あなたは知らない(餅米様より)


飲み屋で、他愛もない話をしていた時だった。瑠璃丸とジオンが席を立って、足音が遠退いて数十分後。竜之介お墨付きの酒をたしなみつつ、相棒への不満と愚痴を溢しながら見事に泥酔したリヒトの様子に京次郎がほとほとに困り果て、完全に沈黙した彼を介抱してやろうと立ち上がり、傍らに近付いて、手を伸ばした。瞬間、京次郎の視界が反転する。腕を掴まれ、後ろにひっくり返された。背中を庭かに打ったが、痛みはない。それは、手加減をしていたという証拠であった。ふと、今はここにいない相方の姿を思い出し、かつて自分がされてきた行為が頭を過る。そんなこと、あいつ以外がするはずがない。されるわけがない。そう京次郎は思っていた。嫌な予感が胸を占める。

「リヒトさん!?」

俯く彼の表情は見えない。

「リヒトさん!いきなりなにを…っ」

焦燥する京次郎。もしそうならばすぐにでも止めなくては。しかし腕を振り払おうにも、体勢的に京次郎が不利なことは明確だった。そんな京次郎に、尚も反応を示さないリヒト。過去数回会っているので、知らない相手というわけでもないが、知っているからこその戸惑いがあるのだ。困惑する京次郎。身を捩り、抜け出そうと試みる。びくともしない。一見小柄で華奢だと窺えるが、彼もやはり男性であり、力はそれなりにある。京次郎は更に焦った。どうしよう、と頭がパニックに陥る、寸前。
ふと、リヒトが何やら呟いていることに気付いた。

「…ン」

ぴたりと動きを止め、耳を傾ける京次郎。
京次郎の頬に雫が一滴、落ちた。

「ジオン…」

その姿に、京次郎は目を見開く。いつも冷静で、感情を表にさらけ出すことはないと、初対面から今までずっと、認識してきた。無表情で、喜怒哀楽の一切を表さないと思っていた。その彼は今、京次郎の目の前で眉を潜め、苦し気に涙を流していた。次に、名前と謝罪を譫言のように繰り返す彼。ああ、そうか。そういうことか。それだけで全て察したのだ、彼の心の内を。京次郎は、思わずリヒトに手を差し伸べる。
そして、栗色の頭を、優しく撫でた。リヒトの肩が、僅かに跳ねる。

「大丈夫だよ」

まるで子供に言い聞かせるように、京次郎は柔く笑み、リヒトを見上げる。

「貴方の気持ちは、きっと、貴方の大切な人に届くから」

どうにか安心させたい。手を幾度か行き来させていると、リヒトの力が徐々に弱まる。そしてリヒトは、京次郎の上からふらつきつつも退けた。そのまま、畳に腰を下ろす。京次郎は、上体を起こして、リヒトを見据える。やはり俯いている彼。さて、このどうしようもない子供をどうしてやろうか。苦笑をしながら、彼が口を開くのを静かに待った。



*****



「…京次郎。迷惑を掛けたな」

翌朝。目が覚めたリヒトは、布団の隣に京次郎が座っていたことで、昨日の出来事が脳裏に瞬時に蘇り、起き上がって、まず、謝罪を述べる。酔っていたとはいえ、していいことと悪いことくらいの区別はつくし、何をしてもいい理由にはならない。彼は自負していた。対して京次郎はというと、気にした風もなく、リヒトに気さくに対応していった。
そして、別れの時。
申し訳なさそうに項垂れる彼に、京次郎はやれやれ、と溜め息を吐いた。

「…じゃあ、許す代わりに、」

京次郎が続ける。
リヒトが顔を上げた。

「ずっと、ジオンさんと仲良くしてね」

強く言い放つ。大切な人と離れるのは、とてつもない痛みを伴うから。この約束を、必ず守るように。

「…ああ」

しどろもどろに控えめな返答をしたリヒトは、しかし先程よりも、雰囲気が心なしか少し軽くなっている。じゃあな。と、ジオンとリヒトが振り向いて歩き出す。それから数歩して、

「あ、ジオンくん」

不意に、瑠璃丸がジオンを呼び止める。同時に、リヒトも足を止めた。

「昨日は楽しませてもらったよ。またよろしく、…ね?」

ウィンクしながら、人差し指を唇に当て、艶やかに微笑み、脳髄にまで響きそうな甘い声で告げた。その言葉に、京次郎は弾かれたように瑠璃丸を見る。

「!?お前、まさか…」

京次郎の顔が青ざめる。それはリヒトも同じだった。動揺し、隣に立っている相棒を見た。

「? ああ」

なんの事か結び付けていない様子であったが、それが、そういった行為事態が無かったのか、はたまた、現在での発言の意図が上手く飲み込めていないだけなのかは定かではない。ジオンは笑いながら「オレも、ありがとう」と手を振る。

少しの余韻を残して、両者は去っていった。













オマケ。



京「なぁ」

瑠璃「んー?」

京「お前…ジオンさんに何かしたのか」

瑠璃「やぁだ、ヤキモチ?んもぉ、京かわいい〜v」

京「違うよ、いいから教えろ」

瑠璃「ご心配には及びません。なにもしてないって」

京「…本当か?」

瑠璃「本当。それなら京だって、昨日は二人きりになったけど、何も起きなかったのか?」

京「ばかやろ。あるわけねぇだろ」

瑠璃「本当に?」

京「本当だよ」

瑠璃「ええ〜、残念…」

京「お前な…」

瑠璃「まあ俺は誠に有意義な時間を過ごせたから満足だけど」

京「…どっちの意味にも取れるよな、この場では。結局どうなんだよ」

瑠璃「なんもないってば」

京「疑わしいな。瑠璃だもん」

瑠璃「酷い!京ちゃんが信じてくれないなら、俺ショックで死んじゃう!」

京「鼻を爆発させて破裂しろ」

瑠璃「お前は俺をなんだと思ってんの?ねぇ」

京「…いいから早く行こ。親方に説教されると面倒だ」

瑠璃「ん、そうだな」

京「急ごう、時間ないから」

瑠璃「おう。…あ、さっきの話の続き」

京「?」

瑠璃「…何もなかったのは事実。…ただ、」





『壊してみたい』
とは、思ったかな。





目を細めながら、口許を吊り上げる瑠璃丸の表情を、背中を向けて歩いていた京次郎は気付かなかった。






*****

神か…!!!!!!!!
文とかいただくとなんかもう死ぬんじゃないかってくらい嬉しいです京次郎がかわいいよぉおおおおおおなんだこれ(落ち着け
瑠璃丸がなんだかとってもやらかしそうで愛しいです。プヒィって変な声出たんな、うれしすぎてな/////
ンホォオオオありがとごじゃいまひた…ひあわへ/////←

りひとさんと京次郎の話とかも書いてみたいでふんふふ(^q^)(^q^)(^q^)かぁわいいよリヒトさんんふふ


 



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