ドラコはナマエのことをあまり知らなかった。彼女がグリフィンドールで自分がスリザリンだからだというだけではない。ナマエは他の生徒と比べてもかなりミステリアスな存在であることは間違いないだろう。

 さらに、ドラコは父親であるルシウス・マルフォイから「ナマエ・ミョウジとは関わらなくてよい」となんとも曖昧な指示を受けていた。その指示が出たのはホグワーツに着いて父からはじめて届いた手紙の一文であった。



 ドラコとナマエとの出会いは1年生の時にホグワーツ特急の中で軽く挨拶をしたところからだった。

 11歳のナマエは、親に連れられることなくたったひとりでキングズ・クロス駅に到着した。大荷物のカゴをのんびりと押しながら、早朝とも言える時間に少女がひとり歩く姿はマグルにも気になる存在ではあった。しかし、彼女は9番線と10番線の間へマグルに目撃されることなくすっと消えていった。

 ナマエは紺色のシックでシンプルなワンピースという出で立ちだった。ナマエは田舎といえどマグルの街で生活をしていたので、マグルの服装についても知っていた。魔女とマグルのどっちつかずの服でいけば適当だろうとナマエは考えて着てきた。
 早めにホグワーツ特急へ乗り込み、まだ人も少なくガラガラの車両から適当なコンパートメントに入り自力で荷物を詰むと、ダイアゴン横丁で買ったばかりの呪文学の教科書を読み始めた。
 人が増えてくるとあたりは騒がしくなったが、何も気にせずナマエは教科書を読み続けた。チラリとナマエのいるコンパートメントを覗いては入りたそうにし諦めていく生徒たちに気付きもせず優雅な読書の時間を過ごしていた。

 しばらくして汽車が出発すると、乗り込んだはいいものの空きのコンパートメントや友人を探す生徒で通路は騒がしかった。
 コンコンと扉がノックされる音にようやく教科書から視線を上げると、すらりと背は高いが顔立ちはまだ幼く新入生であろう男子生徒が立っていた。

「空きがない。ここに座っても問題ないか。」

「どうぞ。」

 その少年は無駄なことは言わず、ぶっきらぼうに尋ねた。ナマエは知らず知らずのうちに癖になっていた微笑みを顔に貼り付けて了承した。これは数少ない母親から教えてもらったこと――ナマエは微笑んでおけばいい。それを忠実に守っていた。

 少年とナマエにそれ以降の会話はなかった。お互い向かい合って買ったばかりの教科書を読んでいた。

 しばらくホグワーツ特急が走り続けていると、ぞろぞろ大きなふたりを引き連れた金髪の少年がコンパートメントに入ってきた。――ドラコだった。

「ノット、こんなところにいたのか。お前は当然スリザリンだろう?」

 ナマエの存在を無視して不躾に入ってきたドラコは、コンパートメントにいた少年――セオドール・ノットを見るなりにやりと笑った。
 セオドールは、魔法薬学の教科書から顔を上げると、「そうだろうな」と呟いた。
 その言葉に満足したのか、ドラコはふんと鼻で笑うとセオドールの向かいに座って呪文学の教科書を読んでいる少女に視線を向けた。視線を感じたのかその少女、ナマエは伏せていた顔をゆっくり上げると、自然な上目遣いでドラコを見た。

 ドラコは目が合うとドキリとした。理由は簡単で、その少女は父親が主催したパーティーで挨拶したことのある少女たちと比べて、大人びていて整った顔立ちをしていたからだ。
 ナマエはとりあえずで母親の言いつけを守り、ドラコに微笑みかけると――ドラコはまたドキリとした――また視線を教科書に戻した。

「君も1年生か?僕はマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ。ノットとは知り合いか?」

 ドラコはナマエに挨拶と質問をぶんぶん投げつけた。再びナマエは顔を上げて教科書を閉じた。

「ナマエ・ミョウジ。1年生。彼とはたまたま同じコンパートメントを使っていたの。」

 ナマエは後ろにいるクラッブとゴイルにも視線を寄越すと、ドラコにまた笑いかけた。
 ドラコは考えていた。ミョウジといえば純血の名家。マルフォイ家とはそれほど深い付き合いはないが、友人として付き合うには悪くない家柄だと。そしてきっとナマエもスリザリンに組分けされるだろうとも。

 それからナマエは制服に着替えるから退席すると言うと、ドラコの真横を通って出ていった。

 しばらくドラコはポーっとしてしまったが、紳士らしくあれと首を振り、セオドールだけを残してコンパートメントを後にした。少し寄り道をし、ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーにちょっかいをかけた後、そのまま取っていたコンパートメントに戻った。

 その後ドラコは、ホグワーツに着き帽子による組分けで被りきらずにスリザリンに選ばれ、上機嫌であった。パーティーで何度か会ったことのある純血の者たちも、もれなくスリザリンだ。

「ミョウジ・ナマエ!」

 ナマエの名前が呼ばれると、1年生の群れの中からアッシュ系のシルバーの髪が覗いた。可愛い女子生徒がいるかチェックしていたドラコの斜向かいの上級生が、おっ!と声を上げたし、ドラコの隣の隣に座っていた純血の上級生は、ミョウジ家に女の子どもなんていたか?と話していた。

 容姿と名字のせいで軽いざわめきが起き、ドラコは自分が褒められているような気持ちになった。

 ――彼女は僕が誰よりも先に目をつけていたし、もう友人だ……。

 自分の隣に呼んでやろうかとドラコが考えていた矢先、組み分け帽子は高らかに声を上げた。

「グリフィンドール!」

 グリフィンドールがわっと盛り上がり、彼女はグリフィンドールの空いた席に着いた。いろんな人に声をかけられ、輪の中でナマエはきれいに微笑んでいた。
 遅れてスリザリンはどよめいていた。ミョウジ家なのによりによってグリフィンドールなんて。
 ドラコは裏切られた気持ちだった。悔しく思ったが顔に出すまいと思っていた。

 その後、全員の組分けが終わると食事の時間になった。ホグワーツの食事はマルフォイ家のパーティーにも引けを取らなかったし、悪くないなと友人と話しながら食事をとった。チラリと彼女を見ると、いつの間にかウィーズリーの双子に挟まれて、ハリーらと談笑しているようだった。彼女の笑みは自分に見せたものと同じだった。

 それから各寮に案内され、部屋に戻ると同室のクラッブとゴイルは早々にベッドに入っていった。ドラコはというと、無事スリザリンに組分けされたこと、スネイプに挨拶したこと、コンパートメントで友人になった者の名字を両親への手紙に書き連ねていた。
 彼女もおそらく純血だし、両親も彼女と仲良くすることを勧めてくるかもしれないと思い、ドラコはナマエのことも手紙に書いた。

 ――あとは、コンパートメントでナマエ・ミョウジと友人になりました。彼女はスリザリンではないですが、ミョウジ家の方とも今後付き合っておいてもいいと僕は思っています。

 ドラコは手紙を書き終えると、シーリングスタンプを押して乾いてからローブのポケットにしまった。
 両親にはよくやったと言われると思い、満足気でベッドに入った。ナマエはグリフィンドールだが、向こうが仲良くしたいならばしてやってもいいと思い直していた。明日、朝食に行く途中手紙を出そうと考えて眠りについた。

 そして、翌日出した手紙はその日の夜のうちに返事が来た。両親とも別々に送ってくれた手紙には、概ねよくやった、自慢の息子などという文字が連なっていたが、父親からなんでもないことのようにさらりと書かれていた一文が引っかかった。

 それが理由も特に書かれていない、「ナマエ・ミョウジとは関わらなくてよい」だった。

 ドラコは驚きながら、慌てて、丁寧に母親への返事と父親への返事を別の手紙にして書いた。一番聞きたいこと――「ミョウジと関わる必要がないとはなぜでしょうか」と――父親への手紙に書いたが、父親からの返事はそれについて一切触れられることはなかった。

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