スタンド・バイ・ミー | ナノ 12


「あっこんにちは。」

「おう。」

 火影へ任務報告に火影室へ行くと、シカマルはいなかった。ナマエは会えなくて残念だなと思っていたが、火影室から出ると、ちょうどシカマルと出くわした。

「その大量の資料、もしかして資料室に運ぶんですか?」

「ああ、まあな。」

「手伝いましょうか?」

 シカマルは大量の資料を手にゆっくり歩いていた。先ほど報告書を持っていった時に、ナルトもかなり忙しそうにしていた。どうやら雑務を担当していたアシスタントが数人流行り病で休んでいるらしい。

「あー……いや、人手は足りてんだ。ありがとうな。」

 シカマルはナマエをスルーして去ろうとした。

「シカマルさん……これもこれもこれもお願いします。すみません。僕は倉庫の方をやっておきます……。」

 突如として現れた流行り病に打ち勝った唯一のアシスタントがヘロヘロで大量の資料を持ってやってきた。シカマルとナマエは顔を見合わせた。

「すまん、やっぱり頼む。」

「任せてください。」

 ナマエは、シカマルの手伝いができて嬉しかった。この時までナマエはラッキーな日だと思っていた。なぜ一度断られたんだろうとは思いながら。

「シカダイと知り合いってことは、ボルトやいのじんもか?」

「はい。木ノ葉丸さんとボルトくんがお店に来てくれて。そこからシカダイくんたちとも。」

「生意気だろ。アカデミーでも問題児扱いだったからな。」

「ふふっ。でもみんないい子ですよ。」

 シカマルは、つい先日親子でいる時にばったり会ったので、シカダイの話をした。

「シカダイは――」

「シカダイが――」

「シカダイと――」

 親子ともども仲良くさせてもらっているので、シカマルが息子の話をするのは当然だとナマエは思った。会ってからシカダイの話しかしないが、そういうものだろうと。

「あいつはテマリにも似てると思う。俺だけに似たらもっとめんどくさがりやだろうからな。」

 ――テマリさん。

 シカマルの口からテマリの話を聞くのは初めてだった。ナマエは、それはシカマルとの距離が近づいたからではないとなんとなく感じた。

 資料室と火影室の往復を何度かし、やっとすべての資料を運びきることができた。シカマルとは今まで以上にたくさん話をしたが、微かに線を引かれているようなそんな気がした。

「この資料、運んでファイリングするんですよね。やっていきましょうか。」

 ナマエはシカマルと作業できるのであればこんなに嬉しいことはないので、まだまだ果てしなくありそうな雑務を引き受けようとした。

「あー……。すまん、そうしたら頼むわ。やれるところまででいいからよ。任務ってことで給金つけておくから。」

 シカマルはそれだけ言うと、資料室から出て行った。ナマエはシカマルの背中を見送ってから、一緒に作業できるのかと期待していた自分を恥じた。そして、できるだけ役に立とうと頭を切り替えた。自分1人で店をやっているので資料整理は得意だ。しばらく仕訳とファイリングを黙々と進めていると、先ほどヘロヘロだったアシスタントがやってきた。

「みょうじさん、ありがとうございます。シカマルさんにこちらを手伝うように言われまして……。」

「そうなんですね、こちらから順にやっています。」

「わかりました!じゃあ僕はこっちからやりますね。」

 アシスタントが来てからも、ナマエは黙々と作業を続けた。「あっ!」と声が聞こえるまでは。

「間違えたな。この資料は倉庫の方に持っていかないと……。」

 アシスタントは、巻物が入った箱を見てがっくりとしていた。古い巻物の資料は倉庫にしまう決まりのようだ。がっくりとしながらも手を止めずに高速で資料を仕分ける姿を見て、ナマエは自分が行くと言った。

「ちょうどキリもいいですし、わたしが行きましょうか。そろそろ店を開けておかないといけない時間なので、そのままお先に失礼して大丈夫でしょうか。」

「いいんですか!?みょうじさん、ありがとうございます。本当に助かりました……!」

 半泣きになりながらも手を止めないアシスタントに、先に帰るのが申し訳ないなと思いながら、ナマエは巻物の入った箱を持って資料室を出た。
 倉庫は地下にあるようなので、ナマエは落とさないようゆっくりと階段を降りた。ナマエが廊下に出ると、ちょうど倉庫に人が入っていくところであった。

 ――あの人、七代目やシカマルさんの同期の人だ。たしか犬塚家の……。

 ナマエは倉庫に自分も入っていいものかわからず、気配を消して倉庫の扉の外から中の様子を見た。

「シカマル。こんなところにいたのか。資料室にいるって聞いたのにいねーからよ。」

「ああ、ちょっとな。こっちに変わったんだ。手間かけさせたな。――で、あの件だが。」

 シカマルが倉庫にいたのか、とナマエは思った。アシスタントと担当を変えたのだろうか。何のために?と疑問に思っているうちに、入室するタイミングを逃して盗み聞きをする形になってしまった。

「ああ。忍犬たち総動員させてあの麻薬の在処をつきとめたぜ。お望みどおり全部木ノ葉へ運んでおいたからよ。」

「さすがだな。あの薬は、田の国の組織が使っていた媚薬だ。くのいちにも効くようにチャクラまで練られない仕様でかなり厄介な代物でよ。」

「なるほどな。サンプルのおかげで人間以外には効かねーことが分かってたから、忍犬たちが大活躍だったよ。」

 ――田の国の組織の媚薬ってまさかわたしが行った任務の……?

 ナマエは、あの任務はあれで終わりじゃなかったのかと続きが気になり、じっと気配を消した。キバとシカマルは話し続けている。

「そういや、あの件唯一の被害者のくのいち、上にいたな。」

「ああ。ナマエだな。この件は内密にな。」

 自分の名前が出て、思わず身を構えた。外にいる自分のことは気付かれていないようだ。このまま話を聞いていてはまずい気がしたが、やめられなかった。
 
「わかってるよ!にしても、お前もアレが充満する部屋にいたって聞いたけど、よく無事だったな。」

「俺は一瞬しか部屋に入ってねーし、吸ってねーから。」

 シカマルが少し冷たく言うと、キバはシカマルの肩に腕を回してニヤっと笑った。

「でも、あの子を助けたのはお前だって聞いたぜ。なんもなかったのかよ。」

「あのなあ!」

 シカマルが怒ってなければ、危うく自分が殴りにいくところだったと思い、ナマエはわなわなと震えた。キバは冗談で言っているようだが、ナマエもシカマルも怒っていた。しかし、たしかにキバの言う通り「なんもなかった」わけではなかった。

「俺はシカマルを心配して言ってんだよ。お前働きすぎだし、息子を1人で育てんのも大変だろ。彼女とか作ってさあ――」

 シカマルは、はあーと大きくため息を吐くと、冷静さを取り戻したように、キバの腕を肩からどけた。

「お前なりに心配してるんだろうけどよ。俺はもういいんだよ、女とか恋愛とか。めんどくせー。それにな、

 ナマエはだめだ。絶対にない。」

 ――え……。

 その後、キバがシカマルに何かを言っていたが、ナマエには聞こえなかった。忍としての意地か、持っていた巻物を落とさなかったことは不幸中の幸いだった。ナマエは巻物をそっと倉庫の前に置くと、気配を消したまま立ち去った。

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