スタンド・バイ・ミー | ナノ 番外編5


 下忍やアカデミー生の集合時間前になると、チラホラと子どもたちが集まり始めた。その中にボルトの姿もあった。

「ナマエ姉ちゃん、イケてるじゃんそれ。」

 ボルトとは昨日帰り道に作戦を授けられ、そのままナマエの店に行って服を選んでもらった。着ているところを見るのは初めてだったので、ボルトは想像以上のお色気の術っぷりにグッドサインを出した。

「……ボルトくん、君の作戦だけどとりあえず謝っとく、ごめん。」

「は?何の話?」

 ナマエはボルトの父親であるナルトに作戦の練習台をさせたことを謝った。父親にお色気の術をかけようとしたと報告はしなかったが、ひとまず罪悪感を軽減させるためだ。

「え、ナマエ?」

 ボルトとナマエが話していると、後ろから声をかけられた。

「いのじん、あとシカダイくん。こんにちは……。」

 声をかけたのはいのじんで、その隣には気まずい関係のシカダイがいた。酔っ払ってシカダイに迷惑をかけてから避けられ続けたままだった。

「なんだよその服!」

 いのじんは少し頬が赤かった。相変わらず口の効き方のなってない子だなとナマエは少し呆れた。

「ボルトくんはイケてるって言ってくれたもの。いのじんはガキだからこれの良さがわかんないの。」

 ナマエがいのじんの頭にぽんと頭を置くと、いのじんはぱっと手を払って少し赤い顔のままナマエを睨んだ。

「そんな恰好してたらバカだと思われるぞ。」

「……うっ、今日だけだし。」

 ナマエは薄々自分でも頭が悪そうに見える恰好だなと思ったので、いのじんの言葉に少し詰まった。胸元の空いたチューブトップを少し上に引っ張り上げて誤魔化した。その様子をシカダイが見ていてばっちり目が合ってしまったので、ナマエは声をかけようとしたが、シカダイにぷいとそらされてしまった。

「あーシカ、」

「ナマエ先生おはようございます。」

「なみだ、おはよう。今日もよろしくね。」

 ボルトの同期の雀乃なみだが挨拶してきたので、シカダイに話しかけるタイミングを失ってしまった。シカダイはナマエがなみだと話している間にいのじんとどこかへ行ってしまった。





「シカダイくん、ちょっとこっち手伝って。」

「……。」

 ナマエは部屋の入口でシカダイを手招きした。シカダイは微妙な顔をしたが、一応任務中ということを思い出し渋々立ち上がった。
 2人は静かな廊下を並んで歩いた。地下にある倉庫に資料を取りに行かなければならないのだが、自分ひとりでは運びきれないので誰かに手伝って欲しかった。本当は誰でも良かったが、シカダイと話したかったので指名した。

「あのさ、シカダイくん……この間は本当にごめんね。」

「……。」

「わたしはまた前みたいに遊びに来てくれたら嬉しいんだけど……無理かな。」

「別に。もう怒ってない。」

 シカダイはそれだけ言った。怒ってないと言うわりにはぶっきらぼうで投げやりだった。ナマエはそのシカダイの態度にやはり関係の修復は無理かと心が折れそうになった。

 倉庫の扉に手をかけた時、ナマエは以前ここでキバとシカマルの話を立ち聞きしてしまったことを思い出した。

「わたしシカダイくんのお父さんのこと好きでまだ諦めきれてないんだけどさ、一応ちゃんとフラれてるから安心して。」

 シカダイには説明しておかないといけないと思い、ナマエは眉を下げて笑った。

「は?フラれてる?」

「うん。」

 ナマエは必要な資料をひょいひょいと箱に詰めていく。シカダイにもそれ全部入れてと指示を出した。シカダイはまだ聞きたそうな顔をしながらも黙って作業をした。

「……親父はお前のこと好きだと思う。」

「え、」

 ナマエは一瞬手が止まってシカダイの顔を見た。シカダイはナマエの方を見ずに資料を箱に詰めていた。

「あの、それは息子の勘……?」

「さーな。親父の色恋沙汰なんて興味ねーし。でも、俺がそう言ってたって言ってみろよ。」

 シカダイはそれだけ言うと、箱を持って倉庫を出て行ってしまった。取り残されたナマエは「ええ……?」と思いながら、残った資料をすべて詰め終えて箱を持ち上げた。

 ドサドサドサ!

「わ、最悪。」

 箱が重みに耐えきれず底が抜けてしまった。資料が床に散らばってしまったので、ナマエはしゃがんで床に落ちた資料を集め始めた。

「大丈夫か?」

 顔を上げなくても誰だかわかった。好きな人の声を聞き間違えるはずがない。

「あ、はい。すみません……。」

 シカマルだった。シカダイの先ほどの言葉をまだ飲み込めていないまま、本人が登場してしまった。
 シカマルもしゃがんで一緒に資料を集めてくれるので、ナマエは慌てて資料をかき集めた。

「ほら……、」

 シカマルが集めた資料をナマエに手渡す時、ようやく今日初めて目が合った。シカマルは視線を下に動かしてからすぐさまさっと明後日の方向を向いた。ナマエはその視線で自分の胸元と足元の状態に気付いた。しゃがんでいるのでもしかしたら谷間も下着も見えてしまったかもしれないと、チューブトップをまた引っ張り上げた。

「ナマエ、お前ボルトあたりに変な入れ知恵されてねーよな。」

 ――さすが木ノ葉一の策士、すべてバレてる……。

 ナマエはシカマルにお色気の術は効かないなと思い、今日1日慣れない恰好で恥ずかしい思いをしたのはなんだったんたろうと思った。それでも、とナマエはシカマルに近付いた。

「シカマルさんに振り向いてほしくて着てきたんですけど、ダメですか……?」

 明後日の方向を向いていたシカマルの視線がナマエの瞳とかち合った。

「……大人をからかうもんじゃねーよ。」

 シカマルがふいと視線をそらした。

「からかってません、それに子どもでもないです……!」

 真剣なナマエに、シカマルはハァーとため息を吐いた。頭に片手を置いている。

「お前は俺をどうしたいわけ。」

「両思いになりたいです。」

「その後は?」

「その後……?」

 シカマルとナマエはしゃがみこんだまま、倉庫の隅で対面していた。シカマルは困っているような、それでも真剣な表情だった。

「シカマルさんとデートがしたいです。」

 ナマエの言葉に、シカマルは面食らった顔をしてからくくっと笑った。

「ええ……?なんで笑うんですか?」

「いや、デートか。そうだよなぁ……、」

 何か考え込むシカマルに、ナマエは一体この人は何を考えているんだろうと思った。きっと自分には見えていない何かがシカマルには見えているんだろう。

「シカダイくんが、シカマルさんはわたしを好きだと思うって言ってくれたんですけど、」

「!」

「そこのところ、どう……なんでしょうか?」

 ナマエは縋るようにシカマルを見つめた。違うと言われたらシカダイを怒ってやろうと思った。シカマルの視線は、また何か考えるように外れ、またナマエの瞳に戻ってきた。

「シカダイがな……。」

 シカマルはナマエと目が合ったまままた思考の渦に呑まれようとしていたので、ナマエはシカマルの両頬に手を添えた。

「わたしはシカマルさんのことが好きです。シカマルさんはわたしのことどう思ってますか?」

「……ハァー。俺は余計なこと考えすぎなのかもしれねぇな。」

 シカマルが小さくつぶやくので、ナマエはその続きを待った。心なしかシカマルの顔が優しげに見える。

「俺も好きだぜ、ナマエのこと。」

 シカマルがナマエの小さな顎を数本の指で掴んで自分の方に引き寄せ、キスした。ちゅ、としたリップノイズが倉庫に響いた。

「なんつー顔してんだ。」

 シカマルがナマエの顔を見て笑った。ナマエは自分の目から涙が出ている自覚があったので、手で涙を拭った。

「もう1回……してほしいです。」

 ナマエは自分の欲深さを実感しながら、シカマルをまた見つめた。夢にまで見たことが今現実に起きている。それを味わいたかった。
 シカマルはナマエの言葉に、笑った表情から真剣な表情に戻ると、またナマエに優しく、先程より長めにキスをした。

 シカマルの唇を追いかけるように、ナマエが舌を出そうとしたので、シカマルはばっとナマエの顔を離した。ナマエは物足りなそうに自分の唇をペロリと舐めた。

「あのな……、これ以上煽るのはやめてくれ。職場だし自制してんだこれでも。」

「そ、そうですよね。ごめんなさい。」

 ナマエは顔が熱くなった。言われてみればここは火影邸の地下の倉庫で、今は仕事中であることを思い出した。

 シカマルがおもむろにナマエの胸元に手を伸ばした。わ、と思う間もなく、シカマルの手がナマエのチューブトップに引っかかり、谷間を隠すようにくいと引っ張られた。

「その恰好もできればここではやめてくれ。普通にエロいから。」

「あ、えと、はい。」

 ナマエは胸を触られるのかと一瞬勘違いした自分を恥じた。それでもこの恰好をした自分をシカマルにエロいと称されたのは少し嬉しかった。

 シカマルから先に倉庫を出ると、ナマエは気を引き締めなきゃと新しい箱に入れた資料を持った。倉庫を出るとシカダイがいた。

「あ、シカダイくん……、」

「おせーから見に来たんだけど、親父と話してたろ。」

「うん、あのね……、」

 シカダイには報告しとかなければならないかと思い、ナマエは口を開きかけた。

「なんとなくわかってるって。良かったな。」

「うん、ありがとう。」

 ナマエはシカダイが良かったと言ってくれて嬉しかった。父親が友人と恋仲というのは複雑だろうにと。

「ナマエが母ちゃんとかはちょっとまだ考えらんねーから本当勘弁な……。」

「母ちゃん!?」

 ナマエはあの大きな奈良家で、シカマルとシカダイと3人で暮らすところを想像した。エプロンを着ておたまを持ったナマエが、2人におかえりと言って料理を作る……。

 ――両思いになってどうしたいって結婚とかそういうことかぁ……。

 階段を登りきり、部屋に戻ると子どもたちが作業している。その中には様子を見に来たシカマルの姿もあった。

「さすがにそこまで考えてないけど、今はただそばにいられればそれで十分すぎるから。」

 シカマルの優しい顔を見ながら、ナマエはシカダイにこっそり伝えた。シカダイはナマエの穏やかな横顔を見て、ふーんと言うと、いのじんたちの方へ戻っていった。

 シカマルとナマエの目が合った。気恥ずかしいが微笑むと、シカマルも口角を上げたように見えた。

 ――次の休みにはデートがしたい。シカマルさんと並んで歩いてもおかしくない素敵な女性になりたい。

 ナマエは仕事を再開しながら、こっそりシカマルの横顔を盗み見た。今日は1日仕事にならないかもしれない。

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