12月に入ると、ホグワーツの大広間はクリスマスの飾り付けでたいそう華やかになった。クリスマスツリーは12本も飾られ、いたるところでクリスマスキャロルが鳴った。
 ここのところ別行動していたが、久しぶりにハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が集まって談話室で固まっていたので、ナマエもそこに座った。

「ハリーとロンは食欲がないの?」

 談話室のテーブルに広がっている百味ビーンズやカエルチョコが未開封のままだった。いつもならパクパクと食べているだろうにおかしいなとナマエは思った。

「そっとしておいてやりなさい。2人とも傷心中なのよ。」

 あまり機嫌の良くないハーマイオニーが訳知り顔でロンとハリーについて言及したので、ナマエはまたハリーがひどい嫌がらせでも受けているのではと心配になった。

「ナマエが考えているようなことではないから安心なさい。」

 ハーマイオニーはナマエのちょっとした表情の変化で何を考えているかわかったようだった。ハーマイオニーが言うならまぁいいかとナマエはそれ以上聞かなかった。実際、ハリーはチョウにパートナーになってほしいと頼んで断られたショックを引きずっているだけだったし、ロンはフラーに申し込んで撃沈しただけだった。ナマエは人の気持ちにも噂にもかなり鈍感であった。

「そうだ!ナマエ!君全員にパートナーを断ってるって聞いたよ!僕たちは友だちだから行ってくれるだろ?」

 ロンがぱっと顔を上げてすがるようにナマエを見つめたので、ナマエは申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんなさい……えっと……返事をする人は決めてるの。」

 何と言えばいいか迷って、ナマエはそう口にした。開けてさえいないがノアからドレスは届いていたので、そろそろパートナーをあてがわれるころだと思った。

「なんだそれ!焦らして何のいいことがあるっていうんだ?君ひどいよ!」

「ナマエに八つ当たりするのはよしなよ……。」

 ロンの目が血走っていてナマエは引いたが、ハリーがたしなめてくれたのでロンは大人しくなった。そして、ナマエからハーマイオニーに視線を移した。

「ハーマイオニー、そうだ……君はれっきとした女の子だ……!君が僕たちのどちらかと行けばいい!」

「お生憎さま。わたしは他の人と行くことになってるの。一緒には行けないわ。」

 ロンの失礼な物言いにツンとハーマイオニーはそっぽ向いた。

「そんなはずない!ネビルの誘いを断るためにそう言ってるだけだろ?」

「だから、言ってるでしょ!他の人と行くって!」

 ハーマイオニーは怒りながら女子寮の方へさっさと行ってしまった。ナマエは追いかけるべきか迷って、1人にするべきだと思った。

「ロン、ちょっと冗談がキツいわ。」

 ナマエはロンの言い方に少し悲しく感じてハーマイオニーとは逆方向へ立ち去った。ナマエはロンが冗談で言っていると思っていたが、実際は大真面目にすごく失礼なことを言っていたのだ。





 ナマエはひとりで厨房の倉庫まで来ていた。ここに来るまでの間にハッフルパフの同級生に声を掛けられたが、急いでるのと言って立ち去った。自意識過剰かもしれないが、なんとなくダンスパーティーのパートナーに誘われるような気がしたためだ。

 ガチャリと倉庫の扉を開けると、人影があり思わずびくっとしてしまう。ここにいる可能性があるのは自分を除いてたったひとりだけだ。思った通りドラコがいて、扉の音に驚いたようにこちらを向いていた。

「来てたのね。」

 ナマエは小さな座り心地の悪い椅子に座ると、カバンから本を取り出して開いた。ドラコはナマエの一挙一動を見届けてから隣に腰掛けた。

「……。」

「……。」

 ナマエは魔法薬学について書かれた本の目次を眺めながら、誰かと一緒にいてダンスパーティーの話にならないことに違和感を感じた。そのくらい、ホグワーツはダンスパーティーの話で持ちきりだった。

 ――マルフォイは誰を誘ったのかしら。

 スリザリンの誰かであることは予想がついた。もしくはボーバトン。ふとドラコと接近した時にふわりと漂ったさわやかな甘みの香りを思い出し、きっと同級生と比べてかなりスマートにエスコートできるだろうなと考えた。ハリーやロンがエスコートしている姿をまるで想像できない。

 しばらくナマエは集中して本を読みふけった。最近は図書室もクラムが入りびたるせいで取り巻きがうるさく、談話室などもってのほかだった。

「……ロウルに誘われたらしいな。あとザビニ。」

 ナマエは弾かれるようにドラコへ視線を向けると、本さえ開いていないドラコが机に向かってしゃべっていた。

「ザビニは100人くらい声をかけてるって聞いたわ。ロウルって人は知らない。」

「100人も声をかけるわけがないだろう。……せいぜい50人くらいだ。ロウルはスリザリンの5年生。」

 スリザリンの5年生、と言われてピンときたのは1人だ。ナマエに1番最初に声をかけたノブレスオブリージュの人だ。
 ロウルという名前なのか、とナマエは納得してまた本に目を落とした。ロウルといえば聖28一族のうちのひとつで、かなり名家なはずだ。ノアが見繕ってくる人物はひょっとしたらロウルかもなとナマエは不安に思った。

「ダンスなんてしたことないから憂鬱。相手に迷惑をかけちゃうわ。」

 ぽろっとナマエの口から本音がこぼれた。仲良い者同士なら気にならないだろうが、良く知りもしない名家の御子息と踊るなら、マナーやダンスの基本は身に着けないといけないだろうと思った。

「……そんなことを気にするやつはいないだろ。」

 ドラコは、人気者のナマエをパートナーにしてダンスの得手不得手やマナーをとやかく言う人はいないと思った。

「そういう人とパートナーになれればいいけど。」

 ナマエが本に目線を落としながらつぶやくと、ドラコの方から――というよりドラコの座っていた椅子からガタガタン!と大きな音がして驚いた。
 ドラコは転んだりはしていなかったが、目を丸くしてナマエの方を見ている。なんだろうとドラコを見つめ返した。

「君が僕のパートナーになればいい。まだ決まってないってことだろ?」

「え……、」

 ナマエは驚いて固まった。ドラコからの打診はお誘いでも命令でもなく提案だった。そして、その提案はなかなかに「アリ」だとナマエは思った。

 ノアにあてがわれる見ず知らずの人とパーティーに行くより、しょっちゅう一緒にいるドラコの方が気を遣わなくて済む。それにダンスやマナーがなってなくてもいいと言ってくれた。――そして何より、ノアが許可を出してくれそうな「マルフォイ家嫡男」だ。

 その提案はナマエにとって考えれば考えるほど魅力的に映った。ハリーやロン、ハーマイオニーにはどやされるかもしれないが、ノア――もといその上の父親が納得するパートナーであればいい。

「いいの……?わたしで?」

「え?あー……お前が……、別にいい。」

 歯切れの悪いドラコだったが、ナマエはどうでも良かった。ここ何日かの薄暗い霧がぱっと晴れたように思えた。

「わたし、あなたと行きたい。」

「!」

「ノアに相談してみる。ふくろう便を飛ばすわ。」

「相談……?」

 ドラコが何の相談だと首を傾げている間に、ナマエは魔法薬学の本をカバンに詰めてさっさと部屋を出ていった。足取りは軽やかだった。

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