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銃創にモルヒネ


手慣れた、しかし雑な手つきでわたしの肩の血みどろの傷にどこかから手に入れてきた油っぽい薬を塗りたくり、きつく布を巻く彼。ボロいソファーに横たわったままのわたしは貧血と炎症の熱さにぼうっとする頭でそれを眺めていた。


「たぶん熱が出るぜ」


額にキスをされながらそう言われた。拒否の意を込めて撃たれてない方の腕で彼の肩を力無く押すと、ゴメンゴメンと彼は笑って離れた。時々意味もなくわたしに触れる男だ。


「もーすこしだな。どっかで車かバイクでも盗んで、ラブラブ〜な朝帰りのカップル装ってこの街を出ようぜ。それまで寝ておけよ」


こういう時でもいつもみたいに軽口を叩くところがわたしは結構好きだ。

二人での仕事だった。ミスタの4発目の銃弾を敵のスタンドに跳ね返され、それがわたしの肩を貫通した。最初は撃たれたなんて気がつかず、衝撃で後ろに身体が吹っ飛んだだけだと思っていたアドレナリン出まくりのわたしはすぐに反撃して敵をぶっ殺すことができたのだが、男が地面に倒れ伏す頃に漸く左肩に広がる熱と溢れ出る赤い体液に気がついた。駆け寄ってくるミスタは神妙な面持ちをしていた。

おまえ死ぬだろってくらいのダメージを負っても絶対に死なないこの男によれば、わたしのこの傷は大したことがないらしい。撃たれるのは初めてではなかったが、ほんとかよと思いつつも、未だこの廃屋の窓から外に警戒の目を走らせる男の横顔を眺めた。愛用の銃身の短い回転式拳銃はいつものように彼の両の手で体の一部みたいに握られている。中にあの愉快なスタンドたちも潜んでいるのだろう。あとほんの小一時間で日が昇る。わたしたちはそこで脱出する算段を立てていた。


「ごめんなナマエ」

「……なんで?」


暗い部屋の中で彼がそう呟くように言った。さっきのおでこにキスをした時の軽い感じとは対照的に、そこには少し重たい響きがあるように思えた。もう目を閉じていたわたしはまた瞼を持ち上げて彼を見た。いつも少し冷たく感じられるような彼の無表情がわたしを見下ろす。今日はそうは感じないが。


「わたしのドジだよ」

「おれの弾だ」


どういう類のものかはわからないが、じっと少し離れたこちらを未だ見下ろす彼は負い目を感じているらしかった。
どうしてだろう。自分の弾が結果的に仲間を襲ったことが彼のガンマンとしてのプライドを傷つけたのだろうか。そうだとしたらその言葉を言うべきなのはわたしの方だ。敵の安い挑発に頭に血がのぼって、結果注意力散漫となり跳ね返る銃弾を食らったのはわたしのミスで、恥ずべき落ち度のはずだから。


「ミスタ。こっちに来て」


うわ言のように彼を呼ぶ。身体が熱くなっていくのを感じていた。ブーツで床を踏みしめてわたしの側へ来ると、彼が置いてくれたいくつかの埃臭いクッションに埋もれるわたしのお腹の横あたりの隙間に浅く腰掛ける。背もたれに肘をついて、彼の顔が今度はすぐそばから見下ろす。近くで見てみればその顔はプライドに傷がとか、そういう類のものではなかったと気づく。


「おれはおまえの身体に傷をつけたことを悪いと思う」


背もたれ側の右腕を伸ばして彼の頬に触れた。どうやらわたしは彼を見誤っていたらしい。

きみに罪はない。なに一つとして。そう伝えたかった。ミスタはじっと黒い瞳でわたしを見下ろす。

わたしの身体なんてそれこそ子供のころから物理的にも精神的にも傷跡だらけだというのに、そして荒療治のために服を脱がせた彼はそれを多少なりとも知ったはずだというのに。今更こんな傷が増えたところで、と思うが、しかし彼のそのわたしへ向けられる感情はなんというか、うむ。


「ミスタ。……ありがとうね」


彼に対するわたしの今の感情はそれが全てだった。また少し笑ってくれた彼がわたしの唇に落とすキスを拒む理由は無い。

この男は決して単純に優しい人間ではないが、楽観主義とナイーブな心が一直線上に存在するような、どうにも魅力的な男だ。そういう彼と熱に浮かされた頭で長くキスをしていると、胸の奥から湧き出てくるような、麻薬みたいなものを感じた。相変わらず左肩は酷く痛むけれど、体の熱もどんどん上がっていくけれど、その身のうちに沸く感覚はわたしの何かを麻痺させた。


「おまえが治ったらよォー、うまいもんでも食いに行こうぜ」


頭を撫でられてゆるく笑って彼の顔を見つめる。わたしはそこまでしか覚えていない。
次に目が覚めた時に見たのは、パイプ椅子に座ったままわたしが横たわる病院のベッドに伏せって眠るミスタのかわいい寝顔であった。彼は投げ出されていたわたしの点滴の針が刺さった方の手を握り、むにゃむにゃとわたしの名前を呼んだ。この人と二人美味しいものを食べに行くのは存外楽しみだなと思い、右手で頭を撫でた。