ナマエはなんとか試験までに1番の難所であったボガート対策をこなし、実技は完璧だった。自信のない試験は占い学と魔法史くらいだった。自信がないと言っても魔法史の小論問題でもっと書けたな……と思うくらいだが。占い学はほぼ適当だ。

 試験終了後、一旦は勉強及びドラコから開放されてナマエはのびのび過ごしていた。チョコレート味の脱狼薬の研究をしたり、フレッドとジョージのイタズラグッズ開発にも参加した。フレッドとジョージは成績こそギリギリだが地頭が良く、2人のアイディアはナマエの研究にもこっそり役立った。

 ナマエが悠々自適に過ごしている間、バックビークが処刑され、ロンは入院していた。
 ロンが医務室にいることをディーンから聞いた。ディーンもたまたま医務室で見かけただけらしかった。ハリーもハーマイオニーも昨夜から見当たらないので、ナマエはひとりでロンのお見舞いへ向かった。

「ミョウジ、彼氏がバケモノだって知った感想はどうだ?」

 ニヤニヤした顔のスリザリン同級生たちが、廊下の真ん中でナマエの行く手を塞いだ。ナマエは何のことかさっぱりわからなかった。彼氏にもバケモノにも覚えがない。

「何のことを言ってるのかわからないわ。」

 ナマエは端の方を通ろうとしたが、ひとりに肩を掴まれた。

「お前知らないのか?」

 ニヤニヤ笑いをしながら目配せし合う彼らに、ナマエは少し眉を動かしたが、相手にするだけ無駄と肩から手を外させて通った。

「マダム・ポンフリー、ロンはいますか?」

「あら一足先遅かったわね。先ほどあの3人は揃って退院しましたよ。まぁそんなに大したことなくて良かったわ。」

 ナマエが医務室に着くと、もうロンは退院していた。ロンどころかハリーもハーマイオニーもここにいたらしかった。
 1年生のころから3人は危ないことに首を突っ込んではケガをして帰ってきた。また何かあったのではと思考を巡らせていると、ホグズミードへいざ行かんとするディーン、ネビル、シェーマスと遭遇した。

「ナマエ、ひとり?俺たちとホグズミードに行くか?」

「ううん。ハリーたちを探しているの。もう退院しちゃってたわ。」

「そうだったのか。じゃあ俺たちは行くよ。」

「ええ。楽しんできて。」

 ナマエがにっこり笑って手を振ると、3人は門の方へ歩き出した。と、思ったらシェーマスだけ戻ってきた。

「どうかしたの?」

「あーいや。噂を鵜呑みにしてるわけじゃないけど……ナマエ、ルーピンとその……仲が良いそうじゃないか。」

 ナマエは知らぬ間にリーマスと噂を立てられていたらしい。噂はナマエがボガートで取り乱した時に、リーマスがチョコレートをナマエの口に放り込んだからだった。
 ナマエがリーマスを好きなのは事実なので少し恥ずかしく思いながら、顔に出ないよう微笑んだ。

「そんなことないと思うけど、それがどうかしたの?」

「ナマエは知ってたのかと思ってさ。その、ルーピンが人狼だってこと。」

 シェーマスの言葉はナマエの脳になかなか入ってこなかった。もちろん言葉の意味はわかったが、えと短く言葉が出ただけだった。

「その様子じゃ知らなかったんだな。もうホグワーツを辞めるらしいから……って、ナマエ!?」

 ナマエは走り出した。目指すのは闇の魔術に対する防衛術の教室だ。何もできないかもしれないが、とにかくリーマスの顔が見たかった。

「っリーマス!」

「わ、ナマエ?」

 闇の魔術に対する防衛術の教室はがらんとしていた。最低限の学校の備品はあるものの、リーマスが持ち込みワクワクさせるような造りだった部屋はもうない。部屋の真ん中にはリーマスではやく、ハリーがいた。

「ハリー、リーマスはどこ!?」

「え、リー……ルーピンならもう迎えの馬車に乗るって門へ向かったよ。」

 ナマエはハリーにお礼も言わずにまた走った。ハリーはナマエが廊下を走っているところを初めて見た。ナマエの後ろ姿をハリーは見送った。





「リーマス!」

「ナマエ、来てくれたんだね。」

 リーマスは一夜でとてもやつれたように見えた。満月明けだからだけではないだろう。ナマエはリーマスの胸へ飛び込みそうになったがとどまった。

「リーマス……、」

 ナマエは何と声をかけていいかわからなかった。咄嗟に飛び出してきてしまったが、自分からの慰めなどは無意味に思えた。

「もうこっそりホグワーツで脱狼薬を作ってはダメだよ……どうやって材料を調達したかは目を瞑ろう。」

 リーマスはナマエの頭にぽんと手を乗せた。

「……もうリーマスはわたしの先生じゃないわ。」

「そうだね。でも危険なことはしてはダメだ。これは君の親戚のおじさんとしての忠告だ。」

「親戚じゃないわ……元ご近所さんよ。」

 リーマスはたびたびナマエを親戚の子扱いしたが、ナマエは言われるたびに否定してきた。親戚ならば恋ができない。

「わたしにとってナマエは娘同然だ。」

「……。」

「じゃあわたしは行くよ。馬車が来てる。」

「リーマス、あのね、」

「短い間だったが、ナマエの先生になれて良かったよ。」

 リーマスは片手を上げてにっこり笑った。頬の傷は痛々しいが、リーマスの人の良さそうな笑顔は、やはり素敵だった。ナマエは小さくなる馬車が見えなくなるまで佇んだ。

 ――「リーマス、あのね、」

 ナマエは自分が一体何を口走ろうと思ったのかわからなくなった。
 リーマスとはこれまで通り手紙だけのやり取りになるだろう。去年までと何ひとつ変わりはしないのに、たった1年でずいぶんと欲深くなってしまったようだった。会いに行こうと思えばすぐに会える距離にリーマスがいなくなってしまうことがとてつもなく寂しかった。

 ――リーマス、あのね、わたしはあなたのことが好きなの……。

 学校中に自分の絶対に知られたくない秘密が知れ渡り、職を失ったリーマスにかける言葉ではないとナマエは思った。
 リーマスはナマエからの告白で自信を取り戻したり、元気になるとはとうてい思えなかったからだ。

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