ホグワーツに入学してから4回目の夏休みの大半をナマエは穏やかに過ごした。課題をとっとと終わらて入院する母親の見舞いに行き、友人からの手紙に返事を書いた。

 変わったことと言えば、ノアから手紙が来たことだ。ノアは年度末にダームストラングへ帰っていった。去り際に手紙を書くよと爽やかな笑顔で手を振ったノアが、宣言通り手紙を寄越してきたので、それに丁寧に返事を書いた。

 ――きっと父にも筒抜けだろうし。

 当たり障りなく、短くなりすぎないようこんなにも神経を使って書く手紙は初めてだ。

 さらにもう1つ変わったことがある。ドラコと文通が始まったことだ。ふくろうが何通か運んできた手紙の中で1番上等な封筒を真っ先に開けた。特別なことは書かれていなかったが、ドラコからの手紙は届くといつも1番最初に封を切って1番最初に返事を書いた。





『――僕がきっと監督生になるだろう。君もやや倫理観や素行に問題はあるが、成績は良いし監督生になるだろう。』

『――あなたに倫理観と素行についてとやかく言われたくないわ。表面上はうまくやってるし、道を踏み外したのは1回だけだもの。
 監督生にはなりたいわ。リーマスが監督生だったと聞いてから、監督生になるのが目標だったの。でもわたしはなれないかもしれない。スリザリンの監督生はあなたで間違いないと思うわ。』

『――監督生のバッジが届いた。僕が選ばれるのは当然だが。君はどうだった?
 隠し部屋でコソコソ薬を煎じるのが日常になっていることに関しては何とも思わないのか。あれも校則違反だと思うが。』

 ドラコがその次の手紙を受け取り開くと、驚いた。いつもはきちんと手紙のマナーがなっているのに、ナマエからのその手紙は前置きも「マルフォイへ」などもなくただ一文、『ずるいわ!わたしは監督生じゃない。』とだけ書かれていた。しかも返事がかなり早かった。
 
 普通ならばこの失礼な手紙を見たら何だこれと思うのだろうが、ドラコは少し笑ってしまった。感情のままふくろう便を飛ばすナマエを想像したからだ。ホグワーツに通うほとんどの生徒がナマエのこんなふうに感情を顕にするところを知らないだろう。その優越感でいっぱいになった。
 ドラコはその手紙を引き出しの中へ大事にしまうとまた返事を書いた。面白がっているのがバレないように極めて今までと同じようにフラットな態度の手紙だ。





 ナマエがいつもよりやや遅めに9と3/4番線に着くと、とびきり目立つ赤毛の集団が目に入った。続けて黒い大きな犬がいるのも見え、さすがに目立ち過ぎだろうと少しシリウスが心配になった。

「!」

 とびきり目立つ赤毛たちと大きな黒い犬に気を取られていたが、そこにはムーディーやリーマス、トンクスの姿まであった。
 トンクスはハーマイオニーとジニーを抱きしめ、何かを言ってにっこり笑っている。それをリーマスが微笑んで見守っている素敵な図だった。

「……。」

 ナマエはそれを見た後、その集団へ声はかけずに大回りをして最後尾に近い列車のドアの方へと向かった。
 大きな荷物を列車へ運びこもうとトランクの取っ手を持ち直して力を入れようとしたが、なぜか重みを感じずにひょいと持ちあがってしまった。誰かが持ってくれたのだろうと振り返る。

「え、」

 ドラコだった。
 もとより紳士的であるとは思っていたが、人通りの多いところで親切にされることはおろか、話しかけられることもなかったので驚いた。

「ありが……、」

「もう拗ねるのはやめたのか?」

 ナマエが素直にお礼を言おうとすると、ドラコはフンと意地悪そうに笑った。一瞬何のことかわからずキョトンとしたが、すぐ手紙のことだと気付いて顔が熱くなった。

「あれはっ、……勢いで書いて出しちゃっただけよ。あの後ちゃんと謝ったじゃない。」

 ナマエの反応がお気に召したのか、ドラコはめずらしく声を上げて笑った。いつもはすました顔か意地悪な顔でしか笑わないので、初めて見る少年らしい笑顔に少しドキリとした。しかし、自分のことで大笑いしているのは気に入らないため、コホンと咳払いをして笑うのをやめさせた。

「……監督生おめでとう。ずるいと言ったのはごめんなさい。でも羨ましいわ。」

「そんなになりたかったのか、監督生に。」

「そうね、1年生の時からずっと。」

「ルーピンの影響だと言っていたな。」

「ええ。監督生はリーマスのような優秀な人が選ばれるんだ思って。わたしもそうなりたいと思ってたわ。就職活動にも役立つし。」

「……じゃあ、ルーピンはきっかけに過ぎないということだな?」

「?まぁそういうことになるわ。」

 ドラコはナマエの答えに、ふーんと満足そうに笑った。
 人狼薬および魔法薬学のこともそうだったが、ナマエは『リーマスのため』という目的のために努力した『過程』がいつのまにかこちらが目的へとすり替わっていることが多い。ドラコはそれがやや気に食わない時もあるが、リーマスを忘れて魔法薬学や監督生にこだわっているならばまぁいいだろうと思っていた。

「きっと女子はハーマイオニーね。」

「ああ……。」

 ドラコはてっきりナマエと監督生をやれると思いこんでいたため、普段突っかかっているハーマイオニーという存在を忘れていた。ナマエは素行や人望、成績的にもハーマイオニーがいなければ監督生になれていただろう。

「僕は君と監督生になれると思っていたんだけどな。」

 ぽろりとこぼれた素直な言葉は、ナマエの耳にもしっかりと届いた。ドラコは自分の口から出た言葉を恥ずかしく思い、いや――と口を開いた。

「今のは――」

「通ってもいいかな?」

 ドラコとナマエは最後尾に近いとはいえ、ホグワーツ特急の出入口で立ち話をしていた。2人の間を小さく跳ねるように横切ったのはやや濁った色の金髪だ。背の低い彼女は青いネクタイを変な形に締めていて、夢見がちな瞳をくるりとさせて2人を見比べた。

「あ、ごめんなさい。」

 ナマエがさっと身体を引くと、その少女――ルーナ・ラブグッドはにっこり笑ってまた跳ねるようにコンパートメントへ吸い込まれていった。

「そろそろ席を取るわ。荷物、ありがとう。」

 ナマエはドラコが列車内に引き上げてくれたトランクを持つ。
 ホームで見たトンクスのことや監督生になれなかったことなどでモヤモヤした気持ちは、ドラコと話したせいかほぼ消えてスッキリとしていた。気持ちを新たに列車内の細い通路をコロコロと通っていった。

「グレンジャーよりは……ミョウジのほうがマシだ。」

 先ほどルーナが通ったせいで言えなかった本心でもなんでもない言い訳を、取り残されたドラコが1人で顔を赤らめながら呟いた。もちろん誰にも届いていない。

prev next
back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -