていたカカシが戻り合流した。

「なるほど。ネジくんも協力ありがとう。暗部から報告は受けてる。いずれ君にはバレるだろうと思ってたよ。」

「いえ……。」

「十中八九ナマエはサスケと接触していた。匂いもついてるし、幻術をかけたのはサスケの写輪眼だろう。」

 カカシはベッドで目を閉じたままのナマエを抱きかかえた。ネジとシカマルはその行動に驚き、どうするんですかと聞いた。

「さっきまでサスケといたなら、サスケの今いる場所がわかるかもしれない。いつ目覚めるかも簡単に話してくれるかもわからないからね。」

「情報部でナマエの記憶を見るってことスか。」

「そ。さっき連絡を入れたら山中一族の子が1人空いてるっていうから。お前たちはここで帰っていいよ。」

 カカシはナマエを横抱きにしたまま、病室の窓から出ようとした。

「ちょっと待ってください!」

「このまま帰れるわけがない。ここまで首を突っ込んだのなら、何があったのか知る権利が俺たちにはあります。」

 シカマルもネジも食い下がった。ここまで協力させられて、じゃあおつかれと帰れるわけがなかった。それにシカマルはナマエの移動方法にもなんとなく検討がついていたので、その確信も得たかった。
 カカシは窓枠に足をかけながら少し考えた。ナマエにべっとりと付くサスケの匂いで、並んで座って仲良くおしゃべりしていただけではないとカカシにはわかっていた。ナマエのことを気にし、関係の深いこの2人が何があったか知るのはどうだろうと思った。あまりにも子ども扱いだろうか。

「んー……。まあ巻き込んだのは俺だからね。どういう事実がわかっても受け止めろよ。」

 カカシはさっと走り去ったが、ついて来いということだと思い、ネジとシカマルはカカシの後を追った。



「カカシさん、人遣い荒いっす。」

 情報部で待っていたのは、山中家の若い男だった。山中イノリと名乗った。眠そうに目をこすりながら、渋々といった感じで出迎えた。いのの親戚なので、シカマルは存在だけは知っていた。

「こんな時間に悪いね。」

 カカシは意識のないナマエを椅子に座らせた。

「俺そんなに記憶見るの早くないっすよ。」

 イノリはナマエの頭を片手で掴んで術を発動させた。ひとまず、ナマエが消えたあたりの時間を覗いていった。カカシとシカマルとネジはその様子を見つめ、待った。

「あーうちはサスケと接触しました。そこにいる彼と別れて、すぐ場面が変わりましたね。」

 そこにいる彼とはネジのことだ。シカマルとカカシは目を合わせた。やはりと。

「何か大事な会話があるか?」

 シカマルは腕を組んでイノリに問うた。イノリはうーんと唸った。

「何が重要かわかんないっすよ……。「今は困るよ修行中だったのに」。どうやらうちはサスケがナマエさんを一方的に呼び出しているようですね。」

「おそらく、口寄せの術だろうな。どういう経緯でそんな契約がなされたかはわからないが。」

 シカマルはナマエの家が口寄せに長けた一族であることを知っていたのでそう仮説を立てた。カカシもうんと頷いた。

「他には?場所とかできるだけ具体的に言ってくれ。こっちで考える。」

 カカシの言葉にイノリはあっ!と言った。

「ちゅーしました!」

「「「!」」」

「押し倒されて、クナイで抵抗しようとして……、うーんやりますね彼。ナマエさん絆されちゃってますよ。」

 イノリの緊張感のない実況とは似つかわしくなく、ネジとシカマルはピリッとしていた。カカシはやっぱりなと教え子を思い片手で頭を抱えた。

「うちはサスケは、イタチを殺したと言っています。犠牲になったとも。」

「犠牲……?」

 カカシは何のことだと考えたが、結局その情報だけでは答えが出なかった。シカマルもネジも情報を咀嚼し、イラつく心を落ち着けようとしていた。

「あー……、これは……。」

 イノリが言いにくそうに言葉を濁した。カカシはナマエの記憶の中で何が起きているか察した。

「完全にヤラレちゃってますね……。くそ、男に襲われる記憶は何度も見ても慣れねーな。」

 イノリは心底嫌そうにつぶやいた。その後も、「うわあ」だとか「うげ」だとかぶつぶつリアクションしている。

 ダン!

 近くで大きな音がして、カカシとシカマルは驚いて音の方を見た。ネジが壁を殴った音だった。ネジは下を向いたままだ。

「……胸糞悪いな。」

 ネジは部屋から出ていった。同じ男としてサスケのする行為が許せないのと、ナマエが襲われているということが無性に嫌だった。
 シカマルはそんなネジの態度を見るのが初めてで少し驚いた。シカマルも十分イラついていたのだが。

「うちはサスケの写輪眼を最後に、ナマエさんの意識は途絶えています。場所は白い柱がたくさんあって、外であるということしか……。」

 イノリは術を解くとナマエの頭から手を離した。カカシは場所を絞ることはできないかと悔しく思った。気になるところはあるものの、サスケの手がかりはかなり少ない。

「場所についてはまた後で詳しく聞くよ。」

 カカシはそばにあった椅子を引いてイノリを座らせた。

「もっと遡って見てみますか?」

 イノリはカカシを見上げて聞いたが、カカシは首を横に振った。

「いや、とりあえずいいよ。後はナマエが起きたら聞こう。」

 シカマルはイノリとカカシの会話を後ろに聞きながら、椅子に座らされたまま意識のないナマエの顔を見た。
 ふわふわといつも優しいナマエがどこか別人のように見えた。自分が知っているナマエという人間は虚像で、それしか見えていなかったのではないか。

「俺しか見られないので主観でものを言うのは良くないと思うんすけど、うちはサスケはナマエさんが断れないよう逃げ場を囲ってる感じですね……。」

 俺はナマエさん悪くないと思うなあとあくびをしながら言うイノリの言葉が静かな部屋に響いた。シカマルは今答えが出せないと思った。

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