スタンド・バイ・ミー | ナノ 10


 ある日、シカダイはたまたま近くを通ったので、ナマエの店に顔を出すことにした。もう何度か用もなく遊びに行っては、しゃべったりナマエの作業をぼーっと見たり時々手伝ったりしていた。公園で昼寝をしていたら騒がしくなったので、ちょうどいいやとシカダイは歩き出した。店の前に着くと、先客がいたようで、ナマエと忍のベストを着た男の話し声が聞こえる。

「ナマエちゃんはどういう服が好き?」

「……シンプルな感じですね。」

 ナマエは客と話しながら、いつものように服を作っていた。少し素っ気ないが、客の男は気にせずナマエに話しかけていた。

「シンプルかー、俺に似合うかなー。そうだ、サイズとか測っておいたほうがいいよね?」

 シカダイは、なんだこいつと思いながら様子を見ていた。どう見てもナマエに下心があるようだった。サイズを測ると聞いて、自分が以前ナマエにウエストを測ってもらったことを思い出した。決してやましい行為ではないのだが、自分もドキドキしてしまった分、男にやるのは止めたかった。

「よっ。」

「シカダイくん。いらっしゃい、待ってたよ。」

 待ってた?とシカダイは疑問に思ったが、我が物顔で店に入ると、靴を履くために置かれた小さな椅子にどかっと座った。男の客はちらっとシカダイを見たが、気にしていないようだった。

「ナマエちゃん、」

 ナマエはメジャーを手に取るとを、男に近寄った。シカダイはげ、と思ったが、ナマエの様子を見守った。

「はい測りますね。」

 ナマエはチャクラをメジャーにこめると、メジャーがうねりと動き、男の背中にピタリと張り付いた。さらにそのまま、お腹まわりにくるりとメジャーが巻き付くと、またナマエの手に戻っていった。

「なるほど。このへんとかおすすめですよ。」

 ナマエはにっこりと営業スマイルで言うと、その男に服を数着渡した。男は不服そうだったが、その後シカダイとナマエがしゃべり始めたので男は帰っていった。男の気配が消えると、ナマエはふーっと大きく息を吐いた。

「シカダイくん、ありがとう。」

「え?」

「あのお客さん30分くらいずっといたから、シカダイくんが来てくれて助かったよ。」

 ナマエは出した服を片付けるとシカダイを見た。

「ほんとありがとう。」

「別に。」

「様子みててくれたよね?気配でわかったよ。」

 シカダイは照れたように目線をそらした。1人の男として頼られた気がして少し嬉しかった。安心しきった様子のナマエを見て、なんだかすごく気分が良かった。

「また来るだろ、あいつ。どうすんの。」

「どうするも何も……何かされてるわけじゃないから何もできないよ。」

 ナマエは困ったように笑うと、服作りを再開した。シカダイはそれを頬杖をついて見ている。

「……襲われたらどうすんだよ。」

 シカダイは思わず心配がぽろりと出てしまった。こんなに狭い店内で小さくて細いナマエがあの男に抱きつかれるところを想像して嫌な気持ちになった。しかしナマエの顔には心外だと書いてあるくらい不貞腐れた様子だった。

「……シカダイくん、わたしのこと舐めてるね?」

「は?そんなんじゃねーけど、」

「そこに空き地があるから準備運動してて。組手の修行するわよ。」

 なぜが闘志に燃えて店の片付けを始めるナマエに、めんどくせーと内心思いながらもシカダイは先に外に出た。大人っぽく振る舞ってもすぐムキになるところは自分よりやはり子どもっぽいと思った。

 ナマエは店の扉を閉めると、通りを挟んだ向かいの空き地へやってきた。ナマエは着替えもせず手ぶらで、店にいた時の格好のままだった。ミニスカートに動きにくそうなロングブーツ、さらに腕を完全に露出したノンスリーブのハイネックニットだったので、さすがにそれでいいのかと気になった。

「何使ってもいいよ。どうぞ。」

 ナマエは両手をハグを待つように広げたまま言った。シカダイは、これは自分が舐めた態度を取ったから挑発してきてると感じた。シカダイはどう攻めるか……と考えを巡らせた。やはり自分には影縛りかと思ったその時。

「はい一本。」

「!」

 ナマエはいつの間にか高速で移動して、シカダイの背後に立っていた。ご丁寧に首筋に腕が回っており、もう片方の手には折れたカッターナイフの刃のような小さく鋭利な武器を持っていた。

「格上の人は下忍の出方を見ていなすもんじゃねーのかよ。忍組手だろ。」

「シカダイくん、わたしのこと傷つけちゃうかもって思ってそうだったから実力見せつけてみた。」

 大人気ねーと呆れるシカダイに、ナマエは拘束したままドヤ顔で笑った。ナマエは拘束を解くと、素早く元の位置に戻った。

「今度こそどうぞ。」

 結局のところ、シカダイはナマエにまるで歯が立たなかった。近距離で戦おうとすると、影首縛りをする余裕さえ与えないほどすぐ拘束されてしまうし、距離を取って影で捕まえようとすると、ナマエは傀儡師のようにチャクラ糸でシカダイの動きを封じた。担当上忍のモエギよりも強いかもしれないとシカダイは内心冷や汗をかいた。

「参った?」

 何本取られたか数えるのも諦めたころ、ナマエはシカダイの両手首をチャクラ糸で固定して馬乗りの状態で意地悪に笑った。戦意喪失していたので、急に自分の体勢を客観視してしまった。縛られてナマエが自分の上に乗っている。何かが目覚めそうになるのを視線をそらして必死に誤魔化した。

「参った。ギブアップ。降参だ」

 シカダイの降伏を聞くと、ナマエは嬉しそうに笑った。シカダイの上からどいて、チャクラを止めた糸を回収した。
 
「傀儡人形のない傀儡師みたいだ。」

 シカダイは、自分の叔父が使っている傀儡の術を思い出しながら言った。ナマエの術は、敵にチャクラ糸をくっつけて動きを止めたり強制的に動かすものだった。

「わたしの任務は基本的に武器をほとんど持っていけないから。口の中とか服の中に隠せる武器で戦うしかないの。」

 シカダイにはナマエが寂しそうな、少し悔しそうにしているように見えたが、何も言わなかった。

「シカダイくんも強くなるよ。先を考えて冷静に動けてる。あとは術のスピードとスタミナだけど、修行すれば勝手に身につくから。きっと、」

「ナマエ先生?」

「シカダイもいるじゃん。どーいう組み合わせ?意外すぎるんだけど。」

 空き地を見渡せる通りにいたのは、サラダとチョウチョウだった。シカダイは、先生?とナマエの顔を見た。

「サラダにチョウチョウ!久しぶりね。」

 ナマエは立ち上がって2人のそばに行っていた。シカダイは3人が知り合いなことにも先生と呼ばれていることにも驚いた。

「シカダイ、なんでナマエ先生といんの?」

「チョウチョウこそ、なんでこの人と知り合いなんだよ。」

「ナマエ先生、アカデミーの特別講師として何回かくのいちクラスに来てたのよ。そっか、男子は知らないんだ。」

 サラダの説明にナマエはうんうんと頷いた。

 ナマエはくのいちクラスで、くのいちの戦い方について、先輩忍者として何度か教鞭を取っていた。潜入任務のために生け花などをやることもあったが、ナマエが教えていたのは護身術や化粧など、潜入捜査や色任務に役立つことだった。
 ナマエの世代は第四次忍界大戦の復興のどさくさでかなりの子どもたちが忍の世界から足を洗っていた。ナマエの世代は忍が少なく、さらに言えばくのいちの数も少なかったので白羽の矢が当たったのだ。
 ナマエはアカデミー生と年齢も近くお姉さんのような存在として、くのいちクラスで人気があったのだ。

「シカダイくんに弱そうって思われてたから、今ぼこぼこにしたところ。」

 ナマエはシカダイを見てニヤリと笑うと、シカダイはガキ。とだけ言ってむくれた。サラダとチョウチョウはナマエの強さを知っていたので、そりゃぼこぼこにされるよと呆れた。

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