スタンド・バイ・ミー | ナノ 17


「ナマエ姉ちゃんも元気なくねー?」

「え?」

 最近シカダイがつれないと暇を持て余したボルトが行きついた先はナマエの店だった。店が暇なので空き地で修行をつけてやり、休憩しようと店に戻ってきた矢先だ。

「シカダイといいみんな思いつめててさー。つまんねーよ。」

「そう……?シカダイくんも中忍試験前でピリピリしてるんじゃない?」

 ナマエは適当に誤魔化そうとしたが、ボルトは「シカダイはそんなことで緊張するやつじゃねーってばさ」と一蹴した。ナマエ自身、実際のところシカダイの元気のなさが自分のせいなのかは不明だった。

「なんかあったろ。」

 ボルトに睨まれ、ナマエはドキッとした。店の棚の上のホコリを取るふりをしてその視線から逃げたが、逃げ切れはしないようだ。

「だってシカダイ、俺にも内緒でここ通ってたしよ。それがめっきり来ねーじゃん。」

 なるほど、ボルトはシカダイが来るかもと思ってここへ来たのかと納得した。たしかに、あの1件以前はしょっちゅう遊びに来ていた。

「んー……たぶん、シカダイくんわたしに怒ってると思うんだよね……。」

 詳細は言えなかった。これでボルトが納得するとは思えなかったが。

「2人してウジウジしてさー!仲直りしたいんだろ?」

「うん、わたしはね。」

「じゃあそれ言えばいーじゃん。」

「言ったよ……1回だけ。」

「1回じゃだめだってばさ!」

 ボルトに怒られ、たしかにそうかもしれないと思った。遠くからごめんと言っただけで、自分も逃げている。

「もーさっさと仲直りしろよな。シカダイだって、本気でナマエ姉ちゃん嫌いになったなら、あいつウジウジしねーはずだしさ。」

 ボルトの言葉がすっと心に入ってくるような感覚になった。

「うん、頑張るよ。ボルトくんありがとう。」

 ナマエはにこっと笑うと、ボルトも嬉しそうにニシシと笑った。ナルトにそっくりだなとナマエは思ったが口には出さなかった。

「んじゃさ、今日の夕方作戦会議しよーぜ!雷バーガーに集合な!もちろんナマエ姉ちゃんの奢り!」

「ふふっわかったよ。よろしく。16時ごろに行くから。」

「おう!」

 ボルトは大きく手を振って帰って行った。あの親子は人にはない特別な力を持っているなと思った。ボルトの圧倒的陽キャに当てられ、ナマエは少し元気が出た。

 夕方、客がいなくなったタイミングでナマエは店を閉めた。あたりが少しずつオレンジ色の陽の光に包まれる中、ナマエは雷バーガーのある中心地へ歩き出した。

 シカマルに振られたのがほんの数日前。お酒に頼るのは一生やめようと思い、仕事に打ち込んだ。ふとした瞬間に思い出すシカマルの気まずそうな申し訳なさそうな顔は、ナマエを何度も気落ちさせた。しかし、もともとわかっていたことを無理やり結論づけた形だったので、これで良かったのだと思うようにしている。初めて人を好きになって、その想いを伝えることができた。シカマルには申し訳ないが、ナマエは自分が少しスッキリしたので、これで良かったのだと思い始められるようになっていた。

 ――シカマルさんと、一度でいいからデートしてみたかったな……。

 もちろん、そう思い始められるようになったばかりなので、立ち直るのには時間がかかりそうなのだが。

 ナマエが雷バーガーに着くと、まだボルトは来ていないようだったので、ジュースでも飲んで待つことにした。あの時シカマルが買ってきたジュースはなんだか飲めなくなった。特別好きでもないが、アイスティーを注文した。
 暇つぶしになるものを持たずに来たので、ぼーっと待つ。近くに座っている、おそらくアカデミーの普通科であるだろう少年少女が、きゃっきゃしてるのが視界に入った。

 ――同い年ならなんか違ってたのかな……。

 何もしていないと、何かに付けて失恋を思い出してはネガティブな思考に陥った。ずんと肩が落ちて、少年少女から目を離そうと視線を入口へ動かした。ボルトがいて、ばっちり目が合って手を振っている。そして、なぜかすぐ後ろにシカダイもいる。シカダイもこちらに気付き、目が合った。
 シカダイは、店内にいるナマエを見て驚いたように目を丸くして、ボルトに怒ったように何かを言っているようだった。シカダイの動きは、このまま踵を返してしまいそうだったので、慌ててアイスティーを掴んで、ボルトたちのもとへ向かった。

「ボルトくん!シカダイくん!」

 ボルトと言い争っている内にナマエが目の前まで来ていて、シカダイはナマエの顔を一度見て、さっと目をそらした。ナマエは少し傷付いたが、ボルトにここまでしてもらって引き下がるのは情けないと思った。

「ボルトくん、ありがとう。シカダイくん、ちょっと話せる?」

 ボルトはもともと作戦会議ではなく、シカダイと会わせてしまおうと企てていた。ボルトは2人の話し合いに口を出す気はなく、「ほら」とシカダイの背中を押した。シカダイは黙ったままだが、逃げる気はないようなので、ナマエはすぐそこの公園に行こうと言って先に歩き出した。シカダイも黙ってついて行き、ボルトは頭の後ろで手を組んでやれやれという顔をしていた。

 お互い無言のまま公園につくと、以前シカダイが将棋を指していたベンチを目指した。ナマエは道中、シカダイがこのままふっと消えてしまわないか不安だったが、きちんとナマエの数歩後ろをついてきていた。ベンチでは人1.5人分くらいの間を空けて座った。

「えっと……早速だけど、本当にごめんなさい。」

 ナマエは少し離れて座るシカダイの方を向いて、ぺこんと頭を下げた。

「わたし、その……自分の酒癖の悪さを知らなくて。迷惑かけたし、その……まず、夜遅くまで付き合わせてごめん。あと、シカマルさんだと勘違いしてごめんなさい……。」

「……俺と親父をどう間違えるわけ?」

 シカダイがようやく言葉を発したと思ったらそれだった。声色はそれほど怒っていないようだった。似ている親子でも、さすがに間違えるわけがない。シカマルのことばかり考えて酒を飲んでる人間以外は。

「シカマルさんのこと好きだったの。でもシカマルさんはわたしを好きじゃなくて。きっぱり振られて、ヤケ酒しました。……そして、混乱しました。」

 ごめんなさい、と再度謝ると申し訳なさと恥ずかしさで消えたくなった。いざ説明すると、自分の行動がアホらしい。厳密に言うと酒を飲む前はシカマルの気持ちを知っただけだが同じことなので簡易的に説明した。

「わたし、シカマルさんのことを好きだったけど、シカダイくんのこと利用しようとかそういう気持ちで友だちになったわけではないから。重ねて見たことも……最初は似てるなと思って少しあったかも……でも、仲良くなってからはそんなことなかったから。」

「……俺別にそれで怒ってたわけじゃないから。」

「え?」

「そもそも、別に怒ってなかったし。」

 ナマエはシカダイの言葉に面食らった。てっきりシカダイは、自分と父親を重ねて近づき挙げ句キスをする気持ち悪い女だと思われていると考えていたからだ。でも、キスしてごめんというのは恥ずかしさと思春期男子のプライドを考えて言って良いのかわからず濁し続けていた。

「え、じゃあごめん……何に謝ればいいの?ファーストキス奪ったこと……?」

「っお前なあ、」

 シカダイはぼっと顔を赤くしてナマエを見た。ようやくこっち見てくれたとナマエは少し嬉しかった。

「……別に怒ってねーよ。お前が親父のこと好きとか言い出すし、キ……気まずいだろ!普通に!」

 シカダイは年相応に赤くなったり顔を少し隠したりしていたので、ナマエは申し訳ないと思いながら可愛いなと思ってしまった。言ったら絶対に怒られると思ってやめたが。
 シカダイは、ポケットから見覚えのあるトナカイのキーホルダーがついた鍵を取り出してナマエにぽんと投げた。ナマエの自宅の鍵だった。

「こっちこそ、ずっと返せてなくて悪かった。……もう酒飲むなよ。」

 シカダイは泥酔したナマエを家まで送り届けた後、鍵を閉めてそのままその鍵をどうすることもできずに持っていた。どうせスペアくらいあるだろうと思っての行動だった。

「あの夜はありがとう……。それと肝に銘じる。」

 ナマエは久しぶりに帰ってきたトナカイのキーホルダーと鍵を見て、ぎゅっと握りしめた。シカダイはこちらを見て口角を上げていたので、ナマエはほっとした。仲直りできてよかったと思った。

 じゃあ帰ると言うシカダイの背中を見送って、ナマエは肩の荷が降りた気持ちになった。そして、鍵についていたトナカイのキーホルダーを見て、目を細めた。シカのキーホルダーもあったが、さすがに恥ずかしくて似たトナカイを買ってつけておいたのだ。
 
 ナマエはキーホルダーを外して、公園のゴミ箱にぽいと捨てた。

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