23
中忍試験本戦決勝戦が始まった。シカダイは同期たちと、ナマエは1人で観戦していた。
ボルトとサラダが共闘し、まずシンキを2人がかりでやろうという作戦に出た。しかし、サラダがやられ、ボルト1人でシンキを倒したかに見えたが、科学忍具の使用が発覚した。ナルトが失格を宣言し、会場にざわめきが起こった。
――ボルトくん……。
ナマエはボルトを複雑な思いで見ていた。さらにカタスケが現れて、会場には嫌な空気が流れた。その時だった。
「ようやく見つけたぞ。」
宙空に突如として現れた白眼の男たち。その2人の襲来によって、その場にいた忍たちはみな臨戦態勢に入った。中忍試験会場が崩れ、忍たちは一般客を守る。ナマエも同じように一般客の避難を行った。幸いなことに、腕の立つ忍が大勢いたこともあり、襲撃による負傷者は最小限に食い止められたように見えた。
「ここは危険です。崩れていない階段から逃げてください。」
一般客の親子へ避難誘導し、ナマエは白眼の男たちを観客席から見下ろした。自分が戦闘に加わって、逆に足手まといになるのではと様子を伺っていると、自分のそばで大きなチャクラを感じた。
「ボルト、君のためなら……!」
ボルトを助けようと走り出したミツキだった。ミツキとボルトを守らなくてはとナマエが飛び出そうとした時、ミツキの背後から赤い釣り針のようなものが見えた。自分もチャクラ糸を使う忍なのでこれが厄介であることはすぐに感じた。
「ミツキくん!後ろ!」
「!」
ナマエは叫ぶと同時に駆け出した。ミツキを押し、片手で赤い釣り針を掴んだ。自身のチャクラを流した糸で、赤い釣り針の方向転換をできたはずだった。
「っ!」
「おやおや。突然入りこまないでくださいよ。標的はこちらの少年のチャクラなんですから。」
突如として現れた3人目の白眼の男――大筒木ウラシキが赤い釣り竿のようなものをピンと引っ張って愉快そうに笑った。
「僕を……?」
ナマエが突き飛ばしたミツキが上体をあげてナマエを見た。ナマエがそらしたはずの赤い釣り針がナマエの胸に刺さっている。どうやら、通常の人間のチャクラが流れた糸では、ウラシキのチャクラが流れた釣り糸をどうすることもできなかったらしい。ウラシキがぐいっと釣り針を引き戻すと、ナマエの胸からナマエのチャクラとともに抜けた。ガクンと体の力が抜け、瓦礫となった観戦用の椅子に頭を打って倒れた。
「うーん平凡なチャクラですねえ。やはりこっちのチャクラがほしい……。」
ナマエは薄れゆく意識の中で、ミツキくん逃げてと思った。空っぽになるほどチャクラを奪われたせいで受け身も取れずに頭を打ってしまった。ナマエはそのまま目を閉じた。
木ノ葉病院は、治療を待つ人で溢れていた。木ノ葉の下忍たちも軽い手当や急病人を運んだりと緊急時の対応をしている。シカダイも、自身の頭を使って病室の管理、優先する患者や事項を決めて指示を出し奔走していた。
「シカダイ。今ボルトが目覚めたよ。」
廊下を走り抜けていったボルトを目で追っていたら、後ろからイワベエ、デンキ、メタルがやってきた。3人も自身の得意を活かして救護にあたっているようだ。
「今走ってったな。無事で良かった。」
「あと見ていないのはミツキくんだけだけど、彼なら大丈夫だよね。」
デンキが少し心配そうな顔をする。シカダイもミツキは見ていなかった。そこへ焦った顔をしたいのじんとチョウチョウが走ってきた。
「シカダイ、君……大丈夫?」
「は?俺は平気だけど。」
「もしかして、ナマエ先生のこと……聞いてない感じ?」
シカダイは、え、と固まった。イワベエとデンキとメタルは誰だろうという顔で聞いている。
「さっき、ミツキが重症の女性を運んで来たんだ……。ミツキいわく、自分を庇って敵の術にやられた、って。」
シカダイは無表情で聞いている。自分の予想が外れてくれと思いながら。いのじんはそのまま続けた。
「それがナマエだったんだ。3人目の敵にやられて……今、シズネさんがつきっきりで診てる……。」
シカダイは頭が真っ白になった。こんなに脳が機能しないのは初めてだった。自分より遥かに強いナマエが負傷するわけがないと思っていた。
「……。」
「シカダイ……?」
「今は……やるべきことをやらねーとな。」
いのじんとチョウチョウは、シカダイがこんなにも無理をしているのを初めて見た。心ここにあらずといった色のない目でシカダイは言うと、また救護活動に戻った。同期たちは、シカダイに声をかけることができなかった。
「シカダイ……!」
「!……わり、ぼーっとしてた。」
大筒木の3人が中忍試験会場に現れ、すべてが解決してナルトやボルトたちが帰還したのが3日前だ。木ノ葉の忍たちは、大筒木により破壊された街の復興に追われていた。特に、中忍試験で活躍した下忍たちは様々な任務に駆り出されていた。
猪鹿蝶の3人も例に漏れず、忙しない日々を過ごしていた。
「シカダイ、今日は真っ直ぐ帰って寝たら?それかポテチ食べて元気だしなよー。」
チョウチョウはシカダイに袋の開いたポテチを差し出した。いのじんもチョウチョウの言葉にツッコミを入れずにシカダイを心配そうに見ている。
「ああ、病院寄ったら休むよ。」
シカダイの顔が疲れたままだったが、いのじんとチョウチョウは止めることができなかった。2人とも、シカダイがはやく元気になってほしいと思った。
木ノ葉病院の病室で、シカダイはナマエを見舞いに来た。ごっそり奪われたチャクラの回復と、頭を強く打った脳震盪でナマエの昏睡状態は続いていた。シカダイは復興の傍ら、隙を見てはナマエのもとへ訪れていた。
「まさかこのまま目覚めねーなんてことねーよな。」
ナマエの顔を見て、シカダイは呟いた。ナマエのベッドわきの小さなテーブルには、置ききれないほどたくさんの花などのお見舞い品があった。大半が男からで、シカダイははぁーとため息をついた。
「ナマエ、いい加減起きろよ。」
シカダイはナマエに手を伸ばした。
「なぁ、」
シカダイの手がナマエの頬に触れた。ほんのり感じる温もりに、死んでいるわけではないと安心する。でも、気は晴れない。ナマエが目覚めるまで、自分は死んだように生きるのかもしれないと思った。
頬から手を離そうとすると、少しナマエが動いたような気がした。
「ナマエ!?」
シカダイはナマエの肩を掴むと、名前を呼んだ。目を開けてくれ、そう願いながら。
ナマエのまつ毛がゆっくりと動く。色素の薄い瞳が、シカダイを映した。
「しかだい……。」
「ナマエ!ナマエ……!」
シカダイは、肩に置いていた手をそのまま背中に伸ばしてナマエを抱きしめた。ベッドに乗り出す形になったがそんなことは気にしていられなかった。
「……ごめん、結構寝てた……?」
「寝すぎだろっ……!」
シカダイの声は涙声だった。そんなに心配をかけてしまったのかとナマエは申し訳ない気持ちになったが、じんわりと心は暖かかった。
「ミツキくんや……みんなは、無事?」
「お前以外全員元気だよっ……心配かけさせやがって……!」
「良かったぁ……。」
ナマエはシカダイの体温が心地よくて身を委ねた。力は入らないが、シカダイの背中に腕をまわして服を握った。
「……お前を、失いたくないって思った。」
「うん、」
「絶対、ナマエより強くなる。……親父よりかっこよくなる。だから、」
「……。」
「待っててほしい。俺がお前のそばにいるのにふさわしくなるまで。」
シカダイは、ナマエの背中から腕を抜くと、ナマエの目を見た。
「ナマエが好きだ。ずっと。たぶん初めて会った時から。」
シカダイの緑がかった黒い瞳は薄く涙の膜がはっており、ナマエはきれいだなと見惚れた。真剣な眼差しは、真っ直ぐナマエを映している。ナマエも見つめ返して、再びシカダイの背中に腕をまわして、力の入らない体でできる限りぎゅっと抱きしめた。
「ずっと待ってる。」
ナマエは、シカダイの抱きしめ返す力を感じながら、少し大人になったシカダイと自分を想像した。あまりにも素敵すぎて、そんな未来が楽しみだと笑った。
『スタンド・バイ・ミー』
完。
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