新学期が始まる朝、ナマエは早起きをして談話室で予習を行っていた。

 朝食前のグリフィンドール談話室は静かで落ち着いている。これがレイブンクローだと朝も談話室に人が多いと聞くが、グリフィンドール生は比較的夜型の生徒が多いのだ。よって、わざわざ朝の短い時間に移動して勉強することはなく、いつもは騒がしいテーブルとソファを優雅に使わせてもらっている。

 男子寮からどたどたと激しい足音が聞こえ、集中が切れてそちらを見上げてみる。ハリーと同室のシェーマスが急いで降りてくるところだった。

「おはよう。」

「おはようナマエ。僕は急いでるから行くね!」

 ネクタイを結びながら、慌てたようにまっすぐ出入口へ向かうシェーマスを見送って、ナマエは再び教科書に目を落とした。

 少ししてから、ハリーとロンが談話室へ降りてきた。一緒に朝食へ行こうとカバンに羊皮紙などを詰めていると、2人はナマエを待ってくれた。

「今日何かあるのかしら。シェーマスが急いで朝食へ向かってたわ。」

 ナマエの言葉に2人は顔を見合わせて嫌そうな顔をした。

「違うんだよ。シェーマスはちょっとイカレちゃったのさ。」

「母親もろともね。」

 どうやらシェーマスの母親は日刊予言者新聞の記事をまるっと鵜呑みにしているらしかった。ハリーは大ホラ吹きで危険な人物であるというその記事のことで、シェーマスと新学期早々揉めたようだ。
 ロンだけでなく、ネビルとディーンもハリーの味方だが、それでもハリーは浮かない顔だった。毎年ハリーは後ろ指を差されそれに耐えている。ナマエは気の毒に思い、去年ノアのせいで一緒にいられなかった分、できるだけハリーと一緒にいようと思った。





 朝食へ向かう前にハーマイオニーも合流した。

「あら?何かしら。」

 グリフィンドール談話室の掲示板に張り紙を見つける。
 張り紙にはこう書かれていた。

『ガリオン金貨がっぽり!小遣いが支出に追いつかない?ちょっと小金を稼ぎたい?本談話室でフレッドとジョージのウィーズリー兄にご連絡を。簡単なパートタイム。ほとんど骨折りなし。(お気の毒ですが、仕事は応募者の危険負担にて行われます。)』

「これはやりすぎよ。」

 ハーマイオニーは険しい顔で張り紙をはがした。はがした下には『10月のホグズミード休暇のご案内』が隠れていた。
 フレッドとジョージを叱るべきだというハーマイオニーとすっとぼけるロン。フレッドとジョージはすぐに見つけることができたので、ハーマイオニーがロンを連れて2人のもとへ向かって行くのをハリーとナマエは後ろから眺めた。

「監督生は大変ね。」

「ハーマイオニーは監督生じゃなくてもきっと双子に言いに行っていただろうさ。」

 4人のやりとりを少し離れたところから見ているナマエとハリーは好き勝手話した。
 しばらくぼーっとそのやりとりを眺めていると、ハーマイオニーが「え?」とすっとんきょうな声を上げた。

「どういうこと?悪戯専門店の開店資金はもう手に入れたってことなの?どうやって?」

「僕も考えてたんだ!夏休みに僕のドレスローブを買ってくれたけど、ガリオン金貨をいつそんなに手に入れたのかってね。」

「「企業秘密さ。」」

 ロンのドレスローブ分のガリオン金貨は、トライウィザードトーナメントでのハリー優勝賞金から捻出されている。
 フレッドとジョージは、勘のいいハーマイオニーの前でハリーに目配せするなどという愚行に出ることなく、よどみなく言い切った。ハリーはそれにほっと肩をなでおろした。

「ハリー、ちょっと。」

 ナマエはいろいろと思うところがあり、ロンとハーマイオニーを置いてハリーと大広間へ向かうように引っ張った。

「施しは嬉しくないと思うわ。」

 いつものすました微笑みは崩れて、真剣な表情をしている。だいたい何かやらかすと叱るのはハーマイオニーなので、ハリーはナマエの咎めるような口調にぎっくりした。

「施しだなんて。」

「ハリーにその気がなくとも、わたしがロンだったら傷付くわ。」

 ハリーとナマエは同級生たちが和気あいあいと朝食をとっているところから離れて2人で席に着いた。
 あまり大きな声で話したくない内容なので、ナマエとハリーは身を寄せて小声で話した。

「友だちから同情されるのってみじめなものよ。」

 言外に『あなたにはわからないでしょうけど』という気持ちが表れていた。ハリーは訳知り顔のナマエにむっとした。

「わかってるよ。僕だって『アッチ』ではたくさん家で働いてもお小遣いなんてもらったことない。」

「……!」

 ハリーの言う『アッチ』というのが、マグル界であることは察しがついた。ハリーは魔法界で英雄的扱いを受けているものの、養父母であるマグルの親戚からは決していいように扱われていなかった。

「ナマエにはロンの気持ちがわかるの?なぜ?僕はナマエのことを何も知らないからわからないよ!」

「……。」

 3年生の時、ナマエの家庭事情に何かあることはハーマイオニーはもちろん、ハリーもロンも気付いていた。ボガートの姿がおそらくナマエの母親であることは察しがついたし、スリザリン生にもたびたび家のことでからかわれているところを見ている。それでもハリーたちは何も聞かなかった。それはハーマイオニーの考えだが、ナマエから言うのを待ってくれているのだ。

「ごめんなさい……。」

 その3人の気持ちはナマエもわかっていた。いつか言おうと思っていたが、なかなか自分から言い出せなかっただけで、言いたくないわけではなかった。
 ナマエはハリーの分もかぼちゃジュースをゴブレットに注いで、ハリーが朝よく食べているトーストとベーコンを取り分けた。ハリーは急になんだとナマエの横顔をじっと見た。自分の皿にロールパンを取ると、ハリーに目配せした。食べろと言われていることを察してハリーはわけもわからずトーストをかじった。

「自分のことを話さずわかってもらおうなんて傲慢だったわ。」

 ナマエは落ち着かない様子でロールパンをちぎるが、それでも食べる気が起きないのかまた皿に置いた。

「大したことじゃないの。だから真剣に聞かないでちょうだい。」

 ハリーはここでようやく食べるよう促された理由がわかり、かぼちゃジュースをぐいと煽ってまるでナマエの話を聞くのは朝食のついでかのように振舞って見せた。ハリーの優しさにナマエの胸は温かくなって微笑んだ。

「わたしはミョウジ家当主の愛人の子どもなの。」

「!」

「母は今聖マンゴで療養中だし、ミョウジ家からのお金には手をつけられないから、裕福とは言い難い暮らしをしてる。だからロンの言う『貧乏はみじめ』って言葉が理解できるのよ。わたしがロンなら、友だちに――ハリーに恵んでもらうのは辛いと思ったの。」

「ナマエ……僕……、」

「でも、わかってるならいいの。余計なことを言ってごめんなさい。」

 ナマエが話を終わらせると同時にロンとハーマイオニーが朝食の席に着いた。
 2人が身を寄せてコソコソしているように見えたので、何の話をしていたんだとロンが聞いたが、「大したことじゃないわ」とナマエは微笑んだ。

prev next
back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -