スタンド・バイ・ミー | ナノ 11


 シカダイは夢を見た。これは夢だなと最初からはっきりわかる夢だった。
 ナマエと墓地にいた。隣に立つナマエはシカダイの目をじっと見た。ナマエの色素の薄い瞳の色が、夕焼けに照らされてさらに明るく見えた。すると、いつの間にか紫陽花呉服店にいて、ナマエはまたもシカダイの目を少しせつなそうにじっと見る。ボルトやいのじん、木ノ葉丸にはしないのにシカダイだけ。うぬぼれや勘違いかもしれないが、シカダイにはそう思えた。いつの間にか2人きりになっていた。鏡の前に立つシカダイと、近寄るナマエ。そこでもナマエはシカダイの顔をじっと見ていた。

 ――こんなことあったか?

 ナマエはシカダイにぐっと近づいた。強いだけあって、気配なく近づくのが癖なのだろう。シカダイは、ああサイズを測られた時の記憶かと思った。夢にまで見るほど、この時はナマエを強烈に意識したなと思った。
 すぐ離れると思ったナマエは、ぎゅっとシカダイを抱きしめたままだった。鏡に自分を抱く後ろ姿と、焦る自分の顔が見える。

「ちょっ、ナマエ!」

 まだ一度も呼んだことのない名前を、夢の中で呼んだ。ナマエはゆっくりと身体を離し、またあの瞳でシカダイを見つめた。愛しい人を見る瞳だと思った。そして、そのまま顔を近づけて唇にキスをした。え、え、と動揺していると、ナマエは勝ち誇ったような意地悪な顔で笑った。

 飛び起きた。

「……なんであんな夢……。」

 はあーと大きくため息をついて起きた。予定時間より早いが、目が覚めてしまったのでもう起きようと思った。

「おうシカダイ。早いな。」

「親父はおせーな……。」

 シカダイが着替えて部屋を出ると、父親のシカマルが家を出るところだった。

「ちょうど良かった。今日は早く帰れそうなんだ。修行場まで迎えに行くからよ。チョウジと焼肉食いに行くぞ。」

 じゃな、とシカマルは出勤した。

 ――そういやチョウチョウ、母親と里帰り旅行するとか言ってたっけ。

「ふあーあ……」

 シカダイは修行に行くため、支度を始めた。



「あー食った食った。」

 チョウジの前には、大量の皿が積まれていた。

「チョウジ、年取っても食う量変わってねーな……。」

「親父はもうカルビ食べられなくなってるもんな。」

 シカマルはチョウジの食べっぷりに呆れ顔で、シカダイは自分の父親の胃の衰えに笑った。

「俺ももうジジイだな。」

 シカマルも笑った。



「チョウジおじさん、相変わらずすごかったな。」

「俺たちが下忍の時、しょっちゅう焼肉食いに行ってたけど、あの時より食ってたかもな。」

 シカマルとシカダイはチョウジと別れて帰路についていた。久しぶりの親子そろっての外食は穏やかなものだった。シカマルはシカダイを寂しくさせないように育ててきているが、2人で街を歩くなんてことは最近していなかった。

「シカダイとこうして出かけるのも久しぶりだな。」

「最近は時間が合えば修行ばっかだしな。」

 はぁーめんどくせーと頭の後ろに手を組む息子の姿に、過去の自分の姿が重なる。テマリの血が入ってる分しっかりしているが、こうも自分に似るかねとシカマルは笑いそうになる。
 シカダイの横顔を見ていると、めんどくせーとまぶたの重たかった目に光が宿った。目を見開き、口角が上がって嬉しそうにキラキラした顔をしている。自分の息子ながら、こんな表情をするなんてシカマルは知らなかった。

「シカマルさんと、シカダイくん……。」

 シカダイの視線の先にはナマエがいた。

「こんな時間に買い出しかよ。」

 シカダイはナマエの手に下がっている紙袋を見て言った。ナマエはぼけっとしていたが、すぐに紙袋を少し持ち上げて笑った。

「創作意欲が突然わいちゃって、閉店前に駆け込んだの。今度完成したら見せてあげる。」

「いつの間にナマエと知り合いだったんだ、シカダイ。」
 
 シカダイとナマエが仲良さそうに話すのを一歩後ろで見ていたシカマルは、シカダイの頭にぽんと手を置いた。

「シカマルさん、こんばんは……。息子さんとも仲良くさせてもらってます。」

 ナマエはシカダイの前では見せない、きちんとお淑やかな態度で話した。何キャラだよとシカダイは思った。

「こっちこそ、息子の面倒見てくれてありがとうな。迷惑かけてねーか?」

「全然。シカマルさんに似て、聡明でとってもいい子ですね。」

 ――いい子ぉ?

 シカダイは、いつもよりナマエが大人ぶってることに気が付いた。

「ならいいんだけどよ。」

「親子2人でご飯でも食べてきたんですか?」

「ああ。チョウジもいたんだけどな。焼肉食ってきた。」

「いいですね。今度わたしも連れてってくださいね。」

 ナマエは口元に手をあててふふっと笑うと、シカマルを見上げた。シカダイは、なぜかナマエの態度が面白くなかった。自分の父親の前で可愛こぶる友人が許せなかったのだろうか。シカダイは、しゃべる2人を置いてのんびり歩き出した。

「おい、シカダイ!じゃあな、ナマエ。気をつけて帰れよ。」

「はい、また。シカダイくんもまたね!」

 シカダイは、ナマエのまたねに聞こえないふりをしてそのまま振り返らず歩いた。追いついたシカマルは、シカダイを叱ろうかと思ったが、シカダイの不貞腐れたような横顔を見て、辞めることにした。

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