スタンド・バイ・ミー | ナノ 05


「よっ元気?」

「わっカカシさん!いらっしゃいませ!」

「あれ?おじちゃんじゃなくていいの?」

「子どものころに1回しか呼んでないですって!」

 ナマエが実家の呉服屋である「紫陽花呉服店」で作業をしていると、六代目火影を退任したカカシがやってきた。父のサクモもこの店を利用していたので、カカシも戦争前には時々利用していた。店番をしていた父と話すカカシを見た時に、当時4歳のナマエがカカシおじちゃんと呼んだのが2人の出会いだった。カカシは31歳だったのでおじちゃん呼びに少し切なくなったのは思い出だ。

「品揃えもずいぶん変わったのね。いい店じゃない。って何やってんの?」

「先代の常連さん名簿が見つかったので、葉書きを書いてます。本当は再開する前に書いておくべきでしたね。」

 ナマエはレジ横のテーブルで葉書きを書いていた。「紫陽花呉服屋再開!」とやや丸文字だ。覗きこむカカシの顔をまじまじと見てナマエは肌がきれいだなと思った。ほぼマスクで隠れてはいるが。

「カカシさん全然変わらないですね。若すぎますよ。」

「そう?ありがとう。うまいこと言ってもたくさん買わないよ。」

「お世辞じゃないですって。」

 ふふっと2人は笑い合うと、穏やかな風が吹いた。戦争が終わって、「おじちゃん」と呼んでいたカカシが火影になり、みるみる火の国は変わっていった。「写輪眼のカカシ」が、お昼に服屋でのんびりするくらいには。

「もうわたしとカカシさんが2人で並んで歩いてても恋人に見えるかも。わたしも結構大人っぽくなりましたよね?」

「大人っぽくはなったけど……めずらしいじゃない。ナマエはずっと年齢より上に見られるの嫌がってたのに。」

「たしかに……どうしてだろ。」

 カカシの言うことはたしかにそのとおりだった。自分よりうんと年上の男性に口説かれることも――これはロリコンの可能性もあるが――同年代の子に年齢を言うと驚かれたりすることにうんざりしていたのに。

 うむむと考え込んでいると、カカシが「何着か見繕ってよ」と言うので、ナマエは立ち上がってメジャーを取り出した。

「私服にもなり、急な任務にも対応できる感じっていうのはどうですか?」

「うん、いいね。それでお願い。ていうかお前、年上の男できたろ。」

「え!?」

 仕事モードに入ったナマエは、カカシの後ろに回って肩幅を測っていたので、思わずメジャーを落としかけた。ナマエが空中で掴むより早く、メジャーに目線を動かすことなく後ろ手でカカシが掴んだ。紐だけ掴まれたメジャーがぷらぷらと空を泳ぐ。

「どうしてそういうことになるんですか?」

「その反応はまだ付き合ってはないのね。」

 くるっと振り向いたカカシは目元を三日月のようににっこりして「お前のことはお見通し」と言った。カカシには敵わない。

「好き……なんでしょうか……。」

 ナマエはメジャーをカカシの手から受け取ると、ウエストを測りながら自信なさげに言った。もちろん頭に浮かんでるのはシカマルの顔だった。任務で何日も一緒にされていたとは言え、回数で言えば2回しか会っていない。

「好きか迷ってんなら好きなんじゃない。モテるくせに誰も受け付けないお前がそんなになることあった?」
 
「ない……たしかにないです……。」

 ナマエは付き合いの長いカカシの言葉にしっくりきていた。恋心は人に話すと自覚して加速するものだ。
 ナマエは店内とバックヤードを一周すると、カカシのサイズに合った、ナマエが似合うと思う服を何着か持ってきた。深緑や紺や黒などの落ち着いた色味の服だった。

「あーいいじゃない。持ってきたやつ全部ちょうだい。ナマエ、親父さんより服作るのうまいんじゃない?」

「え!本当?超嬉しい。」

 紫陽花呉服店では、みょうじ家に伝わる糸をチャクラで編む製法をとっていた。ナマエがお店を再開するにあたり、仕入れた既製品もあるものの、ほとんどは自家製だった。忍服として耐久性があり切れにくいが伸縮性があるのが自慢だった。

 ナマエは思わず昔のようにタメ口がぽろりと飛び出したことにも気づかずニコニコ笑っていた。

「お前は素直で可愛いんだし、落とせない男はいないでしょ。」

「カカシさん好き!」

「はいはい。」

「頑張ろうかな。年の差13歳なんて全然余裕ですよね。」

「そうね。」

 カカシがお金を払って、ナマエは包んだ服をカカシに渡した。ナマエは恋する乙女の顔だった。

「じゃあカカシさん、また来てねー!」

 ナマエは、お店の出口まで出てカカシに手を振って見送ると、カカシは手を挙げて返した。
 ナマエは「カカシさんに話して良かった」と思いながら、また葉書を書く作業を始めた。一方、カカシは買った服をぷらぷらさせながら、ん?と思った。

 ――ナマエの13歳上ってナルトたちと同じよね。……まさかな。

 カカシはナマエの好きな相手が、かつて自分の補佐として働いていたシカマルだということには気が付かなかった。さらに、ナマエはシカマルが結婚していたことも、もちろん子どもがいたことも知らなかった。ナマエがシカダイの存在を知るのは、これより4年後の墓地だった。

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