ハリーは代表選手の発表からしばらくは針のむしろに座る状態だった。スリザリンとハッフルパフを中心に、セドリックを応援する軍団にかなり嫌がらせを受けていた。
「ロン、ハリーと一緒にいてあげられない?」
ナマエは談話室でロンを捕まえると、諭すように優しく問いかけた。
「先に裏切ったのは向こうだよ!そんなに言うならナマエがお守りをすればいいさ。」
ドスドスと足音を立てながら男子寮に入ってしまうロンの後ろ姿を見届けることしかできなかった。そうしたいのはやまやまだったが、ナマエはノアの監視がある以上、悪目立ちの頂点であるハリーと一緒にいるのははばかられた。
理由は言えなかったが、しばらくは一緒にいられないとハリーに直接伝えたら、「君もセドリック派だもんね」と嫌味を言われて去られてしまった。ハリーの気が立っているのも十分理解していたのだが、ナマエは自分の無力さを痛感して静観に徹した。
結局、第一課題が終わると形勢は逆転した。
ハリーはハンガリーホーンテールから見事な箒捌きで卵を奪い、英雄となった。
ハリーにとって何よりも幸福だったのは、ドラゴンとの死闘を前にしたロンが、「自ら代表選手に志願するなんて絶対にイカれてる」とハリーの無実を信じたことだった。ハリーは英雄となった上に親友のロンと仲直りして、ついでにナマエのことも許したようだった。
「ハリー、そばで応援できなくてごめんね。」
「いや、僕こそごめん。ナマエに元気がないのはわかってたのに……。」
ハリーは他の誰よりも自分のことで手一杯なことはわかっていたので、ナマエはそんなことないわと頭を横に振った。
とある変身術の授業終わり、マクゴナガルがクリスマスダンスパーティーの開催を通達した。
「クリスマスダンスパーティーが近付いてきました。トライウィザードトーナメントの伝統であり、外国からのお客様と知り合う機会でもあります。4年生以上が参加を許され――」
クリスマスダンスパーティー、と聞いてパーバティーとラベンダーは顔を見合わせてクスクスと笑った。それ以外の女子生徒も、あまり顔に出ないようにではあるが、コクンと頷きあったり口元が緩んでいたりする。
その日から、ホグワーツ中が甘ったるいような酸っぱいような独特の雰囲気に包まれた。女子はいつも以上に複数で固まりクスクス笑っているし、男子は誰を誘うべきかソワソワとしている。比較的、ハーマイオニーとナマエは落ち着いていた。
「ハーマイオニー、魔法史の課題は終わってる?どのくらい書いた?」
「ええ、たしか1巻と……、」
ハーマイオニーの言葉は、乱暴に投げられた「ミョウジー、」という呼び付けで最後まで聞き取れなかった。
呼ばれた方を向くと、いつもちょっかいをかけてくるスリザリンの5年生が数名いた。
「ミョウジ家にドレスも用意してもらえないんだろ?まさか娼婦の母親のセクシードレスでパーティーに参加する気か?」
何が面白いのか、ゲラゲラと下品に笑う名前も知らぬその上級生たちをチラっと見て、足を止めて損したとばかりにぐんと大きめの一歩を踏み出した。
「俺が買ってエスコートしてやろうか?こういうのをノブレスオブリージュって言うんだ。」
「こいつに誘われたいって女、結構いるからミョウジはラッキーだな。」
行手を妨げて勝手に騒いでいる男たちを冷めた目で一瞥すると、ナマエは無言でハーマイオニーと立ち去った。後ろでギャーギャーと騒がしかったが、振り向かない。
「ちょっと、ナマエ、待って!」
一生懸命ナマエの早足に着いてきていたハーマイオニーは、ナマエの肩に手を置いた。
「ちゃんと断るべきよ。行けないって。もしくは行きたくない、でも良いわ。」
「真摯に向き合うのが馬鹿らしかったの。」
「それはわかるわ。でもね――きっとナマエはこれからクリスマスまできっとたくさんの人からパートナーに誘われるわ。行きたくないと思ったら絶対、いい?絶対よ、きっぱり断ること!」
「……わかったわ。」
ハーマイオニーは大げさだなと思いながら、ナマエは反論する気持ちを飲み込んでコクリと頷いた。その後何度か「ノー」と言う練習をさせられ、ナマエはげんなりした。
ハーマイオニーの言ったことは決して大げさではなかった。
ノブレスオブリージュにかこつけた馬鹿馬鹿しい誘いはあれっきりだったが、昼休みや空き時間、夕飯前と時と場所を選ばずナマエは知り合いからもそうでない人からもパートナーの打診を受けていた。
「おっ、ナマエ!今日は何人の男を泣かせてきたんだ?」
「ナマエが何人フるか賭けようか?」
「ノった!」
「……。」
グリフィンドール談話室に戻った疲れ気味のナマエを愉快な双子が出迎えた。ナマエはフレッドとジョージに一瞥くれると、黙ったまま女子寮の方へ歩いた。
「待て待てナマエ。悪かったって。」
フレッドとジョージが通せんぼするので、仕方なくナマエはふうと息を吐いて立ち止まった。
「わたし意外なことに結構人気があるみたい。」
ナマエは冗談っぽくやれやれと肩をすくめた。
「君の人気はバレンタインカードの数に表れてたろ。」
「そうだよ、君が容赦なくバッタバッタ斬り捨てるから、君の後ろには惨敗した男の屍の山が出来てるって噂になってるぞ。」
「そんなわけないでしょ。」
実際、ナマエはハーマイオニーが図書室で勉強をしている間は1人でいることが多く、声をかけられやすい要因の1つとなっていた。
ハリーとロンはパートナー探しで2人きりで行動しているし、同級生の女の子たちはダンスパーティーの話ばかりで距離を取っていた。「誰と行くのか」と聞かれたら答えられないので、ダンスパーティーの話を避けると必然的に後輩といるか1人きりになっていた。ナマエ自身、自分が誰とどんな格好で行くのか知らないから聞かれても困る。
「で、誰と行くか僕たちにだけこっそり教えてくれよ。」
フレッドがニヤニヤしながらナマエの肩を肘置き代わりにしてきたので、それをチラっと見た後甘んじて受け入れた。
「あなたたちにだけこっそり教えたら明日学校中の人が知ってることになるわ。」
「気になるだろ、君ってば1番最初に声をかけてきたヤツに何も考えず頷きそうなのにさ。」
「そうそう、面倒なことは嫌いだしこの状況もウンザリだろ?」
フレッドとジョージの言うことはその通りで、ノアから何も言われていなければ、ある程度知った人の誘いであれば受けようと思っていただろう。ナマエは内心双子に自分の考えが筒抜けなのを意外に思った。
「みんなナマエが傷心中だからこれを好機に思ってるのさ。」
「……傷心中?」
フレッドの言う傷心中が何のことかわからず聞き返した。するとジョージがフレッドを小突いて「おい」と言った。フレッドも「おっと」と大げさに口元を隠した。ナマエは2人を見比べるように黙って見上げた。追加で言葉を投げかけてはこないが、言うまで待つわよと圧をかけるナマエに、2人は顔を見合わせた。
「ナマエがルーピンを好きだったって噂になってるよ。君、大広間で泣いてたろ。」
「だから、君は今フリーだし弱っているところにつけこもうって輩が絶えないのさ。」
双子の言葉にナマエはしばらく無言で、「なるほどね」とだけ言うと女子寮の扉へ吸い込まれるように立ち去った。
泣いていたところを思ったより多くの人に見られていたことは恥ずかしいことだと思ったが、リーマスを好きなことが周知の事実であることは正直どうでも良かった。ホグワーツで噂になったところで本人には届かないのだから。そんなことより一刻も早くパートナーをあてがってくれやしないかと心の中でノアを急かした。
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