18
木ノ葉隠れの里。繁華街の21時ごろ。味や値段より雰囲気のみを重視した個室居酒屋の出入口前にて。
「2軒目行くよな?」
「えーどうする?」
「行っちゃう?」
6人の男女がたむろしている。ほんのり頬が紅潮し、大げさな素振りをしたりクスクス笑ったりするその集団。その内の1人で、頬が真っ白なナマエは、小さく手を挙げた。
「あ、わたし帰ります。」
「えーナマエ行かないの?」
「ア……ウン。カエル……。」
じゃ、となるべく笑顔を作ると、ナマエは一目散にその場から離れた。
「さすがニンジャ。はえー。じゃ、俺たちは行こうぜ。」
ナマエ以外の5人は特に気にすることなく、また雰囲気だけはいい居酒屋を探しながら歩き出した。
ナマエは1人になって、ようやく大きく深呼吸できた。
アカデミーを中退した女友だちから合コンに誘われて、初めて参加してみたのが今日だ。19時スタートのはずが、仕事のトラブルを理由に遅れてきた男により30分ほど遅れた。聞けば、トラブルというには烏滸がましいレベルの話で、ものすごく気分が落ちた瞬間に、乾杯!とあの合コンは始まった。
合コンのことを思い出しながら、最中気を遣いすぎて腹も減らなければ、食べても美味しくはなかったので、ナマエは空腹を感じた。何を食べようかとまわりを見回すと、ちょうど一楽があったのでラーメンの口になった。ラーメンを食べよう。
「いらっしゃい!」
カウンターに通されて、メニューを見ていると、ナマエ?と声をかけられた。
「モエギさん!それに木ノ葉丸さんとウドンさんも!こんばんは。」
上忍3人がちょうどテーブル席に通されていたところだったので、ナマエはぴゃっと立ち上がって挨拶をした。
「ナマエ今日はいつにも増して可愛いわね!」
「あー……気合は入ってますね。」
モエギが褒めてくれたので、ナマエはにっこり笑った。
「そ、そうだ……。モエギさん、この間は本当にすみません。酔っぱらいすぎててきちんとお礼も言えず……。」
泥酔した日は、モエギにナンパ男から助けてもらったことを薄っすらと覚えていたので、ナマエは深々と謝った。
「あーあの日ね。ナマエったらあの日もずっと謝ってたわよ。気にしないで。それより、ナマエがあんなになるなんて悩みがあるんじゃない?木ノ葉丸ちゃん、聞いてあげたら?」
モエギが後ろでぼけっと立っていた木ノ葉丸にパチンとウィンクすると、木ノ葉丸はええ!?と驚いた。そのままウドンを引き連れてテーブル席についてしまったモエギを見送って、ナマエと木ノ葉丸はハハ……と笑ってカウンターに並んで座った。
「それで、あんなになるっていうのは……?」
ラーメンを注文すると、木ノ葉丸がナマエに聞いた。「酔っ払ってあんなになる」という不安な言葉が引っかかっていた。
「あー……初めてちゃんとお酒を飲んで記憶を失くしちゃって。」
「ええ!?ナマエ、気をつけなきゃダメだぞコレ。忍で強くても女の子なんだから……。」
木ノ葉丸が心配してくれたので、ナマエはありがとうございますと笑った。ラーメンが来たので、2人でいただきますと言って食べた。木ノ葉丸たちは先ほどまで中忍試験の担当上忍説明会だったと言うので、ナマエは自分の格好を見て情けなく笑った。
「実は合コンに行ってみたんです。さっきまで。」
「ええ!?合コン!?!?」
「ええ……。合コンくらい行きますよね……?わたしは初めてでしたけど。」
木ノ葉丸が席から立ち上がって驚くので、ナマエは若干引き気味で答えた。遠くの席でモエギとウドンがこちらを見ていた。
「あー……まあそうだな。それくらい普通か。そ、それで?」
「全然合わなくてダメでした。忍と一般の仕事の方じゃ、価値観が合いにくいのかもしれません。」
ナマエは、合コンのことを思い出した。最初は優しくしてきた男性たちも、ナマエと話が合わず盛り下がって興味が失せたのがわかった。彼らの言う仕事が忙しいと、ナマエの思う仕事が忙しいはかけ離れていて、プライドを傷付けたんだろうとナマエは冷静に分析した。
「それに、自分のことをそこそこモテるって勘違いしてたのかもしれないです。」
ナマエは自虐して笑った。フォローに入ってもらうのは申し訳なかったので、間髪入れずにしゃべり続けた。
「失恋して、勢いで合コンに来てみてわかったんですけど、恋愛ってかなり難しいですよね。」
ここまでしゃべっておいて、はたと気付いた。
――木ノ葉丸さんってわたしのことちょっと好きっぽくなかったっけ……?
告白されていないが、木ノ葉丸からの多少のアプローチには気付いていたナマエだが、ここ最近は会ってもいなかったのですっぽりと頭から抜け落ちていた。ナマエは話を変えようかと話題を探した。
「ナマエ。」
「は、はい。」
「ナマエの魅力をわかる人はたくさんいるぞコレ。仕事熱心なナマエには忍の男のほうが合ってる!つまり、」
つまり……?とナマエは木ノ葉丸をじっと見た。後ろでモエギが盛り上がっている。
「つまりだ……えっと……。俺と1回デートしてみるってのはどうだ?」
――で、デート。
ナマエは早く答えを出さなければと脳みそをフル回転させた。今のところ木ノ葉丸のことを恋愛的な意味で好きではないのにデートの誘いを受けてしまっていいのか?逆に失礼ではないのか?もう誰も傷付けたくない。でも、木ノ葉丸のことを好きになる可能性もあるのではないか?ナマエは考えた。
「わたしで良ければ。……その、お試しで。」
モエギが後ろで拳を突き上げていたことには気付かず、ナマエは自分の食べ終わったラーメンに浮いたネギを見ていた。これで良かったのかなと思いながら。
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