スタンド・バイ・ミー | ナノ 15


 ナマエが任務で数日里を抜けている間、木ノ葉隠れの里を騒がせていた白夜団という義賊が解体されたらしい。ナマエはニュースを、義賊じゃなく悪者だったのね……とぼーっと見ていた。任務は滞りなく行い、報告して帰ってきてから抜け殻の気分だ。次の任務はまだ言い渡されていないので、しばらくは店の方の仕事ができそうだ。

「はぁー……。」

 ナマエは任務に出ていたかった。忍の仕事をしていればさすがに余計なことは考えなくて済む。こんな時に限って、とがっくり肩が落ちた。
 結局のところ、自分の恋心なんてものは誰かを傷つけるほどのものでもなんでもなかったとナマエは思った。ただ勝手に自爆して近くにいたシカダイを巻き込んで傷付けただけだ。

 ナマエは店を開けると、掃除をしてとにかく服を作った。集中したり没頭していないと、突然「うわー!」っと叫びたくなるからだ。恥ずかしさと後悔と悲しさで。

 昼ごろになると、一旦仕事が落ち着いたのでご飯を食べることにした。お腹は空かないのだが、いつ召集があるかもわからないので万全の態勢でいたかった。忍としてのプライドだけはしっかり持っていたい、とナマエは思った。
 木ノ葉スーパーで買っておいたサンドイッチを頬張りながら、店の中から外を眺めた。薄いクリーム色の上着を着たかっこいい大人がこちらを見て手を挙げている。ナマエはとうとう好きな人の幻覚まで見るようになったのかと思いながら、サンドイッチをまた一口かじった。

「ははっ、そんな腹減ってたのか。」

 シカマルは、自分と目が合ってもサンドイッチを食べるナマエを笑いながら店に入ってきた。幻覚ではなかった。シカマルは雷バーガーのロゴの入ったジュースをほれと渡すと、「飯の方が良かったか」と笑った。

「あっありがとうございます!」

 ナマエはようやくサンドイッチを置くと、ジュースを受け取った。失恋を自覚しても、シカマルに会うと勝手にふわふわと盛り上がる気持ちを恨めしく思った。

 ――かっこいいのがずるいよなぁ。

 もらったジュースを一口飲むと冷たくて美味しかった。何度も飲んだことあるのに特別な味がした。特に最近は何を口にしても味気ない感覚だったので、久しぶりに美味しいと感じた。

「この間は手伝ってくれてありがとうな。コノキも助かったって泣いてたよ。」

 この間というのはきっと資料整理を手伝ったことだろう。熱すぎるくらいのほかほかした気持ちが、一気に冷えるのを感じた。あのアシスタントさんコノキという名前だったのかと冷静な部分で思った。

 ――わたしが聞いていたのはバレてない。

 ナマエは、罪作りな人だなと思った。「絶対にない」と思っている人に対して、こんなに優しく振る舞うのか。以前雑談中に「アカデミー時代は完全にイケてねー派」だったと言っていたが、その認識で今現在「爆イケ派」であることに気付いてないんだと恨めしく思った。チョロい女は引っかかってますよと。

「全然。暇でしたし気にしないでください。ところで、今日はどうしたんですか?」

 シカマルが店に来ることはほぼないので、何かあっただのだろうかと思った。

「あー……シカダイの様子がちょっとおかしくてな。仲良かったから何か知らねーかと思って。」

 シカダイの様子がおかしいのは自分のせいかもしれないという罪悪感と、テマリとの愛の結晶であるシカダイのことがないと、自分には会いに来ないんだろうなという悲しさで微妙な表情になってしまった。

「シカダイくんとは……喧嘩しました。それが原因かはわかりませんが。」

 ナマエは下を向きながら答えた。

「喧嘩?」

「そうです。わたしが酔っ払ってひどいことを……言いました。」

 ナマエは「ひどいことをした」と言いかけてやめた。何をしたんだと言われたら答えられないし、シカダイのプライドに関わりそうなので濁した。でも、本当にそれでいいのか?とも思った。

「なるほどな。まあ息子の喧嘩に口出ししたくねーけど、シカダイが落ち着いたらまた仲良くしてやってくれや。」

 シカマルは深くは聞かなかった。シカダイが酔っぱらいを助けたと夜中に帰ってきた日から変だったなと思い出した。シカマルはシカダイのナマエへの気持ちに薄々気付いていたので、シカダイ的に何か思うところがあったのだろうと結論づけた。

「シカダイくんは、もうわたしを許してくれないと思います。あなたと比べるようなことしちゃったから。」

 シカマルはナマエの言葉に驚いた。実際どういう流れかはわからないが、ナマエがそんなことをするなんて意外だったからだ。

「ごめんなさい。シカダイくん、すごくいい子で……仲良くしてくれてたのに。」

 ナマエは、シカダイが傷ついたおかげで、今こうして自分は好きな人が訪ねてきてくれていることが、なんだか卑怯なことをしているように思えた。シカダイを傷つけた本当の理由をはぐらかし続けて、シカマルにいい人ぶっているような気持ちになった。

「シカダイとナマエの問題だろ?親の俺に謝らなくてもいいって。俺が首突っ込む問題じゃねーよな。悪いな。」

 シカマルは店を出ていこうとしたので、ナマエはシカマルの腕を咄嗟に掴んだ。嘘をついているような罪悪感、シカマルが自分は関係ないという態度、そしてシカダイを傷付けたけじめをつけなければいけないと思った。

「シカマルさん。わたし、あなたが好きだったんです。」

「え?」

 ナマエが想像していたような甘い雰囲気での告白は叶わなかった。いつか言いたいと4年間想い続けてきた集大成が、こんなことになるとは思っていなかった。心は冷静だった。
 
「ずっと、その……今も。

 でも、シカマルさんにそんな気がないのはわかっています。それでも、わたしを褒めてくれて、助けてくれて、いつもわたしの心を救ってくれたのはあなたです。」

 静かな店内に、ナマエの落ち着いた声だけが響いた。

「シカダイくんを傷付けたのは、そんなわたしの気持ちのせいです。シカダイくんを利用した形になりました。本当にごめんなさい。」

 ナマエはシカマルの腕を離して、ぺこんと頭を下げた。

「あー……。」

 シカマルは下げたままのナマエの頭を上げさせてから、困ったような照れたような顔をして、首の後ろを掻いた。

「……ありがとう。気持ちは嬉しいが……ナマエのことは可愛い後輩の1人だと思ってる、し、俺はもう恋人とかそういうのはもういいんだ。」

「……わかりました。」

 ナマエはシカマルの顔を見れなかった。わかっていたけど、振られた。泣くまいとしていたが、やっぱり辛くて涙がこぼれた。止まれと思いながら乱暴に拭ったが、止まらなかった。
 シカマルはそんなナマエを見て、いつかの病室で泣いていたナマエを慰めたように手を伸ばしかけて、止めた。気持ちに答える気がないのに、そんなことをしてはいけないだろうと思った。

「すみません。聞いてくれて、ありがとうございました。」

 ナマエは泣きながら言った。シカマルはああと言って、店を出た。

 シカマルが出ていった後、ナマエの目からはまた涙が次から次へと溢れ出た。これで本当に自分の恋が終わったんだと思った。

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