×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
きみを待つブートニエール


大抵目がさめると彼女はベッドの端っこで丸まってオレに背を向けて眠っていた。細っこい腕は何かを恐れるように自分の顔を覆い隠し、両方の脚も縮こまるように折り曲げられている。眠るナマエはまるで胎児みたいな格好をしながら、決まってオレの脱いだシャツを着ているのだ。

なぜ隣にいるこのオレにすがりつかず、その辺に脱ぎ捨てた服を着てこんな風に隠れるように眠るんだろうか。何一つ理解できなかった。体を起こして彼女を覗き込み、腕を掴んでどかしてキスをしようとすればすぐに彼女は眼を覚ました。一瞬警戒の色に染め上がった瞳や表情は相手がオレだと認識するとすぐにいつもの色に戻り、その四肢から力が抜けるのがわかった。そして眼を閉じるとオレのキスを受け入れて、シャツから伸びる滑らかな脚をゆったりと伸ばすと首に柔く抱きついた。

散々セックスをして、互いにぐったりして眠る時、必ず固く彼女を腕に閉じ込めることにしていた。今夜こそはこいつを逃がしはしないと強く思いながら。しかし夜中に目が覚めた時や朝になって起きてみれば、腕の中に彼女の姿は無かった。流石にオレの腕を引き剥がしてベッドから一度抜け出しているともなれば目も覚めそうだが、おそらくナマエはスタンドを使っている。そういう能力をこいつは持っていた。

「わ、寒いから脱がさないで」

「オレのシャツだろ」

二つほどだけ適当に止められたボタンを外しながらそう言えば、彼女はくすぐったいのか笑って軽く抵抗を見せる。それでも掛け違えられたボタンを外すのは簡単なことだ。

「あなたの服、いい匂いするのよ」

「香水だ」

「香水と、タバコと、あなたの身体の匂いがするの。それがねぇ、すごくいい匂いなの」

眼を細めて彼女がそう言った。思わずこちらも少し笑って、シャツの前を開ければスレンダーなのに程よく柔らかな肉を纏った身体を覗かせるかわいい女。暫く見つめあってからふたたび口付けた。

「寒いよ」

「嫌でも熱くなる」

キスの合間に抗議が聞こえたが、さっきから手のひらを滑らせている彼女の肌は既に少しずつ熱を帯び始めていた。
唇を離す頃には彼女の中に指を入れており、口紅が塗られていないのに淡いピンク色をしている唇から猫みたいな声が漏れた。いつも朝一のセックスは互いを早急に求める。はやく、とナマエはオレを急かした。寝てる間に離れていた時間を埋め合うかのように、すぐに彼女の脚の付け根に自分の陰茎をねじこむ。自分から急かしたくせに少し苦しげに呼吸を乱す彼女がオレはかわいかった。

「すげぇ締め付けだな…」

「はあ……あっ…。プロシュート、抱きしめて」

自分から我慢できずにゆるゆると腰を動かすくせに、どうしてか抱擁を求めてくる。どうにもちぐはぐな女だ。強請られるままにベッドと背中の間に腕をいれて抱きしめてやる。そんなオレもオレだろうか。

「いい匂い」

「そりゃあよかったなァ」

そのまま腰を動かせば彼女の吐息に混じった甘い声が耳のすぐそばで聞こえ始める。セックスの時のこいつはかなり素直で自分の欲を隠したりしない。自分の魅力をよく理解し、甘えて強請って、オレをその気にさせるのが誰よりも上手かった。

それだというのに彼女は自分の腹の中の気持ちだとか望みを表に出すのは苦手なようだった。チームの他のメンバーといる時だっていつも嘘っぽい笑顔を浮かべていて、オレが衝動的に強引に抱く時だって文句も言わず受け入れた。
こいつは一体オレに何を求めてセックスをして、普通の恋人みたいに甘えて、朝にはベッドの隅で縮こまって眠っているんだろうか。しわの寄った男物のシャツなんかを着て。考えてみても無駄なことはわかってるが、オレは彼女を知りたかった。その過去も感情も欲するものも、何一つとしてオレは知らない。

少し身体を離すとシャツを着た彼女の腕がシーツに落ちた。紅潮した柔肌を見下ろす。眉間に少ししわをよせて長い睫毛を伏せて、気持ち良さそうにオレが与える快感に身を任せて声を上げている。オレの匂いが染みたぶかぶかなシャツのを腕にひっかけたまま。なんて官能的な光景だろうか。そう思ってるうちに彼女の膣内の締め付けが強くなってくる。

「もうっ、いきたい、プロシュート、あっ…いかせて…ッおねがい」

「わかってる…。良い子だな」

こんなに素直だというのに。おまえはなにを恐れるというんだ。

彼女のいいところをえぐり、下腹部に手を乗せる。少し力を入れて圧迫してやるといつも泣きそうな声を上げて喜んだ。華奢な女の身体のここに、自分のものが隙間なく入ってるっていうのを想像すると、雄としてのくだらねぇ支配欲が満たされる気がした。

ナマエ、お前が望むなら、オレはいつだってお前だけを愛すことができるんだぜ。

ぐったりとシーツに沈む彼女の乱れた髪を撫でた。整えはしない。この方がオレは好きだ。朝日はカーテンの隙間から眩しく彼女の白い肌を照らしている。余韻に浸り閉じられていた睫毛が持ち上がり、こちらをじっと見つめてナマエは笑った。

「…お風呂へつれてってくれる?」

「いいぜ。全部洗ってやる」

相変わらず彼女の肩にひっかかってるシャツで柔らかい身体を包み、抱き上げながら額にキスをした。彼女は子供の様に笑う。
望まれなくても、もうそんなようなものかもしれない。なにかを恐れているのは彼女の方だけではないのだ。