他所の子様借りてます(翔さん宅のお子様)
2015/09/09 23:56

ふと見上げれば、そこに一人の男が立っていた。
水面に、なんの違和感もなく。

湖の岸辺に腰掛け、脚だけ浸けその気持ちよさに微睡んでいたリュウリエルは、瞬きの間に現れたその男に釘付けになる。

此処なら安全だから待っていろ、すぐ戻る…──
そういってジェイが消えたのが数刻前のこと。
声を張ればきっと彼に届いただろう。だが、リュウリエルはそうはしなかった。
──…できなかった、と言った方が良いだろうか。
男は静かにリュウリエルを見据えていた。その瞳には様々な感情が灯るようで…何もない。
しかし、不思議と恐ろしくはなかったのだ。そう、それは此方が拍子抜けしてしまう程。
異様な現れ方をした男に首を傾げはしたものの、こちらの警戒心は何故か全くなかった。
(後になって考えればとても不可思議で恐ろしい事だと思う。きっと男は何か術を使っていたのだろう)

ひょろりと男は周りを見据る。その後、リュウリエルに問いかけた。

「龍の君、此処で狼を見ませんでしたか?」
「──…白い、狼なら」

龍の君、とは己のことだろうかと暫し思案する。しかしこの場には男と自分しかいない。
そう思い、その問いかけに小さく答えた。
…そう、それは昨日の事。
月が異様に大きく赤く美しかった夜。眠りに就こうかどうしようかと、たわいない会話をしていた時だ。目の前に白銀の狼の群れが現れた。
獣の瞳は美しく、彼らを見据えた後すぐに森に帰って行った。ジェイに恐れをなしたのか、リュウリエルに挨拶をしに来たのか…定かではなかったが。あれは本当に美しかったと、今も思い出してリュウリエルは微笑んだ。
しかし男は首を振る。

「いいえ、龍の君。黒い狼です。まるで墨をぶちまけたような…闇に溶ける黒色です。」
「黒、ですか…いえ、見ていません」

「そうですか」

此処にもいなかったか。
そう男は落胆の溜息と共に言葉を吐いた。
そのあまりにも寂しげな様子に、リュウリエルはたまらず声をかける。

「僕も一緒に…」

しかし、男はゆるりと首を横に振った。そして、物悲しげな眼をそのままに続ける。

「ありがとう。気持ちだけ頂いておきましょう。俺の探し物はこの世界のモノではない。だから、もし彼がこの世界に来たのならば…まず貴方に挨拶をするだろうと思っていたのですが。しかし、そうか。その様子じゃ…来ていないのか。」

また移動せねば。そう男は呟いた。
訳の分かっていないのはリュウリエルだ。この世界のモノではない、とは一体どういうことなのか。
あの、と言葉をつづける前に男がふわりと笑う。

「龍の君、すまないがここに長居は出来ない。覇王がお怒りだ」
「覇王って…ジェイのこと、ですか?何故…」

「少し貴方の心を借りたのです。貴方だけに問いたかったから」

心は嘘を吐かないからね。
──…男が何を言わんとしていることを、リュウリエルは図りかねる。
首を捻れば、男もそれを真似した。なんだかその様子がとても可笑しくて、リュウリエルは笑みを溢す。
男はゆるりと笑う。最初に彼が現れた時には全くなかった感情…慈しむ想い、それがその瞳に込められていた。

「龍の君、俺がこの場を離れると、君は夢から目が覚めるだろう。そして、覇王や紫の君から何があったかと質問されるが、決して俺と会ったことを言ってはいけないよ。」

こくり、リュウリエルは頷く。
何故か、そうしなければならないと思った。
男は話し続ける。同時にリュウリエルの視界が歪んでいく。

「そうこうしているうちに、三人の男が湖から現れる。龍の君と同じくらいの容姿の男と、瑠璃色の髪の男。この二人は全く害がない。特に小さい方は君の事を守ってくれる。仲良くしてあげて。…だが、もう一人。一番歳を取っている「親方」と呼ばれる男。」

ふ、と男が困ったように笑う。

「彼に名前を教えてはいけない。彼は術を扱うものだ。真名を教えれば、君は利用されてしまう」

だけど、名前を教えなければ大丈夫だからと続けた。
なにが、大丈夫なのだろうか。
なにに、利用されるのだろうか。
歪む視界が原因で、声が出ない。
ぐるぐるぐるぐる。
渦に巻き込まれたような錯覚に陥る。

「すまない、心を離し過ぎたね。早く戻してあげなければ」
「…まって、」

飛びそうな意識の中で、リュウリエルはやっと言葉を絞り出す。
男はゆるりと笑う。その後の言葉を促す様に。
リュウリエルはやっとの思いで言葉を紡いだ。

「あなたは、だぁれ…」

男はにこりと笑った。


「──…竜之介」


今度こそ意識が暗転した。




ぱちり。
目を覚ませば此方を心配そうに見据える紅と紫の瞳。その向こうには抜けるような碧空。
ジェイ、と呟けば抱き締められる。大丈夫だよ、と笑えば頭を潔に撫でられた。
宣言通りすぐに戻れば、リュウリエルが顔面蒼白で倒れていたという。まるで魂が抜かれたようで、恐ろしかった。そう、頭を撫でる彼は言う。
心と言うよりは、魂を抜かれていたのかもしれないな。そう、リュウリエルは思った。でも、どう説明したらいいのかわからない。
それに、彼に…竜之介に会ったことを言ってはいけないと約束をしてしまったし。
だが、このかき抱いてくる王をどうにかしなくてはならない。リュウリエルはしばし思案するも、彼の頭をゆるゆると撫でる位しか術はなかった。

そうこうしていうちに、眼下の湖がぼこぼこと震えだす。先程の心配な雰囲気から一変、緊迫した空気になる一行。戦闘態勢に入るその素早さといったら、もはやあっぱれであった。
三人の注意が集まる中、三つ人が湖から飛び出した。
即座に構えるものの、その三人は明らかに身内で盛り上がっていた。

「だああああああくそっ!ふざけんなクソッ!!!何であんな凶悪な魂取り逃がしてるの?馬鹿なの?死んでッ!!!ていうか油断してたから海の中落っこちちゃったし!!!あああどうすんの絶対上の連中にぶっ飛ばされる!!!」
「あああ親方傷付いた。死んでとか言われて傷付いちゃった!!!瑠璃丸慰めてえええ!!!!」
「死ねば?」

「やだあああああこの子ガチで怒ってるwwwもぉおおお謝ってるじゃんwwww」
「「反省感がねぇ!!!!」」

思い切り殴られ、思い切り泣く親父。そんな親父を水面に沈めようと必死な男二人。これこそ混沌であった。
ふと、視線に気付いた親父が岸辺の彼らを捕らえた。そして「おぉ!」と声を上げる。

「龍の君!」

男二人を簡単に押しのけ、親父はリュウリエルの元へ近づく。
ふわり、ひらりとジェイと潔の視線を潜り抜け、膝をつき、リュウリエルの小さい手を取り口付を送る。

「会いたかった。本当に、愛らしい」

にこりと笑うその瞳。どこかで見覚えが…

「お尻を触ってもいいですか?」

思い出そうと必死なリュウリエルを余所に、親父は言う。凍る空気。さらに「肩舐めていいですか?あと首と耳」と質問は続く。ちなみに覇王の殺気が森中に木霊した。
さらにそのリュウリエルの細腰を抱すくめようと親父が動いた時、ついに湖に取り残されていた男二人が親父に制裁を加えた。いわゆるとび蹴りである。
ブッ飛んで再び湖にダイブした親父を無視し、二人の男は謝る。

「ほんとにごめんなさい、湖から急に出てくるしセクハラするし…どう見ても不審者なんだけど、どうか通報だけはしないで!」
「うん、そういう事だから金髪の兄さんも白髪の兄さんも殺気解いて下さい。土下座するんで…しっかし親方の言う通り、本当に可愛いね。君、名前は?」

「瑠璃丸!口説くな馬鹿!!事を穏便に運ぶためにお前も謝れ!!ていうか空気読んで!!!」
「だって京次郎、俺最近可愛いモノに触れてない…」

「しるか…って親方!!逃げるな…!!!」
「竜之介ちゃあああああん!!!」

「竜之介ちゃんってなんぞww威厳を持って親方とお呼び!!!」
「威厳も糞もねぇ癖に威張るな!!!」
「取り敢えず土下座するから集合して〜!」

なんとも緩い空気である。
もはや潔に突っ込む隙すら与えなかった。


それよりも。
竜之介、という名にリュウリエルは驚いていた。


彼らが静かになったのは、痺れを切らしたジェイが三人の頭をそれぞれ小突いた後だった…というのは、また別の話。


((出逢いの話))

「ジェイさんの小突くって俺らにとって脳が爆発するくらいの威力だからね」
「うん、あのときは死ぬかと思ったよね」
「おめぇらが良い子にしないから…」
「「どう考えてもお前のせいだよ…!!」」


▼▼▼

お子様お借りした上に支離滅裂という(^q^)(^q^)
しかも終着点に落ち着いてない…あれだ。たぶん続くんだと思います(白目)
ウオオオオオオオ苦情受付中です…



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