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シカマルは煙草に日をつけた。師の面影を追って吸い始めて、ケリがついたら辞めた煙草。あの頃より大人になった今では、気分転換に吸うと落ち着くくらいまでシカマルの生活に煙は溶け込んでいた。
――「シカマルさん。わたし、あなたが好きだったんです。」
嘘だろ!全然気が付かなかった!なんてリアクションは、子どものころならしていたかもしれない。ナマエの気持ちは、ひょっとしたら……くらいには気付いていたから。
シカマルは紫煙を揺らしながら、墓地へと向かった。人通りもないしたまにはいいだろと思いながら。シカマルは歩きながらナマエのことを考えた。
ナマエの第一印象は、潜入任務向きのくのいちだと思った。久しぶりの里外の任務で気合が入っていたこともあり、成功率を少しでも上げねばと、人間性なんて二の次で能力面でしか見ていなかった。道中で話して、素直でいい子だと思った。木ノ葉にいい忍が育っているなと嬉しくもなった。
木ノ葉丸がナマエを気にしていたので、2人とも若いなと外から見ている気持ちになった。でもたしかに、ナマエが着替えて出てきた時は、多少ぐっと来た。……男なら誰だってそうなったはずだ。
そして、ナマエが潜入する中で、入り組んだ道に誘導する男にやばいと思った時には、もうすでにナマエたちを見失っていた。なんとかナマエを救い出すことができて心底ホッとしたのもつかの間、ナマエは前情報で聞いていた薬を吸い込んでいた。部下を死なせたくないという一心で取った行動の後、ナマエにキスされた。
正直に言えば、かなり心が揺れた。テマリが亡くなってからは女性との接触なんてなかったから。あの時の自分は賞賛に値すべきだと今でも思う。でも、ナマエは媚薬のせいでこうなっているだけだと言い聞かせて、でも抵抗する気にもなれなくて。獣にならなくて本当に良かったと心の底から思った。
多少意識はしたが、キス一度で動揺する大人はかっこ悪いという思いで、ナマエからの視線を完璧にシャットアウトした。たまたま欲情している時にそばにいたのが自分だっただけで、木ノ葉丸でも同じようになっていただろうと思うことにした。今考えれば、ここで変に大人ぶったからナマエの興味が向いてしまったのではないか、と考察している。
その後、ナマエが自分より13も年が下なのを知り、ナマエが自分を好きになるなんて自惚れだと思い、ナマエを意識するのやめた。店を始めたり、精神的にきつい潜入任務をこなすナマエは純粋に素晴らしい人間だと思ったし、可愛らしいと思ったことも何度もある。自分が若ければころっと落ちて攻めていたとも思う。
――俺はもうガキじゃないから。
シカマルは煙草を携帯灰皿に押し込むと、シカク、アスマ、テマリ、と順に手を合わせた。
――浮気じゃないから許してくれよ。
シカマルはテマリの墓の前でふっと笑った。不機嫌そうに腕を組むテマリが容易に想像できたからだ。
シカダイと歩いていてナマエと会った後から、ナマエを可愛がるのはやめようと思った。万が一にも自分に特別な感情があったらまずいと思った。シカダイが完全にナマエに惚れてたから。息子と女を取り合うなんて、それこそめんどくせーし、ありえない。
さて、とシカマルは帰路につくことにした。ここ最近家に帰ってくるのが遅く、あまり自分と顔を合わせようとしない息子とどう接していくか。
――ああ報告忘れてたな。シカダイの初恋だぜ。お前が生きてたら、めんどくさがってないでガンガン行けとか言うだろうな。
シカマルは、もう一本だけと煙草に火をつけて紫煙越しの空を眺めた。下忍のころの自分に言ってやりたい。美人な嫁をもらって出来のいい素直な息子ができるなんて想像もしてないだろうと。それこそ、若くてきれいな女に告白されて振るなんて、身に余りすぎだ。
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