9月、新学期。

 ナマエは例年どおりひとりでキングスクロス駅に着き、早々にコンパートメントを陣取った。
 出発ギリギリの時間になってハリーたちが雪崩込んできたので、荷物を退かして席を空けてあげた。

「ナマエ、ロンのお兄さんたちが来てるんだ!一緒に行こう!」

 ハリーがやや興奮気味に言ってまたホームへ戻ろうとするので、ナマエはのんびりと本から顔を上げた。

「ロンのお兄さんたちならいつでも会えるじゃない。」

「いいから!行くよ!」

 ハリーに連れられしぶしぶホームへ戻ると、よく目立つ赤毛の集団が見えた。

「おばさん、ビル、チャーリー!」

 ウィーズリー家とハーマイオニーが、ハリーの声に振り返った。ナマエはペコリと頭を下げると、まぁ!とモリーがナマエに近付いた。

「あなたがナマエね!モリーよ。」

「ウィーズリーさんはじめまして。いつもロンたちにはお世話になってます。」

 ナマエが丁寧に挨拶すると、まぁ礼儀正しいお嬢さんとモリーはご満悦な表情だった。

「君がナマエか。」

「俺はビル、こっちはチャーリー。一番上とその次だよ。」

「はじめまして。ナマエです。」

 ハリーが言っていたのは、卒業してしまっていて会ったことのないロンの兄のことだったのかと思った。ビルは髪を後ろで束ねていて、チャーリーはがっしりした体型が特徴だ。

「まさかこんな可愛らしい子だとは。双子の怪しい開発に付き合ってるの君だろ?」

 チャーリーがニカっと笑って言うので、ナマエは否定も肯定もせずふふっと笑った。

「こう見えてナマエは結構ヤンチャなんだ。」

「俺たちよりな。」

 双子が両側からナマエの肩に腕をまわしてそう言うと、ジニーがそんなわけないでしょとふたりを咎めた。





 モリー、ビル、チャーリーの意味深な言葉の真意を聞けないまま、ホグワーツ特急は走り出した。チャーリーがもうすぐ会えるとか、今年のホグワーツは一味違うとか。ハリーたちはその意味を考えながらコンパートメントで過ごした。

「ナマエも来られれば良かったのに……!本当に最高だったんだ!」

「クラムってすっごい速いんだ。僕たちこんな近くで見れたんだぜ!」

 ハーマイオニーが4年生の呪文学の教科書を読み始めたので、ハリーとロンの話し相手はナマエになった。
 ナマエは行くことができなかったが、クィディッチワールドカップはそれほど素晴らしいものだったらしく、コンパートメントを覗きに来たシェーマス、ディーン、ネビルもクィディッチワールドカップの余韻に浸っていた。

「そうなのね、行けなくて残念だったわ。」

 少しも残念じゃなさそうにナマエは言ったが、ハリーもロンも気にしていなさそうだった。どのプレーが良かったとかあのプレーにはこんな意図があったのではなどと熱く語り始めたので、ナマエはふたりの世界をぼーっと眺めた。

 コンパートメントの窓ごしに目が合った。廊下にいるのはドラコだ。ナマエはふいと目を逸らして本を開いた。後ろには大きなシルエットもあり、クラッブとゴイルを連れてやってきたのだとわかった。

「ウィーズリー、なんだい?そいつは。」

 ドラコの視線の先にはピッグウィジョンの籠にぶら下がるドレスローブだった。かなり年季の入ったレースで時代遅れのカラーのそれをドラコは掴んでクラッブとゴイルに見せるように高々と上げた。

「マルフォイ、くそ!やめろ!」

 ロンが取り返そうと立ち上がったが、体格の良いクラッブとゴイルが阻んでそれは叶わなかった。

「まさかこれでエントリーする気か?……まぁ賞金もかかっているし、マシなローブでも買えるかもな。」

「何言ってるんだ?」

「君はするんだろうな?目立ちたがりやのポッター。」

 ドラコは何やら訳知り顔でロンとハリーをからかった。ハーマイオニーが「ハッキリ言いなさいよ」と口を挟んでも、結局何がとは言わなかった。

「ロン、気にすることないわ。ドレスローブを何に使うかわからないし、わたしも古着だし。」

 ドラコがいる手前、ナマエは関わらずだんまりを決め込もうと思っていた。しかし、ロンがドレスローブについてからかわれたことを本当に気にしていそうだったのでフォローを入れた。
 今年は例年と違ってドレスローブを持参するよう手紙が来ていた。ナマエはもちろんパーティー用のドレスローブを持っていなかったので用意するしかなかった。ナマエの家も母親が入院しているためあまり裕福ではなかったので、住んでいるマグルの街にある古着屋でワンピースドレスを買ったのだ。

「ナマエ、君のもこんなカビ臭いレースがついてるのか?」

「んー……レースはついてたかも。」

 ロンがドラコからもひったくったドレスローブの袖のレースを広げて見せてきたのでナマエは少々言葉に詰まった。フォローしたつもりが、ロンにはその意図が届いていないようで、慣れないことはするもんじゃないとナマエはまた黙った。

 ドラコはロンとナマエのやりとりを黙って見ていた。ナマエも含めたここにいる皆がパーティーのこともトライウィザードトーナメントのことも知らないようだ。

 ――ナマエのドレス……、レースの……。

 ドラコはナマエが古着屋で買ったというレースのついたドレス姿に思いを馳せた。色もどんな形なのかもわからないし、何しろ古着屋で買ったというものだ。ドラコが参列するパーティーにいる女性が着ているような大した代物ではないだろう。ただ、どんなものでもナマエは似合うのだろうと思った。

 目を伏せていたナマエがふと顔を上げてドラコを見たのでばっちりとまた目が合ってしまった。ドレス姿を想像していたことなど微塵も感じさせないようにフンとドラコの方から目を逸らした。

「何も知らないとは驚きだ。ウィーズリー、君の父親は下っ端で――何も聞かされてないんだな。」

 ニヤリと意地悪な顔をしたドラコは、クラッブとゴイルに合図すると3人で肩で風を切ってコンパートメントを出て行った。

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