スタンド・バイ・ミー | ナノ 22


 中忍試験本戦の日がやってきた。
 シカダイは予選の第一試験、第二試験を順調に突破してきた。第一試験を突破した時はナマエに報告しに行かなかったので、ナマエはちゃんと報告しに来てよとむくれた。シカダイ的には第一試験突破したくらいでわざわざ言いにいくのもなという思いだったのだが、ナマエが拗ねるので、第二試験を突破した時はすぐに報告しに行った。

 ナマエは、中忍試験の本戦の開場時刻になると店を閉めた。今日のナマエは、勝手にふわふわになる髪型をいつもより丁寧に巻いて、マスカラもリップも濃いめ。なぜかいつもより服と化粧に気合が入ってしまったなと思いながら、はやる気持ちが抑えられず、足早に会場へ向かった。緊張感で言うと、初めて自身が受験した時くらいだった。

 ナマエが会場に着くと、たくさんの観客で埋めつくされていた。観客の中には、サクラやいのの姿もあった。人の少ない場所に座って少しすると、リーによる開会宣言が行われた。シカダイ、ボルト、いのじん、チョウチョウ、サラダなど知り合いが多く、ナマエは緊張の解けないまま見守った。

 初戦のボルトは、手裏剣の技術でユルイに勝った。初動は相手に有利かと思ったが、ボルトの曲がる手裏剣はユルイの意表をついた。

「ボルトくーん!おめでとう!」

 わーっと盛り上がる会場で聞こえるかはわからなかったが、ボルトに向かって叫んだ。するとボルトは、拳を突き上げて喜んでいるようだが、こちらには気付かなかったようだった。

「シカダイ!頑張れー!」

 次はいよいよシカダイ対ヨドの試合だった。ナマエは聞こえないだろうと思いながらも、歓声に負けないよう大きな声援を送った。シカダイはあまり緊張していなさそうに、ヨドと向き合った。
 シカダイの攻撃をヨドが躱す形で試合は進んだ。ナマエは、チャクラ切れに気をつけてと念じながらも目を離さず試合を見守った。ヨドの耳の良さに気付いたシカダイは、わざと起爆札を爆破させて影でヨドを捕まえることに成功した。

「勝負あったでいいか?」

「……参った。」

「勝者、奈良シカダイ!」

 シカダイが影で捕まえたままクナイを構えると、ヨドは負けを認めた。わーっという歓声の中、ナマエも思わずキャー!と叫んだ。シカダイが退場する時に、観客席をぐるりと見渡したので、ナマエは気付くかなと思いきり手を振った。

「シカダイ!」

 シカダイがこちらに気付いたのかはナマエから見てわからなかったが、こちらに向かって手を挙げた気がした。ナマエは興奮冷めやらぬまま次の試合を待った。

 サラダが3秒でタルイを破り、いのじんがアラヤに破れた。知り合いの試合が続き、心の休まらない時間が続いた。その後ミツキがトロイに勝ち、シンキにチョウチョウが破れた。

 ――砂隠れのシンキ、出場者の中じゃ圧倒的な強さだわ。

 シカダイがボルトに勝てても、決勝でシンキに勝つことは難しいかもしれないとナマエは思った。30分の休憩のアナウンスが入ったので、ナマエはふーっと緊張を解いた。シカダイ対ボルト。友だち同士の準決勝が楽しみだった。

「はぁーめんどくせーとか言ってらんねーな。」

「こんな風にちゃんと戦うの初めてだよな。」

「正々堂々、恨みっこなしでやろうぜ。お前に負けられないんでな。」

「負けて泣くなよ。」

 シカダイとボルトは拳を突き合わせた。シカダイは、会場のそでから観客席を見上げた。相手が誰であろうと勝って中忍になると決意を新たにした。早く中忍になって好きな人に追いつく。その一心だった。



 シカダイとボルトの試合が終わった。試合は両者互角の接近戦から、得意分野の影縛りと影分身の対決になった。シカダイは自身の影の表面積を超えた大きな影を作り出して5人のボルトを同時に捕まえた。シカダイが勝ったかに見えたが、ボルトは絶体絶命のピンチからもうひとり影分身を出してシカダイから降参宣言が出た。
 会場は大いに盛り上がり、ナマエも2人に拍手を送った。シカダイが負けたのは残念だったが、ボルトが一枚上手だっただけだ。どちらも中忍になってもおかしくない良い試合だった。



「あ、いたいた。」

「よいしょっと。」

 会場と控室の途中の階段で、シカダイは座っていた。いのじんとチョウチョウはその丸まった背中を見つけて、両脇に座った。

「惜しかったね。」

「うんうん。みんなあとちょーっとだったね。」

「負けるってさ……悔しいもんだな……。」

「そーお?」

「お前はもうちょっと悔しがれよな。」

「過ぎたポテチにはこだわらないっ。あちしは2袋目を食うー!」

「脳みそまで脂まみれだよ、こいつ。」

「俺、結構頑張ったんだぜ……。早く、ナマエに追いつかねーといけねーのによ……。」

 いのじんとチョウチョウはいつも通り軽口を言い合うが、シカダイの落ち込みぶりと、ナマエという意外な人物の名前に口を噤んで目を合わせた。

「次頑張ろうよ、まだ先は長いんだし。」

「あちしらアレよ、ウエストがゴムのイージーパンツ。まだまだいくらでも大きくなれる!伸びしろマーックス!」

「いつも例えが微妙すぎてわかんないんだよ。」

 ナマエのことに触れてもいいのかいのじんとチョウチョウは目配せするが、ひとまずシカダイを元気づけることを優先して、漫才のようなやりとりを続けた。それにたまらずシカダイは笑った。

「ははっ、お前らそれで励ましてるつもりかよ。」

 猪鹿蝶の3人が笑っていると、ふと人の気配がして目を上げた。

「ナマエ先生!」

「ナマエじゃん。」

 ナマエがいた。チョウチョウといのじんが立ち上がってナマエを迎えた。

「ナマエこんなところにいていいの?ここ関係者以外立入禁止じゃなかった?」

「そうだと思うんだけど、頼んだら入れてくれた。」

「ナマエ先生のお色気の術?やるーっ!」

 いのじんとナマエとチョウチョウが話していると、シカダイも立ち上がってナマエの前に立った。ただならぬ雰囲気のシカダイに、いのじんとチョウチョウは目を合わせてコクリと頷いた。

「じゃ、じゃあ僕たち控室に戻るから。」

「ナマエ先生、ごゆっくりー!」

「2人の試合、すっごく良かったよ。また後でね。」

 いのじんとチョウチョウが階段を登っていってしまったので、ナマエは2人の背中に慌てて声をかけた。2人は拳を挙げて応えた。
 
 改めて、ナマエはシカダイに向き合うと、シカダイは視線を下げていた。チームメイトに励ましてもらったが、やはりまだ悔しさが残っているようだ。

「……負けた。」

「かっこよかったよ、とっても。」

 シカダイは、ナマエの返答にどこがだよと言いかけたが、ナマエがシカダイを抱きしめたのでモゴモゴしただけで不発に終わった。

「前とは比べ物にならないくらい強くなってた。今回は負けちゃったけど、次は絶対勝てる。」

 ナマエはシカダイの背中に手を回して、軽く撫でた。ナマエが以前シカダイを抱きしめた時は、シカマルの代わりに抱きしめられたようなものだったので、今度こそ自分を抱きしめるナマエに、シカダイは嬉しく思った。

「ほんと、超かっこよかった。」

 ナマエはシカダイを離そうとしたが、今度はシカダイがナマエをぎゅっと抱きしめた。

「俺さ、」

「ん?」

「いや……なんでもねー。次頑張る。」

「うん。」

 ナマエはシカダイの背中をぽんぽんと押して気合を注入した。2人は離れて、シカダイは照れくさそうに、ナマエはにっこりと笑った。

 ――ナマエに追いついたら、絶対告う。

 シカダイはそう心に決めた。

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