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「#幼馴染」のBL小説を読む
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当たらぬ蜂には刺されぬ


仰向けに横たわって、胸の上に立てて開いた本を読んでいた。お気に入りの枕はわたしの背中を柔らかく支え、クーラーの効いた室温はとても快適だ。そして隣で猫みたいに眠る男もまた、この部屋の心地よい環境を底上げする要因の一つである。


「なに読んでるんだい」

気がつくと彼がわたしの本を覗き込んでいた。となりを見やれば間近にいるマスクをしていない彼と目が合い、ゆったりとキスをされる。寝てたと思ってたのに。

「びっくりした顔するなよ。あんたが髪を触るから起きたんだろう」

「え、触ってた?」

「手癖が悪いなぁ。オレは猫かなにかじゃあないんだぜ」

髪を掻き上げるメローネは文句をたれる割に目を細めて笑っている。ぱっとわたしの手から小さな本を奪うと、彼はうつ伏せになってそれをぱらぱらと表紙から捲る。わたしは彼の髪から覗くうなじを見つめていた。

「似合わないのを読んでるな」

「読んだことある?」

「無いな。これからもきっと無い」

興味なさげにパタンとわたしの好きな児童書を閉じてその辺に放ったメローネは、身体を起こすとわたしの被ってる毛布を剥ぎ取り、何も着てない身体に覆いかぶさってつぶすように体重をかけた。

「うう、重たい」

「気持ちよく寝てたところを起こしたのはあんただぜ。構ってくれよ」

唇を舐めて彼がそういう。両手で柔らかな髪の毛に指を通して、するりととかす。艶やかなキューティクルだ。頭皮を指の腹でさらりと撫でるとほんとに猫みたいに彼は目を細めた。
不思議だな、この人とこんな風になるなんて思っても見なかった。わたしはてっきり、この人は女ってものに深い憎しみを携えているんじゃあないかなと思っていたから。しかしその疑問は未だ晴れた訳ではないが。
そんなメローネは相変わらずわたしを観察するように見下ろしている。

「……リラックスしてるきみがかわいい」

「なあに、突然」

「いつも気を張ってるだろう。セックスの時だって身体がこわばってた」

「そうかな。自分ではわからないけど」

「もっと楽に生きたら良い」

わたしは割りと好き勝手生きてる方だと思ってたけど、メローネからしてみたら違うらしい。この男は伸びやかだ。自分を偽ったりしない。そういうところをずっと以前から魅力的に感じている。憧れるのだ。
女の身体を持って産まれた身からしてみるとなによりも恐ろしいスタンド能力を持つ彼は、一体過去にどんな経験をしてきたのだろうか。それがどんな風に、彼の人格と能力を作ったのだろう。特に隠されてはいないのかもしれないが、わたしにとってはパンドラの箱な気がした。わたしが心の金庫に鍵をかけて多くのものをしまっているのと同じように。

「……女の子みたいな顔をしているね」

「あんたもな」

冗談を言われて少し笑う。
美しく整った顔立ちはただ端正なだけではなく、そこには僅かな毒だとか、性的なちょっぴり怖いものを感じさせる。そしてそういうものが彼の単純に整っただけではない美しさの根底を築く。
本をめくるような調子で彼の頬を撫でる。限りなく無意識に近い行為を彼はふざけて咎めた。

「やっぱり手癖がわるい」

「綺麗なものには触りたくなるのかな」

「じゃあオレも触ろうかな」

頬を親指で撫でられるのと一緒に、少し身体をずらして熱を持った男の身体の一部を足の付け根に押し付けられる。わたしは少ししか脚を開いていないし彼はわたしの上に寝そべっているだけなものの、お互いなにも着ていない今、それは彼の裁量次第で簡単に入ってきてしまいそうだった。ぞくっとした根源的な恐怖を覚える。

「……メローネ」

「大丈夫。そんなことしないよ」

わたしの恐れを感じ取ったメローネが子供を安心させるように笑う。彼はわたしの本みたいにシーツの上に放られている小さな箱に手を伸ばした。そこから個包装された薄い膜をガサリと取り出す。
柔く口付けられる。少しずつそれは深まり、わたしの身体に完全に体重をかけていた彼はベッドへ膝をついてわたしを跨いだ。唇が離れて、身体を起こした彼が自分の性器に避妊具を被せるのを見た。ゆったりとした動作で膝の裏を掴むとわたしの脚を開き、明るい部屋の下にそこを晒される。彼の指先が潤いを確認するみたいに少し撫で、薄い膜を被った熱い性器が入り口に押し当てられる。そのままぐっと押し入ってきて、圧迫からまともな呼吸の仕方を忘れてしまった。

「は、は」

「ごめん、急ぎすぎたな」

浅く呼吸すると謝罪しながら額にキスをもらった。慣らされてないままの挿入はこの人にされるのは初めてだ。そもそも彼とはこれが2度目の性行為であるが。しかし先ほどまで彼が入り込んでたそこはきちんと彼の形を覚えているようで、促されるように呼吸を深くしていると少しずつ肩の力は抜けた。

「そうそう。そうやって、身体の力を抜いてオレに任せろよ。酷いようにはしないから」

半分しか開かない目で誘拐犯みたいなことを言う彼を見上げる。メローネが腰を動かすと、奇妙な水音がわたしたちの性器の結合部分から聞こえた。首をのけぞらせて激しい刺激に耐える。上手に息もできないのに、その息苦しさがわたしは気持ちよかった。彼の言葉通りになるべくリラックスして、全てを委ねるように努めると存外セックスというものはとても心地よかった。

「っふ…、あっ、あ、メローネ、メローネッ」

「そう何度も呼ばれると、勘違いしそうだぜ……」

唇を寄せられ、深く舌を交えたキスをする。彼の勘違いってなんだろうか。そんな言葉にわたしの方が勘違いさせられることを恐れて、知らないふりをして、ただひたすらに快感に身を委ねた。きっと酷い痴態を晒しているのだろうけど、なんとなくこの人の前では許される気がした。色っぽくない、本能のままの下手くそな嬌声を上げるわたしをじっと見下ろしたり、身を寄せて抱きしめたりする彼は、何をどのような動機でそんなことをするのかな。彼にとっての女ってなんだろうか。

「もう、もう……っう、あぁっ、やだっ、」

「嫌じゃない、大丈夫さ。ほら…あんたはさっきイってないだろう、ナマエ」

なんでバレてるんだろう。うまくやったと思ったのになぁ。でもさっきだって、とても気持ちよかったんだよメローネ。今も腕で抱いてくれている彼の首のあたりに頬を押し当てて、迫り来る快楽の波の恐ろしさに耐えた。全身を支配されて何も分からなくなるあの感覚はとてもこわい。でも、彼の腕の中で手放しに受け入れて仕舞えば、それは今までにないくらいに激しく暴力的に、しかし心地よくわたしを満たした。
未だ息を乱して震える身体の肩だとか首に、動きを止めてくれてるメローネがキスを落とす。身体に力が入らない。

「悪い、今度はオレがまだだ」

「……死んだ」

「も少し頑張ってくれ」

次こそ同時だぜ、だなんて言いながら彼が首を舐める。とても苦しくてもう快感を受け止める余地なんてないはずなのに、わたしの力の抜けた身体は未だ目の前の男を求めて自分から口付けた。
箱を開けたい欲に駆られる。彼を知りたかったが、君子危うきに近寄らずだとか、好奇心はなんとかをも殺すだとか、そんな言葉たちが頭に渦巻くのだ。