クリスマスパーティーが終わると、皆熱に浮かされていた余韻に浸りながらも休暇中の課題をやっつけた。
 ロンとハーマイオニーはクリスマスの喧嘩の根本的な解決にはいたってないものの、クラムのことに目を瞑ってある程度はうまくやっていた。
 ナマエのパートナーへの文句もクリスマスの翌日にたっぷり聞かされたが、ナマエはそれをすべて右から左へ受け流した。ハリーはハーマイオニーのパートナーよりナマエのパートナーの人選を嫌そうにしていたが、ロンはその逆だった。それでもロンが「マルフォイなんかと行くなら僕たちと行ってくれても良かったじゃないか」と憤っていたので、ナマエは肩をすくめて誤魔化すしかなかった。

 ハリーはセドリックからのアドバイスを受けて監督生専用の風呂へ行き、卵の謎を解き明かして寮へと帰ってきた。
 第2の課題は水中で行われるようで、水中で呼吸をするための魔法が必要になった。ハリー、ロン、ハーマイオニー、ナマエの4人は何かいい方法はないかと図書室で調べることにした。

「ないわ!何も……。効果はあってもハリーが一生水の中で生きることになっちゃう……。」

「ハリーは水中でもうまくやっていけると思うよ。そろそろ地上は飽きたころだろ?」

「冗談言ってないで手を動かしなさい!」

 ハーマイオニーとロンが言い合うので、ちょうど通りかかったマダム・ピンスが大きく咳払いをして騒がしい2人を睨みつけた。

「なかなか難しいわ。水中で息ができるようになる魔法薬は何種類かあるけど、材料の調達も精製の時間も足りない……。」

 ナマエが悔し気に肩を落とした。ハリーは不安でいっぱいだったが、一生懸命な友人たちに感謝した。

「ナマエも……ありがとう。」

「もうすぐ図書室が閉まるわ。借りられるだけ借りて後は談話室に行きましょ。」

 ハーマイオニーが『深い水底の不可解な住人』と『突飛な魔法戦士のための突飛な魔法』を抱えて立ち上がった。ハリーとロンもそれに倣い、ナマエも『最も危険な魔法薬』をぱたんと閉じた。

「わたし、もう少し借りる本を吟味するわ。先に寮へ帰っていて。」

 3人に言うと、ナマエは更に奥の本棚の方へ向かった。顔に出ないのでわかりづらいが、ナマエの闘志には火が点いていた。ハリーの力になりたいという思いもそうだが、魔法薬で解決できそうな問題なので自分がどうにかできないかと思っているのだ。閉館ギリギリまでナマエは魔法薬に関する棚とにらめっこしていた。ふわふわと蝶のように舞う紙切れが視界に入って集中力が途切れるまで。

 ――これ、前にマルフォイが送ってきた手紙だわ。

 ドラコはふくろう便で待ち合わせ場所を伝えることもあったが、この方法で送ってくることも多々あった。どういう魔法なのか仕組みを知らないが、目的の相手を追跡して紙切れが飛んでいくもののようだ。
 ドラコとはクリスマス以来、見かけることはあっても顔を合わせてはいなかった。パーティーでのことを思い出し少し気恥ずかしくなりながら、ナマエは手紙を摘まむと中身を開いた。

『天文台の塔』

 マルフォイ家の紋章が薄っすらと印字されたメッセージカードを見て、天文台の塔だなんてめずらしいとナマエは思った。しかも、最近はめっきり呼び出されて何か命令されることはなかった。一度心の中で照れくさいようなくすぐったいような温かな気持ちがすっと冷める。いくら距離が近づいたと思ってもそれはこの歪な関係の上成り立っていることだ。ホグワーツにいる間はドラコの言動にナマエはただ従うのみだ。
 『最も危険な魔法薬』を棚へしまうと、消灯時間前に行かなければと天文台の塔へと向かった。





 天文台の塔へ続く階段は果てしなく長い。縦にも横にも大きなホグワーツ城だが、その最たる場所が天文台の塔だ。天文学で製図の課題は出ていなかったと記憶しているが、こんな場所で何をするんだろうと息を切らしながら階段を登った。

「『エクスペリアームス』!」

「!?」

 2つ目の踊り場を通過した直後、ナマエは背後から放たれた光線に対応できなかった。『ルーモス』しながら持っていた杖が弾かれるように背後へ飛んだ。
 ナマエがすぐさま振り向くと、杖先から『ルーモス』の柔い光で一層不気味に見える意地悪な笑み――ロウルとその友人2人の姿が見えた。

「本当に来たぜ。」

「マルフォイに従順だな、笑える。」

 仲間内でケラケラと笑うスリザリン3人に、ナマエは恐怖を感じた。杖を取られたままじゃ逃げられないし、何をされても身を守れない。

「……何か用?」

 精一杯の強がりで、ナマエは3人を睨みつけた。

「用って――なぁ?」

「マルフォイがお前を貸してくれるみたいだからさ。」

「ははっ、そうそう。遊ぼうぜ。」

 何が面白いのかニヤニヤと笑う3人に、ナマエは一歩階段を上がって後ずさった。走って逃げても塔のてっぺんに着くだけだし、背を向けたら何か呪いが放たれるかもしれない。しかも消灯時間はおそらく過ぎていて、誰かが通るとも思えなかった。

「『エクスペリアームス』!」

 ナマエが諦めかけたその時、聞き覚えのある声が石の壁に反響した。うわっという3人の声とともに『ルーモス』の光が遠ざかった。

「そこにいるのは……ナマエ?」

「セドリック、」

 計5本の杖を手にしたセドリックは、自分の杖を構えながらナマエの方への心配そうに駆け寄る。

「なっ……ディゴリー、なんでここに!」

「消灯後の見回りだよ。塔への扉が開けっ放しだから変だと思ったんだ。……杖は預かるよ、先生に報告して返す。」

「くっ、」

 ロウルたちは杖のない状態でセドリックにどうすることもできないと思ったのか、バタバタと階段を降りて行った。
 3人の姿が見えなくなって、ようやくナマエは緊張から開放されてへたり込んだ。

「ナマエ、大丈夫?」

「大丈夫。ごめんなさい、ちょっと気が抜けて……。」

 階段に腰を下ろすナマエの隣に、セドリックも腰を下ろした。

「消灯時間だからこんなところにいたらダメよね、もう行くわ。」

「落ち着くまで一緒にいよう。僕は監督生だからなんとでも言い訳できるよ。」

「……ありがとう。」

 ナマエはセドリックの優しさに甘えることにした。先ほどの出来事をまだ身体が恐ろしいと感じているのか、小さく手が震えるのをぎゅっと自分で握って誤魔化した。
 セドリックはその震えに気付いたのか、その上から自分の手を重ねた。

「あ!えーと……もう大丈夫よ、ありがとう。」

 ナマエは驚いてぱっと立ち上がった。驚きと別の意味の緊張で先ほどの恐怖が消えたのは事実だった。セドリックも特に気にしていないのか、ナマエに続いて立ち上がった。2人で階段を降りる。

「ナマエ。少しだけ聞こえてたんだけど、マルフォイが君を……貸したとか貸さないとか。」

 セドリックは気まずそうに切り出した。螺旋状の階段を降りながら、シンとした壁にセドリックの声が響く。

 ナマエはあのマルフォイ家の紋章が印字された手紙のこと、ロウルたちの言っていたことについて考えた。
 そして、図書室や厨房の倉庫、クリスマスパーティーでのドラコと過ごしたことが頭に思い浮かぶ。

「マルフォイはそんなことしないわ。」

 ナマエの口からは自然とその言葉が滑り落ちていた。思ったより大きく石の壁に反響した自分の声に内心恥ずかしく思った。

「やっぱりそうか。パーティーで君のことはすごく大切にしてるようだったから、変だと思ったんだ。」

「あ、大切とかそういうのじゃ……、でも、彼はそういうことはしないとわたしは思う。」

 セドリックとナマエは塔への扉を出て廊下を歩いた。セドリックはナマエをグリフィンドール塔のそばまで送ると、ナマエの杖を返して帰っていった。

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