04
田の国での任務が終わってしばらくは、待機室や繁華街でシカマルの姿を目で探す日々が続いた。しかし、シカマルは火影室勤務なので会うことはないまま、任務などをこなして忙しく過ごした。そうしている内に、ふわふわしたあたたかい気持ちは忘れてしまっていたので、吊橋効果ってやつだったのかしらと思い始めていた。ナマエが次にシカマルと会えたのは、あの任務から半年以上後だった。
「失礼します。16時にお約束したみょうじです。」
「おー入るってばよ。」
ナマエは書類を持って火影室を訪れた。中忍のナマエにとっては火影室に入る機会はそうなく、七代目火影に直接会うことも少ない。緊張した面持ちで入室すると、デスクの七代目火影のナルトがにこやかに手を挙げてくれた。そばにはシカマルもおり、ナマエの心臓は跳ね上がった。
――シカマルさんだ……相変わらずかっこいい……。
忘れかけていた恋心が幻ではなかったことを認識したナマエは、ぽーっとする思考を振り払い、平静でいるよう努めた。
「おお、ナマエ。めずらしいな。」
「シカマルさん、お久しぶりです。七代目、今日はお時間をいただきありがとうございます。」
ナマエはにこっと笑った。七代目とシカマルは同期だと聞いているが、2人とも威厳はあるが若々しくかっこいい大人だなとナマエは思った。
「シカマルから話は聞いてるってばよ。田の国の任務はありがとうな。おかげで雷の国や田の国の隣国からもかなり感謝されたんだ。」
「いえ、とんでもないです。シカマルさんと木ノ葉丸さんのおかげです。」
ナルトに褒められたことも、シカマルが自分を褒めてくれていたことも嬉しく、ナマエは照れたようにはにかんだ。シカマルも穏やかに笑った。
「早速で悪いけど、資料見せてもらっていいか?」
「はい。こちらです。」
ナマエが持ってきた資料は、店舗運営の申請のための書類だった。ナルトはしばらく黙って書類に目を通していた。
「そうだな。あとはこっちで用意した書類にナマエがサインすればOKだってばよ。シカマル、あれどこやったっけ?」
「あれは資料室だろ。ナマエ、ちょっとついてきてくれ。」
「悪いな。じゃあナマエ、あとはシカマルに聞いてくれ。」
「はい。ありがとうございました。」
シカマルが行くぞと火影室の扉を開けてくれたので、ナマエは小走りでついていった。ナルトは忙しそうにしながらも、扉が閉まる前にニカっと笑って見送った。
「服屋を始めるんだってな。」
「はい。曾祖父の代から続いていた呉服屋を継ぐことになりました。わたしがアカデミー生の頃に母が亡くなってから、ずっとお店を開けられずにいたので。」
ナマエの家は三代続く呉服屋だった。ナマエの父は第四次忍界大戦で殉職し、それからは母が1人で切り盛りしていたが、その母もナマエが11歳の時に病死した。そのまま後を継いで1人でやっていくにはナマエは幼すぎた。今日はようやく準備が整ったので、再開の手続きをしに来たのだった。
ナマエは気を遣われないように事務的に言うと、シカマルも察したのか暗い話はさらりと流してた。
「普通に店始めるってんならわざわざ火影の承諾なんかいらねーんだが。忍服や忍具なんかを扱うにはめんどくせー手続きが必要なんだよ。」
「そうなんですね。うちも6年ほどは店を閉めてたので、再開手続きと新しい制度の新規の手続きとでかなり「めんどくせー」って感じでした。」
ナマエはシカマルの口癖を真似ていたずらっぽく笑うと、シカマルも意地悪そうに笑った。その後、6年?と不思議そうに言った。
「女に年齢聞くなっていのに怒られそうだけどよ、ナマエお前いくつだ?」
「この間17になりました。」
「17か。てっきり成人してるのかと思ってたぜ。しっかりしてんのな。」
わけーと言いながら、シカマルは資料室の扉を開けてしっかりエスコートした。
「シカマルさんも若いですよ。」
「俺はもうおっさんだよ。」
「そんなことないです!すごくかっこいい大人です!」
資料室の棚から書類を取り出すシカマルの背中に向かってナマエは大きな声を出していた。
「ははっ。ありがとな。」
シカマルは、可愛らしい後輩の必死なフォローだと思い、へらりと笑った。それに、自分は師のようなかっこいい大人になりたいと思ってきたので、素直にナマエの言葉は嬉しかった。
「さて。ここに日付と店名と署名して終わりだ。」
「わ、わかりました。」
あー恥ずかしい……と思いながら、赤くなる頬を隠すようにできるだけ下を向いてナマエは誤魔化すように持ってきたペンでさっさと署名した。シカマルはその向かいの席に座った。
「ナマエは忍として優秀だし、それだけでもやっていけるだろうけどよ、」
ナマエが顔を上げると、シカマルは資料室の小さな窓から風に舞う木の葉を眺めていた。
「こうやって木ノ葉の文化とか歴史とか……そういうのを受け継いでいってくれるやつがいるのが嬉しいよ。頑張れよ。」
「……ありがとうございます。」
その後、シカマルはナマエの書いた書類を棚に戻すと、じゃあなと言って去っていった。ナマエは去った背中を見つめていた。
――いやもうずるいよ。好きすぎる。
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