スタンド・バイ・ミー | ナノ 番外編4


 ナマエは今日も火影室勤務だった。同じ任務を言い渡された下忍の中にボルトがいたので、ボルトとともに帰路についていた。

「あのさぁ、サラダとチョウチョウが言ってたんだけどさ……、」

「何?」

「ナマエ姉ちゃんの好きな人ってもしかしてシカマルおじさん?」

 ボルトはナマエをちらっと見て頭の後ろで手を組むと、そんなわけないよなと言い出しそうなテンションでナマエに問うた。

「あはは、バレてる。」

 ナマエは隠していたわけではないので、笑いながら答えた。自分の気持ちが7つも下の子たちに筒抜けなことを恥じるべきだが、まぁいいかと思った。

「ええ!ナマエ姉ちゃんってシカマルおじさんが好きなの!?」

 ボルトは自分から言い出したことなのに驚いた。ナマエのことは少し年上の友だちと認識しているが、シカマルのことは父親の同僚だ。この2人が頭の中で恋愛として結びつかない。

「そうよ、かっこいいんだもん。」

「父ちゃんと同い年だぜ?おっさんじゃん。」

「33歳はおっさんじゃないと思うけど。」

 ナマエは呆れて笑った。ボルトにとって父親と同じ年齢の33歳はおっさんかもしれないが、世間一般では33歳はおっさんではないとナマエは思っている。

「木ノ葉丸の兄ちゃんでいいじゃん。」

「木ノ葉丸さんだって29歳でしょ?そんなに変わらないじゃない。」

「いやだってよ……シカダイの父ちゃんだし……。」

「……。」

 ナマエはボルトから視線をそらした。そんなことはわかってる、と言いたかった。むしろボルトより自分のほうがその問題に向き合っているし、わざわざ言われたくなかった。

「いやたしかにシカマルおじさんの奥さんは死んじゃってるけどさぁ……。」

 言外に、不倫じゃないけどどうなのよとボルトは言いたいのだと思った。

「わかってるよ。わたしの気持ちなんて誰にも歓迎されてないし。」

 ナマエはツンとそっぽを向くと、スタスタと歩く速度を速めてボルトを突き放した。 

「そうは言ってねぇって。」

「言ってる!」

「いじけんなよなー。」

「いじけてない!」

 ボルトも歩く速度を速めてナマエと再び並んだが、ナマエはぷいと不機嫌になりボルトの方を見なかった。

「ったく……本当に俺より7歳も歳上なのか?」

 ナマエと話していると、サラダよりも精神年齢が下なのではと思うことがある。サラダが大人すぎるのもあるが。

「……。」

「わかったわかった。俺は姉ちゃんのこと応援してやっからさ。」

「……。」

「ほら、俺の親父とシカマルおじさんは同期で今も一緒に仕事してるだろ?シカマルおじさんのことは結構知ってっから!」

 ナマエは落としていた視線をボルトに向けた。その瞳には少しだけ期待の色が乗っている。

「よし、俺がとっておきの作戦考えてやるってばさ!」

 ボルトはナマエに笑いかけた。ナマエは年上のお姉さんなのに、なんだがほっとけなくなるヤツだなとボルトは思った。そんなことを言ったらナマエがまた不機嫌になりそうなのでボルトは口にはしなかった。





 ナマエは翌日も火影室勤務だったので、店を開けることなく旧市街地の中心へと向かった。
 ボルトから授かった作戦を意識しているからか、いつも歩く道が違って見える。ソワソワするような、でも決して足取りが軽くなっているわけでもない。どちらかと言うとやり遂げられるのか?と気が重い。

 ナマエは自分の胸元をチラと見て、やっぱり引き返そうかと少し悩んだ。
 ナマエは忍がよく着る網の服のチューブトップにジャケットを羽織った恰好だった。下はミニスカートで、胸元と脚、さらに腹をがっつり露出している。
 ナマエはこの網の服があまり好きではなかったので着たことがなかったが、ボルトの指示のもと服を選んだので大人しく着ている。
 ボルトの作戦――「お色気の術リアルバージョン」は、単純に露出度の高い服を着て甘えろということだった。なんでも、火影クラスの強い忍にもよく効くとか。

 ――シカマルさんがこんな手に引っかかるとは……。

 ナマエは自分の胸元に釘付けになって鼻の下を伸ばすシカマルを想像しようとしたができなかった。ナマエはかっこ悪いシカマルというものを見たことがない。

 ――本当に大丈夫なんだよね!ボルトくん!信じるよ!

 ナマエは天にいるわけでもないボルトに、天に向かって心の中で叫んだ。シカマルへの気持ちを応援すると言ってくれ、作戦まで授けてくれたのはボルトしかいなかった。「大丈夫だってばさ!俺を信じろって!」と二カッと笑ったボルトに、わかったと頷いたのは自分だ。





「おはようございます。」

「おう。ナマエ、今日もよろしくな。」

 火影室に入るとシカマルはおらず、相変わらず忙しそうなナルトが迎える。挨拶したらさっさと仕事を始めたほうが良さそうだ。

「ナマエ、なんか雰囲気違うな……。」

 ナルトに言われ、そそくさと部屋を後にしようとしたナマエの肩がびくっと跳ねた。自分で着てきたくせにあまりこの恰好について触れてほしくなく、ナマエはへへっと笑って誤魔化した。

「えっと……変ですか?」

「いや!俺の師匠が好きそうだなと思っただけだ!気にすんな!」

 ナルトが頬を少し赤くして慌てるので、ナマエはおやと思った。

 ――「まじまじ!俺を信じろって。俺が何人お色気の術で名だたる忍をぶっ飛ばしてきたと思ってんだ!火影クラスの忍にも効くから、シカマルおじさんだって余裕だってばさ!」

 昨日のボルトのセリフが思い出される。火影にも効いてるということでいいんだろうかとナマエは少し悩んだ。カツカツといつもより高いヒールの音を鳴らし、ナルトに近付いた。

「え、……近、」

「七代目……、」

 ナマエは「甘える、甘える」と唱えながらナルトを見上げた。ナルトの手を取ってみる。

 ――普段の潜入任務と何が違うんだろう。

 ナマエは潜入任務で男に色を仕掛けている気分になり、これでいいんだろうかと少し疑問に思う。

「……何やってんだ。」

 はっとナマエが声の方を見ると、部屋の入口にはシカマルがいた。慌てて手を離してナルトから距離を取るが、シカマルのいつもより鋭い視線が突き刺さりいたたまれない気持ちになる。

「七代目、ごめんなさい!」

 ――練習台にして、本当にごめんなさい!

 ナマエはシカマルのわきを通り、脱兎のごとくぴゅーっと部屋を出た。隣の部屋へ逃げるように走り、パタンとドアを閉めた。まだ誰も来ていない部屋は、昨日自分が最後に出た時と同じまま。浮かれた恰好の自分だけが浮いているような気がする。

「仕事しよ……。」

 子どもたちが来る前に準備を終わらせなきゃと手を動かした。中途半端な仕事をしてシカマルに幻滅されるのだけは勘弁したいと思った。

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