毛利蘭
違和感を感じた時に、何かをすればよかったのか。
サッカー部も空手部も朝練がない時は、わたしが新一を家まで迎えに行っていた。新一は高校に入ってから1人暮らしをしているため、幼馴染のわたしが支えてあげなければいけない。――という建前のもと、習慣になったいつもと一本違う道を通って、新一の家へ向かう。新一はいつも新聞を読んだりしているので、早めに迎えに行かなければならない。
「新一!早くしないと遅刻するよ!」
チャイムを鳴らしながら、大きい声で呼びかける。
「わりぃ、蘭。今日先行っててくれ。」
「えっ、めずらしいね。どうしたの?」
「ちょっと野暮用。わりぃな!」
言うことだけ言うと、バタンと扉を閉めてしまった。着替えも済んでいたし、寝坊といった感じではなさそうだったけど……。胸にかすかな違和感を残しつつ、わたしは新一の家を後にした。
いつもよりはやく着いた教室には、まだ生徒はまばらにしかいない。おはようと挨拶を交わしつつ、窓際の真ん中より少し後ろの席へと着いた。どうやらまだ園子も来ていないようだ。わたしは、一通り授業の準備をしてから、窓の外を見たり、クラスメイトに挨拶をしたりして過ごした。
少しすると園子が登校してきた。
「おはよう、園子。」
「蘭!おはよう。今日は早いのね?あれ?新一くんはきてないの?」
「そう、今日は別なの。先に行ってくれってさ。」
「へー。めずらしいわね。ところでさあ、」
園子との雑談を楽しみつつ、わたしの意識の半分は教室のドアに向けられていた。ひとり、ひとりとクラスメイトがそのドアをくぐるたび、新一か否かを確認してしまう。園子にはお見通しかもしれない。
とうとう、チャイムまであと2分。ひょっとしたらサボりかもしれない。はたまた、事件の調査か。自分のことのように、時計を確認してはハラハラしていると、とうとう目当ての人物が堂々登場した。遅刻ギリギリなのに、目立つことに慣れているのかクラスメイトの視線をまったく気にしていない新一は、前方のドアからやってきた。隣には、あの子。クラスで一番、ひょっとしたら学校で一番可愛いと言われているあの子とだ。彼女は交友関係が浅いのにとても目立つ人だった。あいつと同じで、目立つのにそれをものともしない。2人は話に夢中になりながら入ってきたためか、クラスメイトが噂をしながら視線を向けていることにまったく気づかない。「ビッグカップル」とか、「めずらしい組み合わせ」などとちらほら聞こえる中、自分への視線も痛いほど感じていた。「蘭ちゃんかわいそう」の視線。
ややあって、この空気をぶち破ったのは、新一と仲のいい男の子の集団。新一ほどではないが、そこそこ目立つ彼らは、一気にあいつを取り囲んでニヤニヤしている。声はこちらまで聞こえないが、だいたい何を言っているのかはわかる。気にしていないふりをしながら、あいつがどう彼女との関係を話すのか、チラリと様子をうかがってみる。
新一はどんな顔をしていたんだろう。遠くて見えなかった。