十二
サスケが大蛇丸を倒したという話は、自来也からの情報筋から瞬く間に木ノ葉の忍へ伝達された。サクラやナルトは大蛇丸から開放され帰郷するサスケに期待したが、現実は甘くなかった。
「ナマエちゃん、元気ないね……。」
「えっ、そんなことないよ。」
ナマエは誤魔化すようにお茶を飲んだ。
ヒナタとナマエはヒナタの家である日向宗家の縁側にいた。ナマエは非番なので、ヒナタに体術を教わった後休憩していた。
「……無理はしちゃだめだよ。」
「うん……ありがとうヒナタ。」
ヒナタは少し前からナマエの元気がないことに気付いていた。ナマエは昔から嫌なことがあってもわかりやすく泣いたり嘆いたりを人に見せないので、ヒナタは心配だった。
ナマエは今里で賑わっているサスケの動向を自分は先に知っていて会っていることを黙っていていいのか悩んでいた。話したところで、自分はサスケがどこにいるかも知らないから言える情報はない。それに、次また口寄せされた時にサスケの居場所を聞き出したりするスパイのようなことをさせられるに決まっている。
――そんなことは、わたしにはできない。
ナマエ自身サスケを裏切りたくもないし、おそらくサスケはナマエが裏切ったと知ったら、ナマエを殺すだけじゃ済まないだろう。
ナマエの瞳の色が、サスケのように暗くなった。
ナマエは暗い思考から逃げるように、ヒナタに向き合った。
「今日からだっけ?ナルトくんたちの任務。」
「うん、そうなの。」
ヒナタがナルトと任務に行くことは初めてらしい。ヒナタは頑張るナルトのために、自分の力を精一杯出すと意気込んでいた。
「……頑張ってね!」
「ありがとう、ナマエちゃん。」
サスケを探す任務だとわかっていても何も協力せず、知らん顔して友人を応援する自分は何者なんだろうとナマエは思った。
「ヒナタ様。」
「ネジ兄さん!」
そんな中、突然現れたのはネジだった。ネジはナマエが日向家に来ているとは思わず驚いた。
「ナマエ、来ていたのか。ヒナタ様、任務へ出発する前に当主からお話があるそうです。」
「わかりました。」
ヒナタが立ち上がるのと同時に、ナマエも立ち上がった。
「帰るね。修行付き合ってくれてありがとう。」
「うん、ナマエちゃんばいばい。」
ヒナタが家に入っていくのを見届けて、ナマエはネジと2人になった。
「ヒナタ様と修行してたのか。」
「はい。わたし体術が苦手なんです。あとチャクラ量を増やすにはやっぱり体力つけないとと思って。」
ナマエは口寄せを使う医療忍者なので後方支援タイプだ。そもそも敵に近付かれないような戦い方をするのだが、やはり何かあった時に体術は使えた方がいい。さらに、大きな口寄せを呼ぶためにはチャクラ量は多くなければならない。チャクラを増やすにはやはり修行をして体力をつけることが大事だ。
「そうか。ならば俺がつけてやろう。」
「え!そんな!申し訳ないです……!」
ネジとナマエでは実力に差がありすぎて、ネジの得は何もない。ナマエは恐れ多くて断ろうとした。
「ヒナタ様は優しいから俺が扱いてやろう。」
ネジはふっと微笑むと、ナマエの手を引いて日向宗家から出た。
――て、手が……!
ナマエはネジに手を繋がれていることに気が付き、顔が熱くなった。
門を出ると、ネジはぱっとその手を離して、俺たちがよく使う修行場まで行くぞと言った。まったく意識していないネジを目の当たりにして、ナマエは浮かれた自分が恥ずかしくなった。
ガイ班がよく使っているという修行場で、ナマエとネジは向き合っていた。ナマエは肩で息をしてバテバテで、ネジは怪我どころか、砂埃ひとつついておらず涼やかな表情だ。
「ハァ、ハァ……、すみません、もう1回……。」
「一度休憩したほうがいい。そんな状態で挑んでも強くはならない。」
ナマエは木に寄りかかると、息を整えた。ナマエがチラリとネジを見ると、ぱっちりと目が合った。
――弱すぎて呆れられてるよね、絶対……。
ナマエはネジの視線に耐えられず慌ててそらした。あまりにも自分の体術が不出来すぎて、ネジに時間を取ってもらうのが申し訳ない気持ちになる。
「たしかにお前の体術は弱い。だから俺が見てやっている。」
ネジがナマエの気持ちを見透かしてか、ナマエに言った。ナマエはしゅんとした。それでも、はっきり言ってもらった方が心が救われたのは確かだ。
「……ありがとうございます。」
「それに、お前の苦手な分野でやってるんだ。きついのは当たり前だ。」
ナマエはネジを見た。いつまでもうじうじしていられない。少しでも強くなって、見直してもらいたいとナマエは思った。
「よろしくお願いします!」
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