十四
シカマルは綱手から自来也の訃報を受け、夜通し暗号解読の任務にあたっていた。暗号解読班から共通鍵暗号のことを聞き、鍵を知っていそうなカカシを捕まえて聞いていた。
「俺には何も思いつかないな。今度は五代目かナルトにあたってみたらどうだ?」
「五代目のところはもう行きました。ハァー……後はナルトっスか……。」
「暗号のこともそうだが、あいつのことも心配でね。そっちの方も頼む。」
ナルトは自来也の訃報で今にも消えてしまいそうだった。カカシはナルトに早く立ち直ってほしかった。シカマルはついでにしては重いこと頼んでくるな……と思いながら、眠たい頭を動かした。
「あんまり期待されてもね……ってそうだ、カカシ先生。その後、ナマエのことは何かわかったんスか。」
「サスケと接触はなし。不審な外出や怪しい行動も今のところない。元気にネジくんと修行ばっかりしてるよ。」
「え、ネジと?」
シカマルはここでネジの名前が出てくることが意外だった。たしかに一緒の任務をこなすことはあるようだったが、あまり接点があるようにも馬が合うようにも見えない。
「そ。……サスケのことは俺の勘違いだったのかと少し不安だよ。」
「俺もナマエのことは信じたい……けど、ナマエの家とうちはの集落は目と鼻の先にあった。知らなかったが、2人は……。」
騒がしいいのたちと違い、おとなしいナマエと仲のいい同期の男は少なかった。むしろ自分が一番近い存在くらいに思っていたシカマルは少し複雑な思いだ。
「うーん、そうね。もしかしたらサスケにとってナマエは、この里の誰よりも近い人間だったかもしれない。」
「それこそ、里を抜けた後も会いにくるくらいに?」
「サスケが里付近まで来ているとは考えにくいから、ナマエの方がサスケに会いに行っていると踏んでたんだがな。」
「……。」
ナマエとサスケが今も2人で逢瀬を繰り返していたという仮説に、シカマルはモヤッとした何かが心に流れ込んでくるのを感じた。ナルトやサクラが一生懸命サスケを追うのを横目にナマエが裏切っていたからか、もしくは……。
「ま、また何かわかったら報告してよ。このことは一部の人間しか知らない「可能性の話」だからさ。それこそ、俺もこの程度の情報でナマエが尋問されてほしくないからね。」
「そっすね……。」
シカマルはその後、ナルトを木ノ葉病院と暗号班へ連れて行き、なんとか暗号解読任務を完遂した。終日働き詰めだった後に夜から暗号解読をして、翌日昼前に妙木山まで行くナルトを見送った。
「よし、我々も自来也の遺した情報解読に専念するぞ。」
「了解っす。」
「ハイ!」
ナルトが逆口寄せで妙木山に消えると、見送りのシカマルとサクラと綱手は火影室へと戻ることになった。
「あら?ナマエじゃない。」
「サクラちゃん!綱手様とシカマルくんもこんにちは。」
道中、甘栗甘の外の席で茶を飲むナマエがいた。綱手は、頭を回転させるにも甘味はいいなと店内へ入り、団子を包んでもらっている。それに続きサクラも綱手の後を追って店内へ消えていった。
「こんな時間に1人で甘味か?」
「さっきまでヒナタがいたの。わたしは任務終わりで、ヒナタはこれから任務だって。」
シカマルはナマエの隣に座った。ナマエは皿に乗った残り1本のだんごをシカマルの方に押し、よかったらと微笑んだ。
「あーありがとうな。もらうわ。」
「お茶もいるよね?もらってこようか。」
ナマエはすっと立つと、店内へ入りシカマルの茶をもらいに行った。シカマルはその後ろ姿を見届けながら、本当に気が利くな……と思った。
「シカマル、何のんびりしてる。」
「まぁまぁ綱手様。シカマル昨日から働き詰めですから。」
綱手が団子の入った包みを片手に、シカマルを連れて行こうとしたが、サクラが止めた。シカマルは暗号解読の任務もあり一晩寝ていなかった。
「……それもそうだな。お前にはしっかり休んでまた働いてもらわねばならん。夕刻、また火影室へ来い。」
綱手はそう言うと、ヒールのついた靴をカツカツ言わせて去っていった。サクラはごゆっくりー!と意味ありげな笑いを残して綱手を追いかけていった。少し休息をもらえたのはありがたいが、サクラの笑みにめんどくせーと頭を抱えた。
「あら?綱手様とサクラちゃん行っちゃったの?」
ナマエは茶をシカマルのそばに置くと、再びシカマルの隣へ座った。
「ああ。」
「シカマルくん、隈できてるよ。寝れてる?」
ナマエがシカマルの顔を覗き込むと、シカマルは寝不足で反応が遅れ、目の前に来たナマエの顔にうおっと後ずさる。
「あ……ごめんね。」
ナマエはシカマルの反応にすっと離れた。
「いや、昨日一晩任務で寝てなくてよ、悪いな。」
ナマエは首を横に振ると、自分の茶を飲んだ。シカマルは、せっかくナマエに会えたしサスケのことを働かない寝不足の頭でなんとか聞き出せないか考えていた。
――サスケとナマエの関係性……。やっぱり恋仲と考えるのがシンプルか。
シカマルはナマエの横顔をチラッと盗み見る。漆黒の瞳を縁取る長く黒いまつげ。同じく黒い髪に、真っ白な肌。アカデミー時代は少し丸く、それはそれでシカマル的に可愛いと思っていたが、今はすっかり女性ならではの曲線的な体型。隣にサスケが並ぶところを想像して、なんとなくお似合いのような気がした。
「ナマエ、恋人はいるか?」
「えっ?」
「えっ!」
シカマルは、ナマエの恋人がサスケなのではと思い、それを遠回しに聞こうと思ったのだが、うまく頭が働かずナマエを口説いているような質問になってしまっていた。聞き返され、思わず慌てる。
「恋人はいないけど……どうかしたの?」
ナマエは驚いて少し恥ずかしそうに答えたが、シカマルが口説いていると勘違いしているわけではなさそうだった。ナマエは自己評価が低く、あまり自惚れないタイプだ。
「あ、いや……その、」
「ナマエ。」
「ネジさん!」
ネジがいつの間にかふたりの前に立っていた。ナマエはネジに気がつくと、ぱっと立ち上がった。
「もうすぐ時間ですね。今日もありがとうございます。」
「ああ。行くぞ。」
ネジはナマエの手首を取ると、シカマルを一瞬見てナマエを連れて行こうとした。それにナマエはわ、とバランスを崩しそうになりながらもネジについていった。
「シカマルくん、わたしこれからネジさんと修行なの。恋の悩みならいのちゃんの方がいいかも。」
ナマエはシカマルに恋バナを持ちかけられたと思い、ネジに引かれながらシカマルへまたねと手を振った。ネジは振り返らない。シカマルはその様子をポカンと見つめ、事態を把握してめんどくせーと頭をかいた。
「ネジさん、あの、」
ナマエはネジに引っ張られながら手が……と少し恥ずかしく思っていた。やがてずんずん進むネジに引っ張られてあっという間にいつもの修行場までくると、ネジはナマエの方を向いた。
「ナマエ、お前は鈍い。言葉の意味をもう少し考えろ。」
「えっ?……はい、ごめんなさい……。」
ネジはシカマルがナマエを口説いていたと感じたのでナマエの注意力のなさを叱ったが、ナマエは何かネジの気に障ることをしてしまったのだろうかと不安になった。
全員が勘違いしていた。
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