毛利蘭

 部活のない日、だいたいは幼なじみの新一か、親友の園子と帰宅する。と言っても、帝丹高校空手部は強豪校のため、放課後の練習がないという日は少ない。そんな貴重な午後のひととき、今日は園子の買い物に付き合う予定だ。いつもの通学路とは違う、街へ出る道を通っていた。

「あ、名前ちゃん。」
 
 校門を抜け、5分ほど歩いたところで、同じ制服を着たひとりの少女の後ろ姿を見た。つるりと美しいまるみに沿って光る黒髪の後ろ姿。名前ちゃんがひとりで歩いている。声をかけると、名前ちゃんはくるりと振り返った。

「蘭ちゃん、園子ちゃん。」

 黒目がちな大きな瞳に、透き通るように白い肌、小さく赤く色づく唇が印象的な可愛らしい顔立ち。小柄な体型、触らずともわかるサラサラとした黒髪は、ふんわりと肩より上の位置で切りそろえられている。わたしは、名前ちゃんを見ると、子共の頃に絵本で見た白雪姫を思い出す。

「あれー名前ちゃんの家ってこっちの方だったっけ?」

 人工的に植えられた緑を背にした彼女は、ますます絵本の中の白雪姫に見えた。見惚れている間に隣にいた園子が話し始めた。

「ううん、違うの。今日はこっちに用があるんだ。」

 追いついた私たちは、名前ちゃんと並んで歩き始めた。並ぶと彼女の小ささに改めて気づき驚くが、しゃべると大人っぽく見えるから不思議だ。自分には持っていないものばかりを持っている女の子。憧れてしまう。

「えー?もしかして彼氏?」

「待ち合わせだけどね、彼氏じゃないよ。」

「そうなんだ。急ぎじゃない?呼び止めてごめんね。」

「ううん。声かけてくれて嬉しかったよ。」

 蘭ちゃんありがとう、と上目遣いで見てくる名前ちゃんは可愛くてときめいてしまう。男の人はイチコロだろう。

「あれ?あそこにいるの高木刑事じゃない?」

 園子が指差す方向には、たしかに高木刑事がいた。仕事中であろう格好をして、道の端で佇んでいる。そうだね、と言うより早く、隣にいた名前ちゃんは走り出していた。彼女らしくない――というほど彼女を深く知らないが、そんな突拍子もない行動に、言葉を飲みこんでしまった。

「高木さん!」

 高木刑事に向かってまっすぐ走っていく名前ちゃんを追いかけながら、#名前#ちゃんの新たな一面、偶然出会った高木刑事のことがぐるぐる頭に整理されずに積み重なっていった。
 
 名前ちゃんに追いつく頃には、名前ちゃんは高木刑事に尻尾を振る犬のようにそばにいた。高木刑事のスーツの袖を掴みながら笑顔を向ける彼女を見て、わたしと園子は目を合わせた。その時、わたしは園子とテレパシーを送受信し合ったと思う。つまり、同じタイミングで同じ考えに至っていたはずだということだ。
 
 追いついた私たちに、高木刑事は、蘭さんや園子さんと友だちだったんだねと安心したように穏やかな笑顔を向けていた。名前ちゃんには、高木刑事とは事件に巻き込まれた時にはよくお世話になっていると伝え、名前ちゃんと高木刑事の関係はと聞くとお兄ちゃんみたいなものだと高木刑事が笑って答えた。
 
 小柄な名前ちゃんが上を向き、それに合わせて高木刑事は目線を下げて、視線は合わさっている。それなのに、交わらないものがあるように見えた。
 
 ばいばいと手を振り2人を見送る形となった園子とわたしは、この後、テレパシーの答え合わせをして、意味もなく2人の行く末を語り合うだろう。

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