ハリーはなんとか第2の課題への対策を前夜に済ませて、当日マーピープルに挑むことが出来た。

 第2の課題前夜に、ドビーがえら昆布を用意してくれたことをハリーは半信半疑ながらもナマエへ報告した。姿の見えないロンとハーマイオニーの代わりにえら昆布がどれだけ信用できるものなのか、ナマエが透明マントを被って禁書の棚で調べてくると言った時はハリーは驚いていた。

「クィディッチのおかげで体力があるとは言っても、水へ潜るならよく眠って万全を期すべきだと思うわ。」

 ナマエが責任感に満ちた強い目のまま、ハリーを男子寮へ押し込んだ。こんなにも強引なナマエを初めて見たハリーは押されるままベッドへ転がって眠った。
 そのおかげか、ハリーはロンとガブリエールを救出してセドリックの次に高得点を獲得した。第1、第2の課題を合わせると、セドリックと同率1位だ。

 ナマエがハーマイオニーにホットチョコレートを渡すと、ありがとうと微笑んで受け取った。

「ロンとハリーも飲む?」

 ナマエはポットとコップを持ったまま尋ねると、2人は頬を赤らめながらぽけーっとしていた。

「気にしなくていいわ。あの女にキスされて浮かれているだけよ。」

 ハーマイオニーは嫌そうな顔をしてフラーを見た。当のフラーは妹のガブリエールへタオルを巻き付けるのに忙しそうだった。姉妹は濡れていてもひときわ美しく、輝いているように見えた。

「あれだけきれいなんだもの。わたしが男の子でもノックアウトされちゃうわ。」

「きれいだけど、嫌な感じだわ!」

 ハーマイオニーがぷんぷんしていると、クラムが構ってほしそうにハーマイオニーの髪についた水草のようなものを取ってあげていた。クラムがハーマイオニーと話したそうなのを察したナマエは、ハーマイオニーから少し距離を取ってあたりを見回した。
 労るようにチョウのそばにいるセドリックと目が合う。

 セドリックとナマエは天文台の塔で会って以来だった。しかし、いくらナマエが鈍感とはいえ、チョウとセドリックの間に座り込んで「ホットチョコレートはいかが?」と言うほど野暮ではなかった。
 1位おめでとうという意味をこめてセドリックへ微笑みかけると、ナマエはすっと視線を外した。かなりの自信作の『元気爆発ホットチョコレート』は、気が済むまでぽけーっとした後のロンとハリーに渡そうと思った。

「ナマエ、僕にもちょうだい。」

 気づかぬ間にセドリックが近付いていて、ナマエは目を丸くして驚いた。ナマエの視界には、水も滴るいい男のセドリックごしに、心配そうにこちらを見つめるチョウもいた。

「……もちろん。チョウが甘いもの苦手じゃなきゃ持っていってあげて。」

 2つのコップに、耳から煙が出るほどではないがたちまち元気になる成分が入った手製のホットチョコレートを注いだ。これはディメンター対策に去年から研究していたものだった。

「うん、美味しい。それに身体がすごく暖まるよ。ナマエが作ったの?」

「そう。美味しいなら良かったわ。」

 爽やかに笑うセドリックに、純粋に嬉しい気持ちとチョウをほったらかしにしてここで立ち話をさせてしまっていいのかという焦りにも似た思いがした。
 まったく飲む必要のないにも関わらず、気まずい思いでナマエは自分もホットチョコレートを飲んだ。じんわりと口に甘みが広がって、数週間前のバレンタインデーを思い出した。





 今年のバレンタインも昨年同様、ナマエはバレンタインカードをたくさんもらっていた。むしろ去年よりも多かった。
 2月14日の朝食時は、ゆったりと食事を摂るのを邪魔するかのようにいろいろなフクロウがナマエの頭にカードやプレゼントを落としていった。

「忘れてたわ、バレンタインの存在。」

 うんざりとはいかないまでも、好奇の目にさらされるこの日が苦手でナマエはいつもより元気がなかった。

「あら、去年は1か月も前からソワソワしてなかった?」

「……してないわ。」

 ハーマイオニーはニヤっと笑いかけてきたが、ナマエはカードに目を通すふりをして誤魔化した。リーマスのために張り切っていた去年のバレンタインをハーマイオニーはわかっているようだ。

 ハーマイオニーの言葉から逃げるように視線を走らせたカードは、ピンク色の可愛らしいものだった。空白があるだけで何も書かれていないそこをじっと見つめていると、ジワジワと魔法で文字が浮かび上がってきた。どうやら送る相手の手に届いた時にメッセージが表示されるような仕組みのようだった。

『セドリック・ディゴリーに近付くな。邪魔者は去れ。』

「あら、可愛らしいカードね。愛の告白?」

 隣に座るアリシアが声をかけてきたので、ナマエは不自然に見えない程度にそのカードを他のカードに紛れ込ませるようにしまった。

「そんなのじゃないわ。」

 ナマエは微笑んだ。「そんなのじゃない」ことは事実だった。嫌がらせのような攻撃的な魔法がかかっていないことは幸いだったが、改めてナマエはパートナーではないセドリックと踊ってしまったことがまずかったのではないかと思い始めたのだった。





「ナマエはよく厨房へ行くの?この間友だちが見かけたって言ってたけど。」

「……たまたまかしら。これは厨房を借りて作ってきたけど。」

 ナマエは内心ドキリとしながら、セドリックを見上げた。ハッフルパフ生は隠された厨房の存在を周知しているようだが、他寮生は知っている人のほうが少なかった。ナマエは双子に教えてもらったし、さらに奥の隠し倉庫のことはナマエとドラコ以外知らないはずだ。

 ぽたりとセドリックの髪から水が滴り、ポットを持っていたナマエの手に伝った。

「ああ、ごめん――」

 セドリックは自然な動作でナマエの手を拭う。チョウの視線が鋭くなったような気がした。セドリックの髪から水滴が落ちるほど近くにいることも、それを優しく拭われたこともとてつもなくまずいことのような気がして、内心冷や汗をかいた。

「気にしないで。それよりせっかく美味しく作ったのに冷めちゃうわ。」

 本当は冷めないよう魔法がかかっていたが、暗にチョウのところへ戻ったほうがいいと視線を配ると、セドリックはそうだねと言ってチョウの隣へ――本来いるべき場所へ――戻っていった。

「ナマエ、敵とそんなに仲良くするなよ。パートナーもそうだけど、君の交友関係はちょっとどころじゃなく変だよ。」

 存分にぽけーっとし終えたロンが咎めるようにナマエを睨んだ。ハリーの敵であるフラーにキスされてふわふわしていたことは棚に上げるのかと少し思ったが、口には出さなかった。

「そうね、気をつけるわ。」

「あなたたちは敵からのキスをありがたく受け取るくせにわたしたちにはうるさく言うのね!」

 ナマエも内心思っていたことをハーマイオニーが代わりに言った。またもクラムのもとを離れてロンの近くにいる。クラムはそれを静かに見つめていた。

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