スタンド・バイ・ミー | ナノ 08


「ボルト、この後どうする?」

「雷バーガー行こうぜ!いのじんがいない間にレベル上げておこう。」

 シカダイとボルトは、木ノ葉隠れの里の中心街にいた。いのじんは母親に呼ばれて店の手伝いをすると言うので先ほど帰った。残った2人は、小腹を満たしつつゲームをするために、駅前の雷バーガーに向かった。

「ボルトくん!」

「?」

「お父様はお元気ですか?ああそうだ飴をあげよう。実はお父様にね……」

「あー俺は関係ないからクソ親父に言ってくれってばさ。」

 ボルトに話しかけてくる中小企業の役員の男は媚びへつらっていた。ボルトは自分の後ろの父親に話しかけられているようで、この男が好きではなかった。ボルトは男を撒くために柱へ登り、建物の屋根へ跳び移った。シカダイもそれに続いた。

「ったく!クソ親父が捕まんねーからって息子に頼むなっての。」

「お前も大変だな。でもあんまり親父さんに迷惑かけんじゃねーぞ。」

「かけてねーって!」

 ひょいひょいと屋根から屋根へ跳び移り、最短距離で雷バーガーに着いた2人は、ポテトとジュースを頼んで席に着いた。

「そういやシカダイ、この間のナマエ姉ちゃんのノーマルカード、結局売らなかったのか?」

 シカダイは、ジュースをストローで飲んでいたところだったので、動揺してブハッとこぼした。

「ごほっごほっ!」

「おんやー?シカダイ、まさかナマエ姉ちゃんのカード気に入ってんな?」

 噎せて涙目になったシカダイは、改めてジュースを飲みなおすと、ふーっと大きめのため息をついた。

「あのな……市場価値が上がってるレアカードなら持っといて損ねーだろ。カード自体がノーマルでも、付加価値をつけてるやつがいる限りSSRなんだよ。」

 シカダイは、冷静に客観的な意見を述べた。本当は、なんとなく持っておきたいという漠然とした理由で売らなかっただけだが、説明がつかないので、後づけで理由を考えたのだ。

「ふーん。まあたしかにナマエ姉ちゃんは、」

「若様!奇遇ですね!私は先日お父様に……んぐ!」

 ボルトが話しかけた途中で、雷バーガーに勢いよく入店した男が声をかけてきた。ボルトはその男の顔に雷バーガーのロゴが彫られたお盆をバンと叩きつけると、テーブルをひょいと飛び越えて退店した。シカダイはやりすぎだろ……と思いながらも、ボルトの後を追った。

「あーまじで気分悪ぃ!火影様火影様ってよー。シカダイ、俺今日は帰るってばさ!」

「おい、」

 ボルトはそれだけ言うと、また軽い身のこなしで走り去っていった。残されたシカダイが雷バーガーの出口にいると、先ほどの男が追いかけてきた。

「君はシカダイくんだね?私は君のお父様にも、」

 シカダイは、はぁーっと大きくため息をついて、その男から逃げるように柱や看板を利用して屋根に登った。ボルトの気持ちが少しだけわかる気がした。

 ――ナマエ姉ちゃん、いい人だよな。子ども扱いも、火影の息子扱いもしねーしよ。

 ボルトの言った言葉をふいに思い出した。たしかにナマエはボルトの父親のことには触れず、ボルトをボルトとして扱っていた。

 ――なら、俺は?

 どうしても気になって、シカダイの足は「紫陽花呉服店」に向かっていた。帰るにはまだ早いしと誰にでもなく言い訳をしながら。



「シカダイくん。いらっしゃい。」

「こんちは。」

「今日は1人?」

 シカダイは、勢いで来てしまったことを後悔した。理由もなく自分が1人で来るのは変だと思った。

「そっす。……あの、買い物。」

「えっそうなの?ありがとう。」

 店なんだから買い物をすれば問題ないと咄嗟に言ってしまったが、シカダイは早くも後悔していた。先日、いのじんに高いぞと脅していたのを思い出したからだ。何が言いたくて来たのかもわからないまま、特に必要ない服を買う羽目になり、シカダイは「何やってんだ俺……」と心の中で項垂れた。自分のよくわからない感情がめんどくさかった。

「何を買いに来たの?」

「……服。」

 ナマエはポカンとあっけにとられた顔をしたが、何かを察したのかふっと笑って「どうぞ好きに見てって」と言った。シカダイが何をしに来たのかはわからなかったが、服を買いに来たわけではなさそうだと思った。暇つぶしかなとも思った。

「ちなみに、わたし夕方から任務だから店閉めちゃうけどいい?」

 シカダイはコクリと頷いた。そこからポツリポツリと適当な会話をして、ナマエは服作りを再開した。シカダイはナマエの服作りに興味があったが、とりあえず店をぐるりと一周して、適当にTシャツを見た。特に服に興味があるわではないが、たしかに木ノ葉デパートなどで買う服とは違うんだろうなと思った。すぐそばでチャクラを練るナマエを見て一層思った。

「ちなみにね、」

 ナマエは作りかけの服を椅子に置くと、シカダイに近寄って、メジャーを取り出した。
 
「シカダイくんがTシャツを買うなら……」

「!」

 ナマエがぐっと近づいたので、驚いて一歩後ずさろうとしたが、後ろには服がかかっていて下がれなかった。普段はサイズを測る時は断るのだが、シカダイならいいだろうと勝手にメジャーを伸ばしてウエストを測りにかかった。さらにナマエとの距離が近くなり、シカダイは息を止めた。数秒だが、ナマエに抱きつかれた形になり、シカダイは首筋が熱くなるのを感じた。その後、シカダイの後ろに狭い思いをしながらも回り込んで肩幅を測った。

「既製品ならメンズのSだね。でも大きめ着るのも流行ってるからこのくらいのサイズでもかっこいいかも。」

 ナマエは近くにあったTシャツを手に取ると、シカダイの胸にあてた。ちょうど鏡があったので、シカダイに服を当てるナマエの姿が映った。ナマエは鏡に映るシカダイの瞳を見た。シカダイは視線をそらしていたので目が合うことはなかったのでじっくりと見つめた。

 ――シカマルさんとは違う色。

 シカマルの息子と知り合ってしまってからというもの、シカマルと恋仲になるのは諦めたほうがいいかもしれないという思いが強くなった。素直でしっかりしたシカダイを見ると、亡くなった奥さんの忘れ形見を1人で懸命に育ててきたのだと痛感する。

 ――今自分の隣にいるのは、好きな人の子どもなんだ。

「きっとすぐ大きくなるだろうけどね。お父さん身長高いし。」

 ナマエは切なげに笑うと、持っていたTシャツを元の場所に戻した。シカダイは惚けていた頭が冷めた。ナマエの口から出た「お父さん」という言葉によって。

「もうこんな時間か。シカダイくん、帰らなくて平気?お父さん心配するんじゃない?」

「親父親父って……うんざりなんだけど。」

 シカダイはつい本音がストレートに出てしまった。シカダイはやっちまったと思い、ナマエの顔を見た。ナマエはシカダイの言葉に驚いているようだった。ナマエ自身、自分の気持ちを守るためにシカダイの気持ちを少しも考えていなかったことに気付きショックを受けた。シカマルの息子として接していれば、シカマルへの気持ちを抑えられる気がしたから。

「……ごめんなさい。わたし、シカダイくんの気持ち、考えてなかった。本当にごめんなさい。」

 ナマエは申し訳なさでいっぱいになった。シカマルのこととなると、なぜこうも自分はポンコツになるんだろうと思った。シカダイは今までもこうやって親の偉大さと引き換えに悲しい思いをしてきたんだろうと思った。
 シカダイはというと、ナマエがこんなに心を痛めたように謝ると思わなくて、逆に申し訳ない気持ちになった。自分のことを「ガキくせー」と思った。

「いや。親父のこと言われるのは慣れてるんだけど、なんか引っかかって……。別にいいよ。」

「ごめん。言われ慣れてても、いい気はしないよね。気を付ける。……仲直りしてくれる?」

 ナマエはそっと手を出してきた。

「……めんどくせー。」

 シカダイはまるで子どもの喧嘩かよと思ったが、ナマエの指に自分のを絡ませた。和解の印だ。

「和解の印なんて今時しないぜ。」

「そうなの?ジェネレーションギャップかな。」

 シカダイとナマエは目を合わせてふっと笑った。



 シカダイは帰宅すると、ベッドにごろんと寝ころんだ。モヤモヤしていたものがすっきりしていた。あの後、言い訳じゃないけどとナマエは言ってから、父親には任務などでたいへん世話になっていてついと話した。シカダイが知らないだけでナマエの世界と自分の世界が繋がっていたように思えた。話していると忘れてしまいそうになるが、ナマエはシカダイより7年も先輩なのだ。父親と任務をこなしていても不思議でない。

 ――あんな弱そうで戦えるのかよ。あんな細くて……。

 ふと忍として戦うナマエを想像しようとしてできなくて笑いそうになってしまった。そして、今日ふわっと抱きしめられたことを思い出した。――正確には抱きしめられたわけではなく、ウエストを測られただけだが。シカダイは口元が緩みそうになり、恥ずかしくなって布団を被った。

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