4年生にもなると、授業はますます難しく過酷なものになっていった。特に、闇の魔術に対する防衛術がそうだった。例年に比べても過激と言わざるを得ない。

「服従の呪文を1人ずつかけていく。力に精一杯抵抗してみろ。」

 ムーディーが言うと、教室中がざわざわとどよめいた。

「先生、それは違法なのではないですか?たしか……同類であるヒトに使用しては……、」

「ダンブルドアが、これがどういうものかを体験させ教えてほしいと言った。」

 ハーマイオニーが挙手して発言したが、ムーディーによって一蹴された。ますます生徒たちはざわめいた。

「もっと厳しいやり方――例えばいつか誰かがお前にこの呪いをかけ、お前を完全に支配するその時に学べばよいというのであれば、わしはいっこうに構わん。授業を免除する。」

 その言葉にハーマイオニーだけでなく生徒もシンとした。ムーディーの言葉、もといダンブルドアの意向は、まるで服従の呪文をかけようとする脅威が生徒たちに迫っているように聞こえた。

 それからムーディーは机を端に寄せ、生徒を1人ずつ教室の中央へ呼び出して服従の呪文をかけていった。
 ナマエはそれを眺めながら少し憂鬱な気分になった。服従の呪文にかけられた生徒たちは皆滑稽で哀れに見えた。自分もそうなるかと思うとゾッとするし、何より強制的に服従するなんて恐ろしいと思った。

 ディーンが国家を歌いながら片足ケンケン跳びで教室をまわり、ラベンダーはリスの真似をしている。ナマエがその様子を眺めていると、ムーディーの魔法の目がギョロリとナマエを捉えた。

「次、ミョウジ。」

 ナマエはふうと息を吐くと、ムーディーの前に立った。

「『インペリオ』!」

 ムーディーの唱えた呪文はナマエの中にすっと溶けて消えていくように入った。抗おうという気持ちにはなれず、ただ心地よく脳に直接響くムーディーの声に身を委ねた。

「『ローブを脱いでそれと踊れ』。」

 ナマエは恍惚とした表情でコクンと頷くとローブの留め具を外して、ゆっくりとローブから腕を抜いて肩から滑り落とした。

 教室のざわめきを薄っすらと感じながらも、そのすべてがどうでもよく感じ、ローブの袖口を持ってくるくると回転する。スカートがふわりと広がり小さくステップしたところで、弾けるようにパッと意識が戻った。

「あ……、」

「去年の防衛術の成績が極端に良いのはまぐれか?次、ポッター!」

 ナマエはムーディーに言われたことを理解する前に自分の手元にあるローブを見た。服従の呪文をかけられている間の記憶はしっかりあるが、なぜ自分がそんなことをしたのか理解できない。

 ハリーと入れ替わりで端に寄ると、いそいそとローブを羽織った。その間にムーディーに言われたことをようやく理解できて悔しく思った。
 言われたことはその通りで、リーマスに良いところを見せようと例年以上に気合が入った結果だった。服従の呪文を跳ね除けるほど、ナマエは闇の魔術に対する防衛術の本当の力は持っていない。

 ナマエがぼーっとしていると、寄せられた机の1つがバタンとひっくり返ってそちらに意識がいった。

「よし!それだ!お前たち見たか?ポッターが戦った!もう一度やる……ポッターの目を見ておけ!」

 ハリーが服従の呪文に抗って見せたようで、グリフィンドール生がわっと盛り上がった。ナマエはそれを後ろから見ている。

「ミョウジ、エロかったよな。」

「全部脱ぐかと思った。」

 スリザリン生がナマエの斜め前でコソコソと話しているのが耳に届いた。その内容が不愉快でナマエはその背中を冷ややかに睨みつけた。

「くだらないことを言うな。」

 2人の下衆な会話を咎めたのは意外にもドラコだった。

「それより見ろよ、また英雄ポッターが目立とうと必死だぞ。」

 ドラコの言葉によってそのスリザリン生たちはハリーに意識がいったようで、それ以上ナマエについて言うことはなかった。そしてナマエがそれを聞いていたことにも気付いていないようだった。

 ナマエは、ドラコが意図して自分の名誉を守ったのかはわからなかったが、一瞬暗くなった胸の内の黒いモヤがすっと引いた気がした。





 授業が過酷になったのは闇の魔術に対する防衛術だけではなかった。占い学は夢占いで導いた 予言を2週間分毎日レポートに書き留めるよう課題がたっぷり出て、変身術も魔法薬学もより高度な内容になっていった。
 マクゴナガルが来年のOWL試験をほのめかし始めたのもあって、空き時間を課題や勉強に費やす者が増えた。

 ナマエはドラコから4年生になって初めて呼び出しを受けたので、言われた通り図書館へ向かった。おそらくまた勉強に付き合わされるだろうと課題を持って指定された奥の席に羊皮紙を広げた。
 禁書の棚の近くである端の席は、時々見回りのフィルチや上級生が通るものの、人は少なく快適そうだった。

「これをやれ。」

 ナマエが集中していると、目の前に羊皮紙が突き出された。羊皮紙を押し付けるように見下ろすのはもちろんドラコだった。

「占い学のレポート?」

「適当に不幸なことをでっち上げて2週間分埋めろ。」

 ドラコはナマエの前の席に座ると、棚から拝借した本を広げて魔法史の課題をやり始めた。

「わかったわ。」

 ドラコは服従の呪文を使わずともナマエに命令できる。ナマエはこの程度ならまったく気にならないのか涼しい顔でさらさらと羽根ペンを動かした。

 ナマエの額からたんこぶが消えているように、ドラコの額もつるりとキレイにたんこぶは消えていた。
 ナマエは無意識に額に手を当てていた。3日ほどは腫れて痛みが引かなかった。その間の癖のようなものだった。

「この間は……、」

 ドラコが突然口を開いたので、ぱっと額から手を外した。様子を伺うとドラコは言いづらそうに口ごもっている。そしてナマエと同じように額に手をやった。

「?」

「……。」

 その後が続かないドラコを見て、ナマエはクスリと笑った。

「あなたも治って良かったわね。」

 脅してくるわりに相変わらず命令は甘っちょろく憎めない目の前のドラコに笑いかけた。

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